悪役令嬢、仕返しを企てる
「レティ・・・!?」
「何ですレティシア、その言葉使いは!」
「お母様!私はもう貴族ではありません。国を出た時点で平民になりました。もう言葉使いなど気にせず自由に生きていいと思ってます」
「そ・・・それはそうだけど・・・」
ユリカめ。
私だけならともかく、お父様とお母様まで苦しめるなんて許せないわ・・・っ。
この世界は現実で、リセットの効くゲームじゃないのよ?
何で平気で一線超えられるの?
神の巫女なら気に入らない人間を潰す為に罪を捏造しても許されるの!?
どういうつもりなのよ女神は!
「あったま来た!!このままやられっぱなしじゃ私の気が済みません!!」
「気が済まないって、もう私たちは国を出たのよ?どうしようもないわよ。それに捨てた国で私達がどう言われようがもうどうでもいいわ」
「私もそんな事はどうでもいいです。私が言っているのは、神の巫女が罪を犯しているのに調査もされず、許されている今の状況がおかしいと皆に気付いて欲しい。だから私は仕返ししてやるわ」
あんな心も腹の中も真っ黒なユリカが、巫女に相応しいとは思えない。
女神の見る目の無さにはガッカリだわ。
「仕返しって・・・何をするつもりなの?貴女はもう母親なのよ?危ない事はしないでちょうだい」
「そうだぞ。もうあの国に関わるのはやめるんだ」
「直接あの国に何かするわけではありません。私はこの魔王城で商売をするだけです」
「商売?」
両親は何の話かさっぱりわからないという顔をしている。
実はヴォルフの漫画のアシスタントを始めてから創作意欲が膨らんでいるのだ。
ヴォルフは人種差別という社会問題を漫画を通して他国に訴えかけ、意識を変えさせる為に活動している。それで更に利益まで得られているんだから一石二鳥よね。
私もやる価値はあると思うの。
それで仕返しになるかはやってみないとわからないけれど、巫女のメッキが剥がれるきっかけにはなるかもしれない。
だって学園には巫女を支持しないまともな貴族もいたもの。
彼らの声を多数派に傾けてあげれば国王だって今まで通り振る舞えなくなるわ。
ふふふ。見てなさい性悪女。
せいぜい今のうちに男に媚びまくっていればいいわ。
ほくそ笑んでいる私を見て両親が若干引いてたけど、私はワクワクしすぎてそれどころではなかった。
◇◇◇◇
「たのもーー!!」
バン!と音を立てて魔王の執務室を訪ねる。
「レティシア!?どうしたの?ご両親と何かあった?」
「あら、今はヴォルフなの?ちょうど良かった!貴方に話があるのよ」
「レティシア嬢、貴女最近調子に乗りすぎでは?ここは国王の執務室ですよ。本来なら不敬罪で首を切られても仕方ないと言うのに、貴女という人は───」
「国王様とアドラ様に儲け話を持ってきました!」
「聞きましょう」
アドラのネチネチした嫌味が始まりそうだったので、それを遮って儲け話をチラつかせた。
案の定目を光らせて食いつく。
アドラはお金大好きだもんね。
「ヴォルフ聞いて!新作の漫画を出さない?プロットは私が作るわ!」
「新作・・・?」
「今の漫画は社会派の内容だから、どちらかというと大人の男性向けよね?新作はターゲットを女性にするの。若い女性から貴婦人まで幅広く読めるストーリーにすれば売り上げは2倍、ううん、女性は購買意欲が高くて流行り物が好きだから、利益は何倍にも膨れ上がるはず」
「利益が何倍にも・・・」
アドラの目が再び光を放つ。
「でも僕、今の漫画で手一杯でこれ以上描くの無理だよ・・・」
「それなんだけど、制作を分業にしたらどうかしら?」
「分業?」
「そう。細かい微調整が必要で魔法による自動化が無理なら、人力と数で何とかするしかないでしょ。ペン入れ担当とか、ベタ塗り担当とか、作業を細分化するのよ。それなら漫画の知識がなくても出来るはず。絵の描けない私だってベタ塗りや消しゴムかけ出来るのよ。手先の器用な人を集めればすぐに覚えるでしょう」
「なるほど・・・。忙しすぎてそこまで考える暇なかったな。転生者にしかわからないっていう先入観もあったし・・・」
「それならすぐに魔王軍の中から手先の器用な者を見繕って訓練させておきましょう」
新たなビジネスチャンスだからアドラが随分乗り気だわ。何気にジャージ素材と漫画は貿易の売り上げでは2トップらしいからね。
国庫が潤って内政に力を入れる事が出来る様になり、治安が良くなってきたと以前ヴォルフから聞いた。
新作が当たればこの国にも貢献できるし、不安定だった私の立場も盤石になるはず!
公爵令嬢だった私だからわかる。
この新作のストーリーは絶対に社交界で噂になるわ。
それに異世界の目新しい漫画要素が加わるのよ。
この世界の女性は絶対食いつくはず。
「それで、レティシアはもう新作のプロットができてるの?」
「まだこれからだけど、頭の中に既にまとまってるから後は書き出すだけね」
「どんな話?」
「女性ターゲットなんだから恋愛話に決まってるじゃない。でもただのお綺麗な恋愛漫画じゃないわ」
「というと?」
アドラも食い気味に話に加わってくる。
「事実を元にした、逆ざまあ漫画よ」
ユリカの希望に応えて、悪女になってあげる。
権力を振りかざし、直接手を下さず周りを動かし、巫女を貶める・・・だったかしら?
お望み通り遠いこの国から、貴女の真っ黒な腹の中を世に知らしめてあげる。
オタクの力を思い知るがいい!
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