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罠に掛かった男




「いだい・・・っ、いだいよぉぉ~、誰か助けてえ・・・っ、死ぬぅぅ」



奥から何とも情けない嘆きが聞こえる。でもここは迷いの森で危険な場所。


ただでさえ夜は魔物の活動が活発なのに、こんなに騒いだらすぐに魔物に喰われてしまうわ。助けなきゃ!




「貴方大丈夫!?どこにいるのかしら」


「人の声・・・!?ここ!ここです!お願いです!だずげで下ざい~!」



暗闇の中で目を凝らすと茂みの上に揺れ動く手が若干見えた。


急いで駆けつけて状況を見ると、彼はどうやら冒険者が仕掛けた魔物捕獲用の罠に足をかけてしまったらしく、足首から血を流している。



鋭い鉤爪が食い込んでいるので、恐らく骨が砕けているだろう。



「痛いよぉ~っ」



男はあまりの激痛に涙を流して震えている。




「ちょっと待ってて!すぐに取ってあげる」



私は腕に強化魔法をかけてトラバサミの罠を開いて壊し、彼の足に治癒魔法をかけた。




「これで大丈夫よ」


「・・・・・・す・・・すごい・・・治った・・・、治癒魔法なんて初めて見た・・・」



「それで、貴方はどうしてこんな所に───」



顔を上げて男を見ると、思いのほか顔が至近距離で言葉を失った。


何故ならその男の容姿は人間離れした美しさで、整った顔のパーツに白磁の肌、そして腰まで流れる艶やかな漆黒の髪。



そして頭頂部あたりから生える山羊のような2本の角。一目で目の前の男が魔族だと分かる。




でも、私が驚いたのは男の美しさでも、魔族という種族を初めて見たからでもない。







目の前の男が、魔王だったからだ。






「魔王!?何故!?」


「え・・・?あ、僕の事知ってるんですか?おかしいな、顔出しNGで世間に公表してないのになぁ」





ちょっと待って待って待って待って~!!



私は目の前のあまりな光景に、厳しい妃教育を受けたにも関わらず白目を剥きそうになった。




どうして世紀の魔王が、こんな所にいるの?


というか、魔王のクセに何で弱小クラスの魔物を捕獲するトラバサミに引っ掛かって泣いてるの?



そして!!その着てる服!






何故にあずき色ジャージ・・・・・・。





魔王がジャージって・・・。




え?神の巫女達、


あずき色ジャージ着た魔王と戦うの?




なんてシュールな戦いだよ。 


おかしいな。あの乙女ゲーム、ギャグ要素なかったはずなんだけど・・・。



乙女ゲームの設定崩壊が激し過ぎないか!?




これは確信というか、ほほ正解に違いない。




多分魔王も転生者。



だって顔出しNGとか日本人しか言わない単語言ったもの。そしてあずき色ジャージ着てる時点で日本人丸出し。



スチル映えするいい男なのに、絵面が残念過ぎる・・・。





「おかしいなぁ。貴女とどこかでお会いしましたっけ?」




クールなヤンデレキャラのはずの絶世美男子が、首を傾げて曇りなき眼で見つめてくる攻撃力を想像して欲しい。




邪悪な魔王のクセに!


ピュアか!!






「もしかして・・・・・・、貴方も転生者?」



私は彼にいきなり確信をついた。その言葉に彼の目がどんどん見開いていく。




「転生・・・?え?・・・その単語が出るという事は、・・・・・・・・・貴女も・・・?」


「ええ。私は昨夜前世を思い出したばかりなのだけど。──ところで貴方はここがどこの世界か知って・・・」



転生あるある話をしようと思ったら、突然目の前の男が滂沱の涙を流して泣き出した。




「え?」



「ううううっ、同じ日本人に会えるなんて・・・っ、もうずっと昔に諦めてたのに・・・っ、うれじい・・・っ。やっぱり僕と同じように転生してきた人がいたんだっ、会えて嬉じい・・・っ。ずっとこの世界で1人だと思ってたから・・・っ」




切長の美しいルビーのような瞳から、ポロポロと涙を溢してこちらに縋るような視線を向ける絶世美男子の破壊力を想像して欲しい。




庇護欲を刺激して、


母性本能を鷲掴みする気か!!





悪魔・・・。




魔王ならぬ小悪魔がここいる・・・。

しかも天然ぽい。


ユリカみたいなあざとさが全く感じられない。



もしや魔王の方が王道ヒロインではないか?こっちの方がタチ悪いかもしれない。



もし魔王の中身が神の巫女に入っていたら完全敗北なのも止むなし。とちょっと思っちゃうじゃないの!




魔王の方が庇護欲そそるヒロインの才能に溢れてるって

どんな乙女ゲームだよ・・・。





「とにかく、いつまでも地べたに座ってないで立ちましょう。足の他に痛い所はない?」



私は彼に手を差し出して助け起こす。




「大丈夫です。貴女が治してくれたから。あ、そういえばちゃんとお礼言ってなかった。助けてくれてありがとうございます!」



彼はお礼と同時にガバッと頭を下げ、「魔王がそんな!!面を上げて下さい!」と慌てる私を見ると、ふにゃりと無防備に笑った。




「・・・・・・・・・」






・・・・・・・・・・・・・・これのどこが魔王なのだろうか。

邪悪さが一切感じられない。魔王の威厳が行方不明。



トラバサミに引っ掛かって泣いてる奴が、世界を滅ぼすとは到底思えないんだけど・・・。



ていうかむしろそれ、世間に公表しちゃいけないヤツ。

『記憶にございません』て隠蔽しなきゃいけないヤツ。





───ゲーム画面では見た事のない魔王の屈託のない笑顔に、うっかり悶えてしまったゲームの元ファンの私は悪く無いと思う。





ファン心だから浮気じゃないし。


そもそも、もうルイスは私の事愛してないし。




「・・・・・・・・・・・・」



そんなツッコミをしたら、自分で傷付いてまた現実に戻された。





そうだ。こんな所で時間食ってる場合じゃない。


早く国境越えなくちゃ。





王家に見つかって殺される前に。

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