表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
35/109

失敗は許されない side ルイス




「殿下、この漫画という小説、僕らも読みました」




王太子の執務室にて、エバンスとトリスタンが例の漫画を手にし、怒りを露わにしている。



「こんなの許せない!ユリカを貶める策略ですよ。今すぐ学園の生徒達を取り調べましょう!」


「そうです!被害者はユリカの方なのに、これじゃユリカの方が悪女として描かれているじゃないですか!これは巫女に対する不敬罪ですよ!」



「2人とも落ち着け。これはあくまで娯楽商品でユリカの事を描いているとは断定できない。設定も何もかもちがうだろう」


「でも学園に通っていた者なら、この話がユリカとレティシア嬢の間に起きた出来事だと邪推します。こんなの名誉毀損だ」




「いや、ユリカの件についてレティシアは冤罪だ。彼女はユリカに何もしていない。我々が教育で学ぶごく当たり前の注意をしただけに過ぎない」


「何・・・を」



エバンスとトリスタンが目を見開き、僕を凝視する。


彼らはユリカを盲信しすぎている。そろそろ現実を見せないと取り返しがつかない。




「殿下!何を言ってるんですか!?まさかまたあの悪女に毒されて!?」


「いい加減にしろトリスタン!!」




僕の怒鳴り声に2人の肩が跳ねる。


恋は盲目とはよく言ったものだ。自分達が今どれだけの窮地に立たされているのかわかっていない。



「その漫画とやらの内容がユリカの事を描いているのだとしたら、ほぼ事実だ。ユリカは罪を捏造してレティシアを貶めた。以前あった脅迫状についても、ユリカの自作自演だ」



「そんな!!」


「嘘だ!ユリカがそんな事をするわけない!」




「王家の影が調べた。国王夫妻も知っている。魔道具に罪を捏造する映像まで証拠としてあるんだぞ?お前達は王家の影が嘘をついていると、ユリカの罪を捏造していると、そう言いたいのか?」


「「・・・!?」」




言外に、王家に対して不敬だと圧をかける。




「お前達は今の自分達の状況がどれだけ危ういかわかっているのか?サイモンの二の舞になりたいのか」


「どういう意味ですか・・・」




エバンスが訝しげにルイスを見る。



サイモンが側近を外され、婚約も破棄され、一般兵になった事はエバンス達も知っている。


子供の頃から共に側近として切磋琢磨してきたサイモンの処分には、彼らも絶句していた。



なのに、何故自分達もそうなるという危機感がないのか。





「君達も先日、それぞれ婚約破棄されたよね」


「はい・・・。でもそれは仕方ないかと。私は彼女を愛せませんから。悪戯に婚約を引き伸ばすのは彼女の為にも良くないと思っていましたので」


「───トリスタンも同じ考えなのか?」


「はい」



「はあ・・・。なるほどね。だから僕らは捨て駒にされるわけだ」


「「は?」」




何も分かっていない彼らに深いため息が出る。



「いいかい?現時点で僕ら全員の婚約が白紙になってしまったという事は、僕らの後ろ盾となるはずだった有力貴族達の支持を半分以上失ったという事なんだよ。それはつまり、僕が国王になる未来が消えてなくなる可能性が出てきたという事だ。当然君達の未来もサイモンのように閉ざされる可能性が高い。高位貴族の嫡男でありながら、貴族の結婚が家同士の繋がりである事を全く理解していないのだからね」



僕の説明に己の今の現状をやっと理解したのか、2人とも顔面蒼白になっている。



「陛下達は影の報告を受けて、ユリカは本当に世界を救う存在なのか疑問を持ち始めている。年の離れた弟の王太子教育も始まった。僕らはユリカを含め、全員がこの修行の旅で成果をあげなければならない。もし何も功績を残せなかった場合、間違いなく切り捨てられるだろうね」



ヒュッと息を呑む音が聞こえる。



何を驚いているのだろうか。以前の君達なら己の立ち位置や情勢など容易く把握出来ていただろうに。

  

恋をしただけで、ここまで分別がなくなるものだろうか?




「殿下も・・・殿下もユリカが巫女である事を疑っているのですか」



エバンスとトリスタンが複雑な表情で問う。



「・・・ああ。レティを無実の罪で貶めたからね。本当に神の使いなら、無実の人間を陥れる非道な行いをするはずがない」


「ユリカを愛していたんじゃないんですか!?だから私達は・・・っ」



2人は悔しそうに拳を握りしめている。




「愛していたと、・・・思っていたよ」


「「・・・?」」



「でもレティシアを失った瞬間、頭が割れるほど痛くなって気を失い、目覚めた時には彼女への想いが消えた。僕は、今までの恋情はユリカが僕に何らかの術をかけていたのではないかと思っている」


「「は?」」



「だって、ユリカと接していない時はこんなにも嫌悪感でいっぱいなのに、彼女に接する時だけ好意が生まれるんだ。おかしくないかい?王宮魔法士に調べさせたり王家の書庫でも調べたけど、なかなか該当する記述がなくてね」



絶対におかしい。今となってはユリカを憎んでいるくらいなのに、彼女が僕に近づくと胸が熱くなり、抗えなくなる。まるで操られているかのように・・・。



「僕は君達にも何らかの術が掛かっていると思っているよ。じゃなきゃ僕の側近がこんな無能なわけがない」



「「・・・・・・っ」」





「僕達にはもう、後がないんだ。サイモンのように破滅したくなければユリカに惑わされるな」




───それは僕にも言えることだけど。




今までにない強い圧をかけると、2人はガクガクと震えだした。


自分の立っている場所が知らぬ間に崩壊寸前で、失敗すれば勘当される可能性が高い事をやっと悟ったらしい。





『ルイスよ・・・。二大公爵と四大侯爵が第二王子を支持すると宣言した。それはつまり、その傘下に入っている貴族達も第二王子を支持しているという事だ。あの巫女と恋仲になり、レティシアを貶め、アーレンス公爵家を追い詰めた事を過半数の貴族達が許していないのだ・・・。お前が王になるには、巫女と2人で魔族を滅ぼし、王家の歴史書通り世界を平和にするしか道はない。結果を出せ、ルイス』

 




父に告げられた言葉───。


元婚約者達の家が僕らに見切りをつけた事で、貴族達の情勢が変わった。




ユリカが失敗すれば、僕は廃太子になるだろう。

今回の旅のメンバーに処分されたサイモンも加わった。


巫女に二度と会わないと親に命令されていたのに、早々に反故にしたらしい。既に廃嫡されていた。



その事もあり、貴族達の中でユリカの評判は下がり続けている。




もう僕らに、失敗は許されない。

面白いと思っていただけたら評価&ブックマークをいただけると励みになります(^^)

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ