気づかない嫉妬
「まあ、アレクセイ様!とってもお似合いですよ~」
「本当だわ!とてもカッコいいわよアレク~♡」
「えへへ~」
皆さんこんにちわ!レティシアです!
今目の前に、母と世話係のロジーナに新しい服を褒められ、頬を染めながらモジモジしている天使の息子がいます。
新しい服というのは、
もちろんジャージです…。
でも!
今回のジャージはアレクセイ仕様で、私がデザインさせてもらったキッズ用ジャージなのだ。
魔王みたいなダッサいジャージじゃなくて、水色の髪に合うように、黒と青と白を基調にしたデザインなの。
ワンポイントで左胸にアレクの好きなクマのシルエット刺繍もしている。
ていうか2歳のジャージ姿…可愛すぎなんですけど!!
手足みじか!!
いや、2歳にしては手足長い方なんだけど、やっぱり全体的に小さいのでとにかく感想が「可愛い!」しか出てこない。
「アレク!とっても素敵よ」
「えへへ~、あいがと~、ははうえ」
照れ照れしてるのがまた可愛い過ぎる!
完全に親バカだわ私。
「これで爺様と好きなだけ遊べるな、アレク!」
「うん!おじいたま!はやくお庭行こう!」
なぜかアレクとお揃いのジャージを着ているお父様。
ガウデンツィオに来てからすっかりお気に入りなのよね。あの楽チンさに嵌まってしまったら抜けられないからね…。
魔王達も今では両親の前でもすっかりジャージ生活に戻っている。
公式の服は重いし動きにくいし侍従がいないと着れないから面倒くさいんだとか。
もう外交とか人前に出る公式イベントでしか着ないらしい。
ジャージの魅力恐るべし…。
この2年の間にデザインも豊富になって更に売上のばしてるんだとか。初期のデザインはダサかったから、私が少し手を加えさせてもらったのだ。
今ではシルエットもスタイリッシュになり、広告塔の四天王達も初期の頃よりは洗練された雰囲気になった。
魔人とか人型でない彼らについてはシルエットとか関係ないんだけど、魔王軍も一応ジャージを着て外で宣伝代わりに歩いてるらしい。
それはそれでシュールなんだけど・・・。
まあ、それを見て魔族の民もジャージを欲しがっているらしいので、フィギュアの売れ行きにしろ、ジャージにしろ、魔王軍の人気はすごいんだなと改めて実感した。
魔王のグッズも販売したらバカ売れすると思うんだけど、以前いろいろあったらしく、魔王は公式でも限られたイベントにしか顔を出さないらしい。
だから若い世代の民は魔王の顔を知らないんだとか。
その話をしている時、アドラが渋い顔をしていたから混血魔族がらみかな?と思ってそれ以上は聞かなかった。
「おじいたま!ちょうちょ!ちょうちょ!」
「よしアレク!慎重に網を近づけるんだ!」
庭園でお父様とアレクが虫取りをしている。
この世界は木登りとか鬼ごっことか、体を使った子供の遊びはあるんだけど、知育玩具とか、道具を使った遊びが全く無いのよ。
だからザガンとドワーフ達に相談してオモチャを結構作ってもらった。
虫取り網とカゴもその一つ。
あとは積み木とか、ドミノとか、オセロとか、トランプも作ったかな。積み木以外は大人にも好評で、魔王軍の中でも流行っている。
アドラは早速すべてを商品化して売り捌き、これもまたバカ売れらしくてホクホク顔をしていた。
「おじいたま!次ブあンコ!」
「よーし、押してやるからしっかり縄を掴んでおくんだぞ」
「あい!」
そうそう、庭園にある大きな樹木にブランコも作ってもらったの。アレクの一番お気に入りの遊具。
懐かしくて私も乗りたくなったから、2台作って城の人達も自由に使っていいことにしたら、大人にも好評で今では城の人気スポットとなっている。
ブランコ、気持ちいいもんね。しかも樹木のブランコとか、マイナスイオン満載で癒されるしね。
ヴォルフなんて「懐かしすぎる!!」と喜んでアレクと一緒に1時間くらい乗っていたっけ…。
魔王と2歳の子供が目をキラキラさせて延々とブランコ漕いでいる姿は中々のものだったけど、もう城の皆も慣れたのか、誰も動じていなかった。
実はこの事がきっかけで、私は魔族の国に公園を作ったらどうかと提案した。
遊具や公園で複数の子供達と遊ぶのは子供の情操教育にも良いことだし、親にとっても地域のコミュニティ作りに役立つ。
公園の管理をする役職を作れば雇用が生まれるし、子供の遊び場が固定され、管理者がしっかり子供を見守ることで犯罪防止にも繋がる。
子供は未来を担う国の宝だからね。
ただ、人間には良い結果をもたらしても、それが魔族の民にも当てはまるのかが心配なところだった。
種族によっては群れを好まない者達もいるしね。
でも魔王の後押しもあり、その提案は議会で可決され、私は公園設置計画の責任者に抜擢された。
漫画のアシスタントと一介の商人に過ぎなかった私が、国の一大事業に関われるなんて大出世よね。
アレクを育てながら仕事も出来て、私は今、この上ない充実した毎日を過ごせている。
◇◇◇◇
「ふふっ、今日は寝つき良いわね。お父様にいっぱい遊んでもらったから疲れたのねきっと」
庭園で沢山遊んだアレクは、お昼寝の時間になったらいつもは絵本の読み聞かせをねだるのに、今日は数分で寝てしまった。
息子の髪を撫でながら、幸せを感じる。
可愛い息子がいて、見守ってくれる両親がいて、やりがいのある仕事にもつけて、私はとても恵まれていると思う。
「レティシア様、これからまたお仕事あるんですよね?アレク様は私が見ていますよ」
「ありがとう、ロジーナ。じゃあよろしくね」
「はい。お任せください」
ロジーナはアレクの夜泣きが酷い時に新しく雇い入れたアレクのお世話係だ。エマの姪っ子で子供好きらしく、アレクもあっという間にロジーナに懐いた。
そのおかげで私も昼間睡眠をとれるようになり、なんとか乳児期を乗り越えることができたんだよね。
エマとロジーナには感謝しかない。
「さてと、午後のお仕事頑張りますか!」
◇◇◇◇
「………ほんと、可愛らしいこと」
アレクの寝顔を見つめながら、ロジーナが一人ごちる。
その微笑みを誰かが見たら、きっとほとんどの人が顔を青くし、硬直してしまうだろう。
それほどまでに冷徹な笑みだった。
「なんで貴方達みたいな弱い人間族が、魔王様に寵愛されているのかしらね?」
ゆっくりと主が出て行った扉に視線を移し、睨みつける。
「──────ほんと、目障りな女」
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