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見えない敵 side ユリカ





その劇は、ラスト以外はユリカにとって身に覚えのあるシーンばかりだった。


ラストは王家主催の夜会で主人公が婚約者に冤罪をかけられ、婚約破棄宣言される。



しかし主人公によって逆に罪を暴かれ、浮気相手のヒロインは断罪されて国外追放となる。


そして元婚約者は廃嫡されて平民に落とされ、主人公はドン底の時に支えてくれた男と結ばれるのだ。



そんな逆転ラブストーリーだった。




まるでラストはこうなるのだと、ユリカに脅しをかけるかのように。





「誰がこんな事・・・」

.


この劇は他国で流行っていたモノであり、劇中の人物の身分も違うからユリカの事だとは考えにくい。


でもユリカと同時期に学園に通っていた者が見たら、ユリカの事を重ねてしまってもおかしくない内容だった。



既にこの演劇はチケットが抽選になるほど人気が出ている。




それはつまり、学園にいた者がこの劇を観て、当時のユリカの悪意に気付いた者がいるかもしれないという事だ。


特に敵に回した貴族が観たら、悪い方へ捉えるはず。

そして貴族達に噂を流すだろう。




『劇中の内容が、巫女がレティシアにした仕打ちと酷似している』と。




それは同時にユリカだけでなく、ルイスやエバンス達までも疑心を持たれる事になり、王家の求心力が今以上に下がる危険性があるということだ。




「まずいなコレは・・・。ユリカ、帰るよ」


「はい・・・」




ルイスは青ざめているユリカを支えてロビーに向かう。



すると一角でグッズ販売がされており、その売られている商品にユリカは目を見開いた。




「何でこの世界に漫画があるの!?」


「ユリカ?」




ルイスに漫画を手に入れるように頼んだユリカは、従者が購入してきたソレを帰りの馬車の中で広げる。


間違いなく漫画だった。




「どういう事?私以外にも異世界転移した人がいるって事!?」


「ユリカ落ち着いて。どうしたんだ。この漫画というモノは異世界のモノなのか?」


「そうよ・・・。私の国の娯楽商品。この世界には漫画の文化なんてなかったはずなのに、どうして?誰なのよ私を貶めようとしてる人は!」



体の震えが止まらない。


既にこの漫画が世界的にヒットしてしまっている事に恐怖を覚える。



コレを描いた人物は明らかにユリカを挑発している。

ネタがほとんど事実を元にしているからだ。


誰かがこの漫画のネタ元がユリカだと吹聴したら?



それが世界中に回ってヴォルフの耳に入ったら?




「や、やだ!ルイス様お願い!演劇とこの漫画を販売禁止にしてよ!この国から追い出して!」


「何を言ってるんだユリカっ。そんな事出来るわけないだろう!向こうは正当な商売をしているんだ。それを王家の権力を使って潰せば国民の反感を買うし、それこそこの内容が事実であると認めているようなものだろう!」


「でも・・・っ」



「経験上この場合は手を出さず、別の娯楽を生み出してそちらに民衆の目を逸らすしかない。大丈夫だ、ユリカ。君はもう充分反省しているのだろう?それを理解してくれている人間は沢山いるさ」




嘘つき。と、ユリカは思った。   



ルイスだってこの香水がなければ凍えるような冷たい瞳でユリカを見下ろすに決まっている。


実際他の香水をつけている時はそんな目でユリカを見るのだから。



一度失った信頼は、元に戻らないのだ。







◇◇◇◇




国王の執務室。



漫画を国王に提出し、読んでもらう。


この世界は日本が作った乙女ゲームなので言語は日本語になっており、この世界の住人が漫画を読むのに何の抵抗もなかった。



初めは目新しいモノに興味を惹かれている様子だったが、読み進めるうちに国王の表情が曇り始める。




「何だコレは・・・、途中まで影の報告書にあったことそのままではないか。コレが世界中に出回っているだと!?何という事だ・・・っ」


「やはり、我々と同時期に学園に通っていた貴族が情報を流したのでしょうか?」



「わからん。この漫画の販売元も含めて影に調べさせる。結果によっては早めに旅に出てもらう事になるやもしれん。そうなってもいいように準備しておけ」


「レティシアよ・・・レティシアがやったに決まってる!」



「ユリカ!」


「だって今レティシア達は隣国に旅行に行ってるんでしょ!?当事者なんだからいくらでも情報流せるじゃない!」



「証拠もないのに決めつけるな!」



香水の効果が薄まったのか、もしくはレティシアの話題だからなのか、ルイスのユリカを見る目が厳しいものに変わった。



「それも含めて調べねばな」


「父上!」


「わかっている。私としてもフランツ達をこれ以上無闇に刺激したくない。国際問題に発展しかねないからな」




恐らくフランツ達は王家が醜聞を恐れ、公爵家を盾にして王家の威信を守った事に気づいている。


だからこそ爵位を譲渡し、王都から離れたのだ。



彼らは完全に王家を見放している。


今はただ、レティシアとルイスの婚約解消の条件として結んだ『食糧支援継続の契約書』でしか繋がっていない。



これ以上彼らを貶めればその契約を打ち切られる可能性が出る。国王は何としてもそれだけは避けたかった。






「今回の修行の旅でお前が本当に神の巫女だという事を証明せよ。お前の神力を高める為に莫大な国費が使われている。証明できなければ今まで好き勝手やってきたツケを払わせるからな」


「・・・・・・っ」





国王はユリカを厄介に思い始めていた。


今まで大きな問題もなく国が回っていたのに、ユリカが来てから国が荒れ、問題ばかり起きている。


調べれば調べるほどユリカの腹黒さが顕著になり、神の使いだという事に違和感を覚え始めた。



神の使いとはもっと清らかな者がなるのではないのか。


何かとんでもない間違いを犯しているような気がして、国王は頭を抱えた。











ユリカが懸念していた通り、ユリカと同じ時期に学園に通っていた者達は、あの漫画を制作した原作者の意図に気づいた。


そして当時を思い返し、巫女に対して疑念が生まれる。





徐々に、巫女の仮面が綻び始めた。

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