王家の足掻き
「レティシア様、クマがすごいですよ。寝不足では何ごともはかどりません。育児は体力勝負なんですからしっかり休んでください!アレクセイ様は私が見ていますから大丈夫ですよ」
「そうよレティ。ゆっくり休んで疲れをリセットしなさい。私もアレクを見てるわ」
「ありがとうお母様、エマ。じゃあお言葉に甘えて少し寝かせてもらうね」
アレクセイが生まれて半年。
私の育児疲れはピークに達しようとしていた。
アレクは眠りが浅いみたいで、夜は2~3時間おきに泣くので産後まとまった睡眠が取れていなかった。
それでも昼間はこうしてエマ達が手伝ってくれるので、ありがたく昼寝させてもらっている。
それにヴォルフや魔王軍四天王の彼らも、何かとアレクを構ってくれていた。
皆に抱っこされて遊んでもらってるからか、人見知りせず、怖がりもせず、皆に懐いている。
魔王の角を鷲掴みにしたり、アドラの鼻の穴に指を入れたり、ザガンの横流しにした自慢の綺麗な髪にヨダレ垂らしまくったり、ネルガルのピアスを引っ張ったりと、いろいろヤンチャをかましてくれている。
特にケンタウロスの背中に乗るのが大のお気に入りだ。
危なくないように背中に馬具の鞍のようなベビーチェアをザガンが作ってくれて、それに座らせてケンタウロスが歩いてあげるとキャッキャと声を上げて大喜びするのよ。
でも周りはその光景がシュール過ぎて笑いをこらえている。リアルお馬さんごっこだよね。
「デジャブを感じる・・・」と何故かケンタウロスが死んだ魚のような目をしていた。
そんな和やかな日常を送る中、その知らせは来た。
父と母が難しい顔をして私に1通の手紙を差し出す。
「レティシアも読んでおきなさい」
「────ジュスティーノ国王から?」
叔父様から届いた手紙に目を通すと、オレガリオ王国の事についての報告だった。
どうやら私とヴォルフが作った漫画がついにオレガリオ王国にも伝わったらしく、内容が私とユリカの間で起きたトラブルに酷似していると気づいたらしい。
そこであの漫画の作者を調べようとしていたが無理だったようで、国内で最も疑わしいアーレンス公爵家に再び疑惑の目が向けられたのだとか。
私がユリカに嫉妬するあまり、情報を流したのではないかと───。
情報流したっていうか、私本人が話を作ったんだけどね!
しかも嫉妬じゃないし!冤罪かけられた仕返しだしね!
それに人間があの漫画の作者を辿れるわけない。
アドラの魔力でガウデンツィオまで辿りつけないよう細工してあるから、それを見破られるのは魔王が竜族くらいだって言ってたもの。
そして、その漫画やそれを演目にした演劇がオレガリオ王国の市井でも大ヒットしてしまい、収拾つかなくなったそうな。
国民はもちろん、これが自国の巫女をモデルにした逆ざまあ漫画だなんて知る由もない。
でも私達と同時期に学園に通っていた貴族令嬢や子息達が読めば、100%の確率で巫女の話だと気付いたはず。
だからこそ社交界で噂になって巫女の評判が下がっていったのだろう。
業を煮やした王家はアーレンス公爵家に私達の参内を命じたけど、私達親子は旅行に出たまま未だ戻っていない事を知り、隣国ジュスティーノに使者に扮した影を送る。
でも今現在、私達はガウデンツィオにいるので居場所がバレることなく今に至る。
結局、巫女の評判を払拭できなかった王家は、早めにユリカ達を修行の旅に出立させたらしい。
そして議会で半分以上の貴族が第2王子を支持すると宣言された事により、8歳になる第2王子の王太子教育が始まったのだとか。
「───議会はルイスを廃太子にするつもりなのね」
「巫女や側近と共にこれだけの醜聞を晒したんだ。更に我がアーレンス公爵家を晒しものにしたことで多くの貴族が王家に失望した。これは王家の自業自得だ。あと数か月すればアーレンス一族は国を捨てる。国民に罪は無いから食料支援についてはしばらくは継続される予定だが、農地改革などの改善が見られない場合は条件を見直し、支援ではなく貿易という形を取る事になるな。アーレンス一族が亡命した後になれば、陛下も強気な交渉はできなくなり、さぞ困るだろう」
支援ではなく貿易となれば関税がかかるので、それまでのように食糧確保はできなくなるでしょうね。
「あんなクズ、困ろうが知ったこっちゃないわ」
「それもそうだな。あんなクソ野郎は大いに困って毛根が死滅すればいい」
二人の笑みが黒いわ・・・。
陛下の話になると二人とも口悪いし。
「ジュスティーノ国王は、お父様もお母様もしばらくガウデンツィオにいるようにって書いてあるけど、商会の方は大丈夫なの?」
「ああ、ジュスティーノに滞在している魔族達が回してるから大丈夫だろう。私はオレガリオに身バレしないよう元々表には出ていないしな」
「もしお父様が商会にいて魔族と繋がってる事がバレたら、すぐに反逆者扱いされて今までの王家の醜聞を全部アーレンス公爵家のせいにされるわ。ジュスティーノ国王はそれを危惧してるのね」
「まあ、確かにあのクソ陛下ならやりかねんが、彼らは見た目は人にしか見えないから大丈夫だろう。自分らで変身魔法をかけているし、オレガリオの王宮魔法士レベルでは見破るのは無理なんじゃないかな」
魔族の高魔力保持者と、オレガリオ王国の高魔力保持者じゃ雲泥の差だものね。
私はルイスを廃太子にするのではなく、国王を退位させた方がよっぽど国の為だと思うわ。
でも私は魔王討伐を絶対に阻止する予定だから、そうなればルイスと巫女の功績はなくなる。
それ以前に私にはアレクがいるから絶対中ボスになんてならないわ。
そしたら巫女は神聖魔法を習得できない。
願わくば、あの2人が国から出る事なく、魔王討伐を諦め、ただの結婚エンドで終わって欲しい。
私とアレクを巻き込まないで───。
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