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やっと会えた




その日、魔王城に産声が上がった。




小さな小さな手。


そっと触れると私の指をキュッと握ってくれる。

それだけで涙が出るほどの愛しさが溢れた。




「やっと会えたわね。アレクセイ。愛しい私の子」




私と同じ水色の髪。



でも瞳の色と顔立ちはルイスにそっくりで、久しぶりに見た彼の面影に、少しだけ胸が痛んだ。


それよりも我が子が無事に産まれたことが嬉しい。



こんなにも大事な存在があるなんて、初めて知った。




「何があっても、アレクの事は私がずっと守ってあげるからね」




そう決意を固めて、愛しい我が子の額にキスを送る。



「アレクセイを守るのは貴女だけじゃないわ。私達もいる。貴女もアレクセイも、私達が守るわ」


「お母様・・・っ」


「今日までよく頑張ったわね。出産おめでとう。貴女は私の自慢の娘よ」



「お母様~っ」




母の胸で涙を流す。


アレクセイを産んで、改めて両親の愛を感じた。



「さあさあ、レティシア様。貴女のお父上や魔王様達が廊下で痺れを切らしてお待ちです。アレクセイ様のお顔を見せてあげてくださいな」


「エマ、何から何までありがとう。貴女のおかげで無事に産む事ができたわ」


「よく頑張りましたね」




エマは私の侍女として仕えてくれている魔族だ。水を司る魔族らしい。


魔王軍に何人も子供がいるらしく、乳母の経験もある事から魔王が私付きの侍女にしてくれた。



子供を沢山産んだとは思えないほど妖艶な美女なんだけどね。


魔力の高い魔族は寿命が長くて老化も遅いから、長生きしてても男女共に若くて綺麗な人ばかりなのだ。



「じゃあ魔王様たちをお迎えしますね」




エマが扉を開けるとわらわらと男性陣が入ってきた。


私達を見て父が駆け寄る。




「レティ!ああ・・・っ、よく頑張ったな。お前の痛みに苦しむ声を聞いて胸が引きちぎられる思いだったよ・・・っ、本当に無事に生まれて良かった・・・っ」


「心配してくれてありがとう、お父様。アレクセイよ。抱いてあげて」



恐る恐るアレクを抱き上げ、父は涙を浮かべながら笑みを溢した。アレクもじっと父を見上げている。



「ああ・・・、なんて可愛いんだ。レティと同じ髪色だな」


「瞳の色や顔立ちはルイスに似てるわ」


「そうだな・・・」




ルイスの名前を出した途端、父の眉間に皺が寄る。


父は今も王家を憎んでいるので、彼らの話題になると不機嫌になる。特に陛下の名前を聞くと悪魔も真っ青な邪悪な顔をするしね・・・。



「ふえっ、ふええん!」


「ああほら!貴方が怖い顔するからアレクが怯えちゃったじゃない。アレク~怖いおじいちゃんより私の所においで」



「そんな・・・っ、でも生まれたばかりの時は視力が弱いんじゃなかったか?」


「顔が見えなくても不機嫌オーラはわかるものよ。ねえ~アレク~」



父からアレクを奪い取り、母があやすと泣き止んだ。その様子を見て父がガックリと肩を落としている。



「ちっこいな~」


ケンタウロスが頭上からアレクの顔を覗いている。



「ご出産おめでとうございます。レティシア嬢」


「おめでとう」


「お疲れさん」



魔王軍四天王も次々に祝いと労いの言葉をくれる。



そして、




「レティシア、よく頑張ったな」




魔王も労いの言葉をくれた。


その笑みはとても優しいもので、ホントにこの人が世界を滅ぼすのかな?と未だに疑問しかない。



家を飛び出したあの日、アレクセイの命を守る事に必死だったとはいえ、今考えるとかなり無謀だったと思う。




迷いの森で偶然ヴォルフに出会っていなかったら、私は森を抜けられずにのたれ死んでいた可能性もあったのだ。


こうして皆に見守られながらアレクセイを産めたのは、奇跡だと思う。



全部、ヴォルフと魔王のおかげ。



彼らが私に居場所をくれたから───。





「ありがとう、ヴォルフガング」



心からの感謝を、貴方達に。



「・・・・・・・・・」





感謝を述べたのに、何故か魔王は目を見開いて固まっている。



「?」



何? 私何か間違えた?


初めて見る魔王の反応に狼狽えていると、アレクセイがまた泣き出した。




「ふえええん!ふええん!」


「あらあらアレク、どうしたの?お腹空いたのかしら?」


「じゃあ男性陣には出て行ってもらいましょう」






母とエマに促され、男達は部屋から出された。


私はなるべく自分で育てたいので、乳母に頼らず自分でアレクに母乳を与える。



夜泣きの時はエマに頼るかもしれないけど、なるべくアレクの側にいたい。



「アレク、大好きよ。私を幸せにしてくれてありがとう」



お腹がいっぱいになってウトウトしている愛しい我が子の頬を撫でながら、私は幸せな気持ちに包まれた。

















「魔王様?どうしたんですか?顔赤いですけど。熱でもあるんじゃ?」


「───うるさい、黙れ」


「は?心配しただけなのに何でいきなりキレてんですか!?」



「ケンタウロス・・・、空気を読みなさい。だから貴方は見た目で女性にモテても中身でがっかりされてフラれるんですよ」


「そうだぞ、お前は顔が良いだけで基本脳筋だからな。空気読めない&恋愛の機敏がわからない。モテない男の特徴を2つも兼ね備えてるぞ。危機感を持て」


「でもケンタウロスが空気読める男になったらそれはそれで気持ち悪いよね」



「何で魔王様の体調を心配しただけでディスられんだよ!!」





そんな会話が廊下で繰り広げられ、お父様がその間でオロオロしてげっそり疲れていたなんて事は、


もちろん私達は知らない。

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