女神のお告げ② side ユリカ
1話更新が抜けていました。大変申し訳ありません(>人<;)
カサッという音が背後で聞こえ、肩を揺らしたユリカが後ろを振り返ると、木陰にサイモンが立っていた。
振り返ったユリカの顔を見てサイモンはハッとし、急いで駆け寄って彼女の涙を拭う。
「泣かないで、ユリカ・・・。ユリカは頑張ってるよ。俺はちゃんとわかってるから。殿下の言う事は気にしなくていい」
「サイモン・・・っ」
ユリカは彼の胸の中に顔を埋めた。
地位も将来も全て失ったというのに、サイモンは未だ自分を妄信している。
脅迫状の自作自演がバレて以降、エバンスとトリスタンの様子も少しおかしくなった。線を引かれているように感じるのだ。
甘い瞳で見てくるのは変わらないが、何かに葛藤しているのか、以前ほど愛の言葉を贈られることがなくなった。
きっとルイスがバラしたのだ。
疎まれると、ここまで陰湿に相手を追い詰める男だったのかと驚きを隠せない。
本来なら疎まれるのはレティシアのはずなのに、悪役令嬢が消えてしまってから全くシナリオ通りに進まない。
毎日イライラする。
「ユリカ…、好きだ…」
男がユリカを抱きしめながら、ユリカにしか聞こえない音量で愛を囁く。
平民が王太子の婚約者候補に触れるなど、極刑を言い渡されても仕方ないほどの重い罪なのだが、全てを失った男にはそこまで考える余裕はなかった。
「私もよ」
男は自分を見上げた彼女の瞳に魅せられ、頭の中は『彼女が愛しい』という想いだけで埋め尽くされている。
何もわかっていないこの男に呆れてしまうが、ヴォルフと出会うためには彼らの好意を失うわけにはいかない。
逆ハー状態でレティシアを討伐し、神聖魔法を覚醒させて巫女の名を世界に広める。
それしかヴォルフを呼び出す方法はないのだ。
もし失敗したら、サイモンを護衛にしてこの国を出よう。魔族の国に自分が直接出向いてヴォルフと出会えばいい。
ヒロインの自分と出会いさえすれば、ヴォルフルートが始まるのだから。
その為にも、絶対にレティシアを始末しなければ。
◇◇◇◇
翌日、ユリカはルイスに言われた通り、魔物の巣から一番近い村の教会で祈りを捧げた。
ゲーム中の『巫女の祈り』のシーンを再現する為に、薄くなりつつある記憶を掘り起こす。
あのスチルの背景は王都の大聖堂だった。
こんな辺境の村の教会でもあのシーンを再現できるだろうか?
目の前で手を組み、祈りを捧げる。
天から光が降り注ぐように神力のコントロールに全神経を集中させる。
あのスチルほどの神力は出せないが、神秘的な演出で何とかなるだろう。そう考えてユリカは教会の中に小さな光の柱を作り上げた。
周りから息を飲む声が聞こえる。
「やはり神の使い…」
「巫女様…」
と、神官たちが巫女に跪き、頭を下げた。
ルイス達は無言でユリカを見つめている。
ゲームのスチルイベントでは、大聖堂で巫女が女神と対話し、お告げを受けるのだ。
『災いの力を纏った黒き魔女が、貴女を狙っています。気をつけて』
───と。
ユリカは女神に何度も問いかけたが、何の声も聞こえなかった。やはり神力のレベルが足りないからなのかと唇をかむが、取り直して再び祈りを捧げる。
別に、お告げなどなくてもいいのだ。
『作ればいい───』
ユリカは巫女で、レベルが低かろうが神力を扱えるのはこの世界でユリカだけ。唯一の神の巫女なのだ。
今持っている神力を最大限にまで出力する。
薄かった光の柱がどんどん光を帯びていき、その周りの空気はキラキラと細かい星のような光を放っている。
神力が尽きて気を失うだろうが、それはむしろ好都合な演出だ。
あまりの眩しさに周りの者は目を開けていられず、腕で顔を覆った。
「女神様……っ!」
ユリカはそう叫び、その場に倒れた。
「「「ユリカ!!」」」
全員がユリカに駆け寄る。
ルイスはユリカを抱き起し、脈を取って無事を確認した。
薄目を開けたユリカに「大丈夫か!?」と声をかけ、ユリカの意識を覚醒させる。
「……ルイス…様……、私…、女神様のお告げを…今この身に…受けました……」
「女神…?神と対話したというのか?」
「はい……、女神様の声を…聞きました」
「なんと言っていたのだ?」
「……黒き……魔女…」
「黒き魔女?」
「災いの…黒き魔女……、レティシアを討て…と」