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ゲームの強制力




ガウデンツィオに来て数週間が経った。


私は今何をしているのかというと、




「レティシア、これベタ塗りお願い!」


「了解です」




魔王の漫画のアシスタントをしております。


いつも締切ギリギリなので何とかしてくれとケンタウロスに頼まれ、プロット段階から私も関わり、制作の手伝いをしている。



もちろんちゃんとお給料もらえる予定。



漫画の知識がある事で転生者だと信用され、魔王四天王も今ではすっかり警戒体制を解いてくれた。オタク万歳。


体調悪い時は休んでいいって言ってもらえてるし、3食出るし、優良な職場で大満足です。



まさか乙女ゲームの世界で漫画制作に携わるとは思わなかったけどね・・・。



「ストーリーは多種族パーティの冒険談なのね。人種差別のテーマを取り上げてるんだ。結構社会派な話なのね。しかも話がリアルだわ」




オレガリオ王国の貴族でこういう差別主義の奴ウジャウジャいるわ。


私とルイスはそういう腹黒い人間を見るたびに自国の貴族達に幻滅していた。



だからルイスが即位した時にはそういう考えを改めさせて、国民が身分で虐げられる事がない世の中にしたいって、2人でよく話してたっけ・・・。



もう私がルイスの隣に並び立つ事は無くなってしまったけれど、それはちゃんと実現してほしいな・・・。




「──実はこれ、8割がた実話なんだよ。差別意識が高いのは大体人間なんだけどね。現状を知って偏見や意識を変えてもらいたくて描いてるんだ。やっぱり漫画の方が皆の心に訴えるものがあるみたい。数カ国で売ってるけど、おかげ様で売れ行き好調だよ。ガウデンツィオの大きな収入源だ」



まあ、この世界に漫画の文化ないものね。


売り手が一社で買い手が無限にいるならチート級に儲かるでしょうよ。



「それにしてもアナログ制作キツくない?ジャージよりパソコン開発した方が良いのでは?」


「作り方知らないから無理だよ。この紙やペンだって僕の日本での記憶を頼りに錬金術師のザガンが作ってくれたんだから」



なるほど。構造を知らないとダメってことか。



「じゃあこのベタ塗りとかを魔法で自動化するとか?」


「それも既に試した。でも髪の毛とか繊細な部分が上手く塗れなくてダメだったんだよ。自動化出来たのは印刷だけかな。転写魔法編み出したはいいけど、漫画の注文数がすごくて魔力不足に陥っちゃってねぇ・・・」


「魔法があってもうまくいかないもんなのね・・・」





そんな会話をしながら作業を進めていると、宰相のアドラがトレイを持ってこちらにやってくる。



「お二人とも今お時間よろしいですか?」


「うん、どうしたの?」



「こちらを」




アドラはトレイから1通の書状をとり、魔王に手渡した。



「手紙?」




魔王は受け取ると封を切って読み始める。だが読み進めるうちに何やら難しい顔をして考え込んでしまった。



しばらく停止した後、その手紙を私の前に差し出す。




「え?」


「読んでいいよ。レティシアの事が書いてある」




え!?


もう居場所がバレたの!?



嘘でしょ・・・早すぎない?

まさか追手に気づかれてた?



身柄を引き渡せとか言われてるのかしら・・・




震える手で手紙を受け取り、恐る恐る中身に目を通した。




その書状は私の伯父であるジュスティーノ国王からのもので、私がガウデンツィオに保護されているかを確かめる内容と、もし私がガウデンツィオにいるなら両親と私を面会させてやって欲しいというお願いが記されていた。



「お父様とお母様に・・・?」




ジュスティーノを通したという事は居場所がバレたのは公爵家にだけ?


私を連れ戻して、そのままルイスと結婚させる気なの?



そんなの絶対嫌よ。

巫女とルイスは私の死亡フラグなんだから!




「いやよ・・・会いたくないわ。せっかく死亡フラグ折ったのに、またフラグ立つような事したくない」


「レティシア・・・」



「それは難しい話ですね」


「え?」



「ジュスティーノとは少なからず交流を持っています。そしてその書状は貴方の両親からではなく、国王が直々に送ってきている。つまり国同士の交渉を求められているんですよ。外交が絡んでいるので貴女の一存では決められない。もし対応を間違ってジュスティーノにいる魔族達が何らかの被害を負った時、貴女はその責任を負えるのですか?」


「・・・・・・っ」


「アドラ!そんな言い方しなくても・・・っ」



「他国の者を保護するという事は、国際問題を抱える事と同義なのですよヴォルフ様。対応を間違えれば魔族の民を危険に晒す。国王ならそのリスクに思い至らねばなりません」


「それは・・・・・・でも・・・っ、レティシアは僕を助けてくれた恩人なんだよ」




ヴォルフが辛そうに顔を歪めた。


私のせいで、魔族の民と私との板挟みになって困っている。




「わかったわ。我儘言ってごめんなさい・・・。この国の方針に従います」


「レティシア!」


「いいのよヴォルフ。他国の王太子の婚約者だった女なんて厄介者でしかないって少し考えればわかることなのに、すっかり立場を忘れてしまっていたわ」





自分が死にたくないからって、何の関係もない魔族の民を犠牲にしていいわけない。




国を出た事でゲームの強制力から逃れられたと思ってたのに、結局こうして舞台に引き戻されようとしている。





ここはどこまでも、ヒロインに優しい世界なんだろう。




悪役令嬢が何したっていうのよ。何もしてないじゃない。

何かする前に国を出てきたのに。



ルイスを愛してただけなのに。




奪われて酷い事されたのはこっちなのに、何故殺されなくてはならないの。





女神は酷い。


大好きだった乙女ゲームが嫌いになりそうだ。

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