オタクの快進撃
誤字脱字報告ありがとうございます。とても助かっております(^人^)
「やべぇよレティシア!注文が止まらねえ!売上半端ないんですけど!」
ケンタウロスが新作漫画の売上票を見て震えている。
「僕の作品より売れてる・・・」
「魔王様のだって2番目に売れてるじゃないですか!すごいでしょう!」
「そもそも2作品しか売ってない・・・」
ケンタウロスの後ろでは、ヴォルフが膝を抱えて何やら自信喪失状態になっていた。
「ターゲット層も作品ジャンルも違うんだから売上が違って当たり前でしょう。それに絵はヴォルフが描いたんだからどっちもヴォルフの作品でしょう?」
「そ、そうか。女子ウケする構図をスパルタで叩き込まれた成果が出て何よりだよ・・・」
「今回は新規の国でも売ったから、販路の開拓も大変だったんですよ・・・」
今度はヴォルフとケンタウロスが死んだ魚のような目をして遠くを見つめている。
もう面倒くさいので放っておく事にした。
新作漫画を出すと決めてから、本当に忙しい毎日だった。
プロットについては私の体験談を書くだけだから、捗りまくった。なんなら私怨混じりまくって周りに顔とオーラが怖いと言われたほど。
熱がこもりすぎてうっかり中ボスになっては困るので、気持ちをコントロールするのが大変だった。
そしてケンタウロスが言ったように、今回販路を新規に開拓したのだ。
そう、オレガリオ周辺国の販路をね。
これには隣国ジュスティーノ王国が協力してくれた。
あの周辺ではジュスティーノの経済発展は目覚ましく、販路のコネとしてこれ以上ないほどの後ろ盾になってくれた。
商売は信用が1番だからね。
私の両親には販路開拓とガウデンツィオの商品を売る為に、ジュスティーノで商会を設立してもらうことになった。
早速伯父様であるジュスティーノ国王に手紙を出し、許可が下り次第準備の為に父だけ先に一度帰国することになっている。
そして魔王のおかけで私の出産まで母がこの国に滞在してくれる事になった。とても有難い。
両親の話によると、周辺国から見たオレガリオ王国の評価は下がる一方らしい。
どの国も時代と共に多様性が生まれ、ジュスティーノのように多種族国家へと発展を遂げ、国力を上げている国は増えている。
賢い人間は早々に人間族は非力だと悟り、共存の道を選ぶらしい。適材適所ってやつだよね。
だからこそ魔法と人間至上主義で、巫女に心酔して魔王討伐を掲げている今のオレガリオは、他国から見たら異様に映っている事だろう。
大陸としてみれば魔法を使える種族などいっぱいいるし、その中でも魔族や竜族、エルフ族に比べたらオレガリオ王国の魔法スキルなんて羽虫同然だ。
私もガウデンツィオに来てそれを思い知った。
彼らは無詠唱で上級魔法バンバン使うからね。私からしたら信じられない。唯一肩を並べられるとしたら巫女の使う神聖魔法くらいじゃないだろうか。
まあ、その巫女も性悪だから本当に神聖魔法が使えるようになるのか微妙なとこだけどね。
今回の新作販売により、オレガリオ王国の内情に詳しい人ならネタ元がどこかわかるはず。
オレガリオ王国では販売しないから、彼らの耳に入る頃には周辺国で逆ざまあ漫画が流行している事だろう。
実際に今、注文が殺到しているらしいしね。
どこまで皆がその漫画に巫女を投影してくれるかわからないけど、魔王討伐までの3年間、アーレンス公爵家が受けた色眼鏡で見られる苦しみを味わうがいい!
そして魔王討伐なんかさせない。
ヴォルフガングが守るガウデンツィオは害悪でも何でもなかった。オレガリオ王国の妄想でしかない。
あの乙女ゲームはオレガリオ王国の中だけの話。他国から見れば、時代錯誤な思想を持つ危ない国でしかない。
それくらいゲーム設定と時代の流れが乖離している。
でもルイスは今の国王とは違う。人種や身分で差別される現状を憂いていた。
魔王討伐の日が来るまでに、彼が情勢を変えて討伐を思いとどまってくれるといいのだけれど・・・。
「レティシア」
「何?」
落ち込むのに飽きたのか、ヴォルフが話しかけてきた。
「プロット全部読んだんだけど、あれって事実を元にしてるんだよね?という事はレティシアの体験を描いてるんだよね?」
「そうよ」
「大丈夫?」
「何が?」
「────制作中、なんか少し辛そうだったから・・・」
「・・・・・・・・・」
正直に言えば、しんどかった。
プロット起こすために記憶を細かく辿った事により、追体験してしまったのだ。
ルイスに裏切られた時の、二人の様子をまた思い出して泣きそうになったし。
でも、作品にぶつけた事でスッキリしているのも事実。
私は戦うと決めたのだ。
ゲームの強制力だからと悪役令嬢やその家族が虐げられる展開を、ただ受け入れるだけの人生なんて嫌だ。
私は何も悪い事はしていない。無実だもの。
もし巫女達と対峙することになっても、私は負けるつもりはない。子供と魔族の国を守る為に、私も戦う。
強制力なんかに屈したりしない。絶対生き延びて曾孫の顔を拝めるほど長生きしてやるんだから!
「大丈夫よ。私負けないから」
決意を固めて悪役令嬢らしく不敵な笑みを浮かべると、ヴォルフが目を見開き、その後苦笑した。
「意地っ張りだなぁ。──わかったよ。でも無理だけはしないでね。子供の為にもしっかり休んで」
「ありがとう。遠慮なくお言葉に甘えます」
「守るから」
「え?」
ヴォルフが急に真剣な顔をして私を見た。
「僕も、魔王も、魔王軍の皆も、今はレティシアの事をガウデンツィオの民だと認めているよ。だからレティシアの事は僕らが守るよ。ゲームのように討伐なんかさせない。絶対に死なせないから」
その決意の籠った強い眼差しに、鼻の奥がツンと痛む。
一緒にゲームの強制力と戦うと言ってくれているのだ。自分もラスボスで危険な立場なのは変わらないのに。
でも、魔王が仲間なんて百人力ね。
「ありがとう、ヴォルフ」
その後、ヴォルフの漫画は数カ国で女性を中心に大流行し、舞台の演目になるほどの人気を博した。
新作漫画の相乗効果でヴォルフの1作目の作品も女性に読まれるようになり、売上が倍増したのだ。
そしてついにその逆ざまあ漫画の存在が、オレガリオ王国にも知れ渡ることになる。
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