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運命に抗う② side ルイス






天まで届く光の柱から神々しく地上に舞い降りたユリカを、誰が疑うのか。



現に国民全員がユリカを神秘の存在として崇めているではないか。そんな神の存在に最も近い巫女が犯罪を犯すなど、誰が思う?


貴族に冤罪をかけて陥れるという大罪を、巫女が犯すなんて、きっと誰も思わない。





「・・・ふっ」



言い訳ばかり並べて己を正当化しようとする自分に反吐がでる。


僕の自嘲にビクッと体を震わせたユリカが、目に涙を浮かべ、縋るような目で僕を見ていた。




以前はこの顔を見ると抱きしめたくてたまらなくなった。彼女の涙を拭って、触れたくてたまらなくなった。



あの瞬時に込み上げる強い感情は何だったのだろう。




今は嫌悪しか湧かない。


こんな媚びるような顔の裏で、彼女はレティや学園の生徒達を貶めていたのだから。




「近々、王命で君と僕の婚約が決まる。僕らは魔王を倒して、ユリカが本物の巫女だと証明しなければならない」


「証明って?そんな事しなくても私は巫女で間違いないわ!女神に召喚された所を皆見てたじゃない!」


「うん、見てたよ」


「じゃあどうして──」


「見たのは召喚されたところだけね」




ユリカの反論に被せ気味に答える。



そうだよ。ユリカ。

君は現状召喚されただけなんだ。


こうなった以上、王家としてはそれだけでは困るんだよ。




「召喚されて君がした事と言えば、君の気に入らない人間を陥れて排除した事だけ。巫女としての功績は何も残していないんだよ。それがどういう事かわかるかい?」


「な・・・何が・・・」



「君はこの国の約半分近くの貴族を敵に回したんだ。だから君が正義なのだと世に知らしめないといけない。修行に出て増加した魔物を倒し、魔王討伐は絶対に成功させなければならなくなった。失敗は許されない。君は自分で自分のハードルを高く上げてしまったんだよ」



言外に、学園でのいじめ騒動も真相を知っているかのように匂わせた。


ユリカがその場にへたり込む。




「王命だからね、君が当初望んでいた通り婚約者になるよ。────だけど、もう僕が君を愛する事はない」




自分の視線も声も、とても冷たいモノになっているだろう。


ユリカはそんな僕を見て「ルイス様酷い・・・っ」と泣きじゃくっている。


その嗚咽が聞こえたのか、サイモンが勢いよく部屋に入ってきた。




「ユリカ!」



サイモンはそのまま床にへたり込んでいるユリカに駆け寄り、その体を支える。



なるほど。ユリカがここにいる原因はサイモンか。




「ルイス・・・っ、ユリカに何をしたんだ!」



側近という立場を忘れてサイモンが僕を睨みつけた。




「金輪際、私の名を気安く呼ぶな」


「・・・・・・っ!?」




サイモンの目が見開かれる。


ここまで来て何も気づかない、何の疑問も持たない彼に失望する。少し前の自分もこんな愚かな醜態を晒していたんだろう。



だからレティシアは僕を見限った。



───きっと、全てに失望したのだろう。




「王妃命令により、巫女はこの王太子宮には出入り禁止のはずだ。その命令に逆らって巫女をここに寄越したのが側近のお前とはな。残念だよ、サイモン」


「あ・・・、そ、それ・・・は」



王妃命令を強調した事で、サイモンの顔から血の気が引き、何か言おうとはくはくと口を動かしているが言葉が出てこない。





「殿下!!ご無事ですか!?」



慌てたように見回りの護衛達が数名部屋に入ってきた。床で項垂れているユリカとサイモンを見て驚いている。



「見張りの者はどうしたんだ?」


「それが・・・何者かに眠らされたようで全員床に倒れているのを発見し、我々がこちらに来た次第です」




「サイモン・・・愚かな・・・っ」



やっと自分のした事を自覚したのか、ガタガタと体を震わせて頭を抱えている。





「巫女を部屋まで連れていけ。サイモンはお前達にまかせる」


「「「御意」」」




「ルイス!どうして!?こんなのおかしい!シナリオと違う!貴方は私の事好きだったじゃない!何でよ!」




シナリオとは何の事だ?




護衛に連行されながら、僕に縋るように伸ばしたユリカの手を、僕は取らなかった。




本性を知った以上、


もうユリカに惑わされたりしない。




今後は国のために最善を尽くす。








────そう思っていたのに、


どんなに抗っても、運命は僕を絡め取ろうとしていた。

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