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芽生え② side ヴォルフガング





あれからも俺は、暇を見つけてはアイツに体を貸して好き勝手やらせていた。


あの騒動のすぐ後は怖がって一時的にまた引き篭もっていたが、ザガンが急遽作った魔力制御の腕輪をつけるようになってからは、また嬉々として城内をうろつきだした。



特に人型ではない魔人や半人半獣のケンタウロスには過剰に反応して『2次元でしか見たことのないキャラ達が目の前で見れるなんて!』と意味不明な言葉を吐いて目をきらめかせていた。



そして、あろう事かケンタウロスの背中に乗りたいと言い出し、奴を説き伏せて我を通したのだ。



俺を背中に乗せ、執務室内をパカパカと音を鳴らして歩く様は滑稽で、目をキラキラさせて喜んでいたアイツと、死んだ魚のような目をして歩くケンタウロス以外は、途中から堪えきれずに爆笑していた。



なんだ。コイツらも笑ったりするのか。





そんな日々を送るうちに、自然とここにアイツの居場所が出来て、アイツの持つ異世界の知識で国も豊かになっていった。



あの殺伐としてなんの面白味もない魔王城が、今では活気に溢れ、人格が俺の時でも気軽に声をかけてくる者が増えた。



クーデター前でもこんな事はなかったように思う。そもそも俺が城内を歩き回る事自体、殆どなかったかもしれない。




それからアイツの提案で、ジャージなんて物を皆で着るようにもなった。四天王の奴らと同じ服を着るなど、以前では考えられない事だ。


その宣伝効果のおかげか、機能性と斬新なデザインにより、国内外で売れてかなりの収益を上げた。



その事であのアドラが機嫌良く鼻歌を歌っていて、周りに不気味がられていた事にはまた笑った。



少しずつ、皆が変わっていったように思う。



そしていつのまにか、俺が政治を行い、アイツが異世界の知識を使って国の産業を担うようになった。


相変わらず漫画の締め切りがどうのとギャーギャー泣いてうるさいが。



それでも、アイツも今ではそれなりに楽しそうだった。あの時記憶で見たアイツの心情とはまるで違う。







そんな時に、レティシアに出会った。



オレガリオ王国王太子の元婚約者。


オレガリオは魔族や獣人の人身売買に関わっているという噂の国だ。レティシアはその国の高位貴族。



すぐに俺は寝ているレティシアの髪を一本取り、魔鳥に情報を探らせた。高位貴族なら関係者が関わっている可能性があるかもしれない。



それから据え膳で少しつまんだが、それ以降は1度も手を出していない。妊婦に手を出すような趣味はない。



それに、アイツのキレっぷりが凄かったからな。





レティシアが異世界人だと判明した時、アイツの心が揺れた。



この世界に馴染んだようにみえても、自分を異物な存在だと思う事は変わらなかったらしい。1人じゃなかったという事実に心の底から安堵しているようだった。




あっという間にアイツはレティシアに心を開き、楽しそうにしていたからこの女を連れて帰る事にした。


アイツがレティシアを気に入ったのもあるが、魔力制御の腕輪をしていないのに、俺の魔力に何の反応も示さない事に俺自身も興味を持った。


女は俺の魔力のせいですぐに欲情する奴ばかりだったからな。



欲情するどころか俺に手を上げ、威嚇までしてくる奴はレティシアが初めてだった。



そして王太子にまだ心を残し、苦しんでいる。



レティシアから聞いた乙女ゲームという世界の話は、俺も四天王達もにわかには信じられない話だった。



神の巫女とやらも異世界人で、悪知恵が働く人間らしく、冤罪をかけられて王太子を略奪されたとか。


俺からすればそんな陳腐な策略に引っ掛かる男など、レティシアには相応しくないと思うがな。



アイツもそう思っているが、口にしない。

レティシアが傷つくと知っているからだ。



アイツの中で、レティシアの存在が大きくなっている。



俺にも守って欲しいと頼んできた。ゲームの強制力が働けば、必ずレティシアと俺の命が狙われるらしい。


ゲームとやらの話は正直馬鹿馬鹿しいが、オレガリオの背後に混血魔族がいる可能性がある以上、了承するべきだろう。



四天王達にも周知し、レティシアを魔王軍の保護対象とした。

  



それからはアイツだけでなく、レティシアの居場所もいつの間にか出来ていた。


最初は警戒されていた四天王の奴らとも、今ではすっかり打ち解けているように思える。



奴らも見目が良く女が寄っていく方なのだが、レティシアが俺達の前で女を出す事は一切ない。 


だから奴らも気兼ねなく接していられるのだろう。




レティシアが愛しているのは、腹の中にいる子供だけだ。いつも愛おしそうに腹を撫でている。



その横顔は、やはり美しかった。







アイツのものか、俺のものか分からない胸の締め付けに、思わず眉を寄せる。



いつから湧いて出たのか。




あの瞳を自分にも向けて欲しい───。





そんな事を思う日が来るとは。

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