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悪役令嬢不在の卒業パーティー side ユリカ





「とても綺麗だよ、ユリカ」


「ありがとう、エバンス」






卒業パーティー。



ルイスの髪の色である金色のドレスで着飾ったユリカを、恍惚とした表情で見つめているのはルイスではなくエバンスだった。


本来ならルイスがエスコートするはずが、生徒会長だから忙しいとエスコートを断られてしまったのだ。




エバンスのエスコートで入場したユリカ達は盛大な拍手で迎えられる。


だが、以前のような耳が割れるほどの声援は鳴りを潜めていた。



確実に自分の支持者が減っている事にユリカは焦りを感じる。結局卒業までルイスと絆を深める事は出来なかった。


あの夜にきっぱり拒絶された後、ルイスはユリカと一線を引いて王太子という顔を崩さない。名前で呼ぶことすら拒否されてしまった。



ユリカは未だにルイスの心変わりが理解できていない。


レティシアと婚約解消するまでは、自分を妻にと望んでくれていたのに。



あれから数日後、ルイスが言っていた通り国王からルイスの婚約者候補になったと言われた。


巫女の修行が終わり次第、正式に婚約を発表し、魔王討伐後に婚姻する予定らしい。


だから絶対に討伐して来いと───。




今まではユリカに媚を売っていたのに、自作自演がバレてからは国王達はユリカに冷たくなった。


特に王妃には、命令を無視した事で更に嫌われた。



サイモンはあの後、ユリカに加担した事で側近を外され、後継も弟に変更になり、卒業後は一般兵となる事が決まった。



王妃命令を破ったのだ。


もう一生出世はできない。




ユリカのせいで1人の青年の輝かしい未来が潰れ、ゲームのシナリオが大きく変わっているのだが、当の本人のユリカはそんな事は気にも留めず、ひたすら自分の欲望に従って根回しを進めていく。



処分が下ってもサイモンが自分を愛したままでいるように、言葉巧みに丸め込み、卒業後も会う段取りをつけていた。




エバンスとのダンス中、頭の中はヴォルフガングルート解禁の方法について思考を巡らせる。


目の前で蕩けるような表情で自分を見ている男など視界に入っていない。



ルイスとの結婚フラグは立った。これでルート解禁の条件は満たされるのだろうか。


このまま行けば王太子ルートのハッピーエンドである『王子と結婚』は満たせそうだ。だがルイスの気持ちが伴っていない。この場合はどうなるのだろうか?



絶対に失敗したくない。何がなんでもヴォルフガングに会いたい。彼とエンディングを迎えたいのだ。



「ユリカ?」


「なあに?エバンス」




目の前の男に微笑みながら、ユリカはヴォルフガングへ想いを馳せた。





◇◇◇◇



「生徒会の入場です」



盛大な歓声と共に、ルイスを先頭にした生徒会メンバーが入場し、壇上に上がる。




「卒業生の皆さん、本日は卒業おめでとう。君達と共に学んだ知識や経験、仲間との絆、これら全ては私達が未来で飛躍するための土台となり、ひいては国の発展の礎となるだろう。一人一人が次世代を担い、王家と共にこの国と民を守る同志だと私は思っている。どうか国の為に今後も仲間として、私に力を貸して欲しい」



王太子のスピーチに、拍手と歓声が上がる。



「そして巫女、これから私達は修行の旅に出る事となる。未だ猛威を振るう魔物に怯える民達を、どうか私と一緒に守って欲しい。君の巫女としての力を貸して欲しい」


「はい殿下。精一杯頑張ります」




ゲームのシナリオ通りのスピーチに、ユリカは純真に見える笑顔を浮かべた。












ホールの中央で王太子と巫女がダンスを踊る。




「殿下、陛下から婚約の件聞きました」


「・・・ああ」




ユリカの言葉に、ルイスは貼り付けたような笑みで答える。



「───例え貴方からの寵愛が一時のものだったとしても、私は嬉しい。愛する貴方の妻になれるんですもの」


「・・・・・・っ」




目に涙を溜め、ユリカは嬉しそうに微笑んだ。その表情を見てルイスの顔が歪む。




「何なんだ・・・っ、この香りは・・・っ」




どうやら効果が現れ始めたらしい。


エバンスにお願いして連れて行ってもらった市井の雑貨屋さん。



そこで手に入れる事が出来る好感度アップアイテムを今日は使用している。




ルイス用の香水『ティアラドロップ』。



この香水をつけるとルイスの好感度が50%上がるのだ。かなり高いのだが、エバンスがプレゼントしてくれた。




「殿下・・・、バルコニーで風に当たりませんか?今日は星空が綺麗に見えますよ」


「嫌・・・だ・・・っ」



眉を顰めて抵抗を見せるルイスに、ユリカは内心イラついたが、表の顔は切ない表情を見せ、ルイスの耳元で甘えるような声を出す。




「お願い殿下」




ユリカがより近づいた事で、甘く心地よい香りが強くなり、ルイスの頬が少しだけ赤く染まる。



先程まで歪めていたはずの顔は、今では微笑みを浮かべ、ユリカの腰を引き寄せてバルコニーへと向かう。


外に出れば、真上に光る三日月と満天の星空が天空を彩り、幻想的な世界観を演出していた。




スチルそのままの景色。



その美しい景色の中で、ユリカはルイスの胸に顔を寄せた。もうルイスは抵抗を見せない。それどころか強くユリカを抱きしめ、その甘い香りに酔いしれている。




「ユリカ・・・」


「ルイス様・・・」




ルイスの胸から顔を上げ、切なそうに彼を見上げる。


一瞬ルイスが眉を寄せたが、夜風が吹いてユリカの香りが舞うと、険しい顔がすぐに蕩けた表情に変わり、その手がユリカの頬に触れた。




「ルイス様、好き・・・大好きです」


「ユリカ・・・・・・僕も・・・僕も君が好きだ」






そして2人の顔がゆっくりと近づき、


その唇が重なった。





それは、ゲームの卒業パーティーでレティシアが断罪され、婚約破棄された後、王太子とヒロインが想いを交わすシーンであり、スチルに描かれた光景だった。



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