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私が守りたい者は




「レティシア」




就寝前、ベビーベッドで寝ているアレクセイを見つめていると、母が子供部屋に入ってきた。




「お母様」


「ちょっと話さない?」


「・・・? はい」




ソファに座るとエマがお茶を入れてくれた。




「レティシア、ルイス殿下の事は、もういいの?」


「・・・? なんの話?」


「彼はこのままいけば廃太子は免れないわ。巫女と結婚する為に王族籍の剥奪まではいかないだろうけど、あの腹黒巫女と結婚した所で彼は幸せになれないでしょうね」



「・・・・・・・・・」



「婚約解消を求めた場で、殿下はレティシアを愛してると言って解消を拒否したわ。その後発狂して倒れてしまったけれど、私達が国を出るまでも、何度もレティシアとの面会を求めて公爵領の邸に来たり、手紙が送られて来たわ。その度にフランツが追い返していたけどね」




ルイスが・・・・・・?

何故・・・?巫女を愛してるんでしょう?



「私はこの目で2人が愛を交わしている所を見たの。そしてルイスは、私より早く出会っていれば巫女を正妃に望んだと言っていたわ・・・っ。だから私は身を引いたのよっ」



またあの場面を思い出して胸が軋む。


吹っ切れたつもりだったけど、刻まれた傷はまだ癒えていないのだと思い知る。

 



「彼は王太子よ。国王と王太子は側妃や妾を取る権利があるわ。そして、アレクセイの父親よ」


「お母様は何が言いたいの!?私に今からルイスの側妃や妾にでもなれと!?」




間近でルイスが巫女を寵愛する姿を見ろというの!?

前世を思い出した今、一夫多妻なんて尚更耐えられない。


耐えて何になるの?嫉妬に狂って中ボスになって討伐される未来しか見えないじゃない!


私が死んだらアレクはどうなるの・・・っ。





「レティシア、落ち着いて。大きな声を出すとアレクが起きてしまうわ・・・。私の言い方が悪かったわね。ごめんなさい」



母が私の頬にハンカチを押し当てる。

どうやら私は泣いているらしい。




「私には、貴方がずっと無理をしているように見えたから心配しているのよ・・・、本当に何も話し合わないまま終わっていいの?後悔しない?浮気の現場を見た後、何も話し合わないまま国を出たんでしょう?もしアレクの事を言えば、貴方が正妃になる道もあるのよ。ジュスティーノ王国の力は今じゃオレガリオ王国にも負けないほどの国力を持っている。後ろ盾のない巫女を教会に預けるなどして遠ざけることもできると思うわ。何せあの国は食料支援がなければ生きていけないのだもの」




──────確かに、そういう道もあるかもしれない。


未練が全くないと言えば嘘になる。何のしがらみもなく、親子3人で暮らせたらどんなに幸せだろうと思う。


でも、その想像の中にいるのは今の彼じゃない。巫女が現れる前の彼だ。



もう私はきっと、ルイスを信用できない。

どんなに愛していても、きっと一生疑う。



母は親子3人で暮らす道もあるのだと言ってくれているのだろう。でもそれはゲームの事を知らないから言えるのだ。




「───お母様に、話したい事があります。何故私が、何も言わずにルイスの前から姿を消したのか。きっと信じられない話でしょう。でも私にとってはそれが真実なの」




そして私は、母に前世の話と乙女ゲームの話をした。シナリオの話を進めるにつれ、困惑したり、悲惨な展開に青くなったり、怒りで赤くなったりと、ゲームの展開に驚いているようだった。






「───つまり・・・レティシアの前世が、巫女と同じ世界の人間だということ?その記憶を、浮気現場を見たショックで思い出したという事?」



母の問いかけに私は頷いた。




「あの現場を見て、あまりの展開の速さに私は怖くなった。きっと私が殺される時期も早まる。アレクも一緒に殺されてしまう。そう思って、居ても立ってもいられずに逃げたの。迷いの森で偶然魔王に出会って、異世界人の知識を買われて、それでガウデンツィオで保護してくれる事になったの」


「そうだったの・・・」


「──────信じてくれるの?」



「信じるわよ。だからこそ必死にアレクを守ってこんな遠い国まで逃げて来たんでしょう?」



なんのためらいもなく「信じる」と言った母の言葉に、再び涙が出そうになる。




「それにいろいろと納得したわ。貴女が私達の知らない所で何に思い悩んでいたのかがわかったし、あの漫画という小説も異世界のものなんでしょう?貴女がオレガリオにいる時には見た事なかったはずの道具を使いこなして、よくわからない単語を魔王様と交わして仕事しているのも不思議で仕方なかったから」



「信じてくれてありがとう。お母様」


「その死亡フラグ?っていうのがある限り、ルイス殿下に近づく事ができないということね?」


「はい」



「その死亡フラグというものがなくなっても、復縁は考えていないのね?」


「考えてないわ。───私はきっと、ルイスの顔を見るたびにあの場面を思い出す。あの時の言葉を思い出す。そしてそれをずっと責めると思う。もう・・・戻りたくても無理なの。一度壊れてしまったものは、もう元に戻らない。それにアレクがルイスの子だと王家にバレたら要らぬ争いの元になる。アレクにはそんなものに縛られず、のびのびと育ってほしい」



「わかったわ。貴女がそう決めたのなら、私はそれを支えるだけよ。私達は貴女とアレクセイに幸せになってもらいたい。ただそれだけなの」




母がそう言って、私を抱きしめた。


もうルイスの為に流す涙なんて枯れてしまったと思っていたのに、また涙が流れ出てしまった。







ごめんね、ルイス。


私はもう、貴方に何もできない。

廃太子になる事が決まっていても、私は助けてあげられない。



巫女の力を覚醒させるために、死ぬなんて御免なの。

だから私は、貴方達の前に現れない。


それが貴方の地位を守る功績となると知っていても。



私が誰よりも守りたいのは、アレクセイだから。








悪役令嬢と王太子が、子供と3人幸せに暮らすエンディングなんて、



どこにもない───。

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