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不穏な噂 side 公爵家



婚約解消から数週間が経っていた。



フランツは現在妻と共に領地に帰り、領地経営を手伝ってくれていた従兄弟の子爵に爵位を譲渡する手続きを進めていた。



「君が後を引き継いでくれて助かるよ。でも、本当に良かったのか?爵位など返上して君も一緒に亡命してもいいんだぞ?」


「いや、皆が一斉に居なくなったら王家が怪しむでしょう。私は妻を早くに亡くし、子供も既に隣国に嫁いで身軽ですから、時間稼ぎ役に尽力しますよ」




他の親族は国民の巫女崇拝の現状を見兼ねて亡命を希望した。


王太子と恋仲と噂のある巫女を崇拝する事は、領主であるアーレンス公爵やその一族への不敬になりかねない行為だ。



その事に領民達は気づいていない。



他の領民ならまだしも、アーレンス領の民だけは巫女を支持してはダメだったのだ。


領主の娘が王太子の婚約者だった事は領民達は知っている。それにも関わらず支持するということは、領主の娘を侮っているのと同意なのだから。



今まで自分達の暮らしを守る為に尽力した領主に対し、そんな背信行為を悪びれもなく取っている領民に辟易し、一族は彼らの為に働く気力を無くした。




「一度私が爵位欲しさに引き継いだと見せ、頃合いを見て能力不足と体調不良で爵位返上しますよ。親族達の爵位返上への同意書は既にもらってますしね」


「手間をかけさせてすまないな」



「いえ、私も幼い頃からよく知っているレティシアに対して、王家の手のひら返したような仕打ちには腹が立ちますからね。同じ娘を持つ親として許せないのは理解できますよ」


「ありがとう。心強いよ」




「それと────、王都で不穏な噂が流れているというのは本当ですか?」


「───ああ。王家は隣国からの食糧支援に影響があるのを恐れて公式に認めてはいないが、人の口に戸は建てられないからな」





先日、王都のタウンハウスにいる執事から王都でおかしな噂が流れていると報告を受けた。



王宮で保護されている巫女に脅迫状が届き、その差出人がレティシアだと噂になっているらしい。




「どうも脅迫状の内容が、ルイス殿下を奪われた事による恨み言が書かれていて、巫女が差出人は元婚約者であるレティシアに違いないと周りに涙ながらに言いふらしているらしいぞ」



「その巫女・・・胡散臭いですね。本当に神の使いですか?明らかにレティシアに冤罪かけているじゃないですか。周りに隠しているとはいえ、レティシアはこの国にいないのだから脅迫しようがない」


「そうだな。だが周りの使用人達や、王宮に出入りする機会の多い高位貴族なんかは巫女を崇拝している奴らが多い。だからこんなにも早く噂が出回っているんだろう」



既に社交界では噂に尾ひれがつき、学園にいた頃から巫女がレティシアに酷いイジメを受け、それを王子達が守っていたという美談が流れていた。



今ではレティシアは社交界の中で稀代の悪女などと言われている。



どれも事実無根であるが、王家が介入しないという事は、その美談を定着させたいからだろう。



自ら手を下さずともアーレンス公爵家が貶められていく状況に、裏でほくそ笑んでいる陛下の姿が目に浮かぶようだった。


周りが勝手に噂しているだけならこちらが王家に苦情を申し立てた所で意味はない。



公爵家の立場が悪くなるだけ。



その分だけ隣国に付け入る隙ができるのだ。





「前王の時はまだ国民に寄り添った政策を取っていた分マシだったんですがね・・・」


「そうだな・・・」





今の王家は戦争でも起こしたいのか、軍事費に予算を注ぎ込んでいる。


長年下に見ていた隣国ジュスティーノが目覚ましい経済発展を遂げて豊かな国となり、周辺諸国に一目置かれているのが我慢ならないのだろう。



だからこそ己の武器である魔法の力を他国に示そうとしているのだろうが、それで内政が乱れるなど本末転倒だ。


既に食糧難という問題が発生しているのに目を背け、人質を取ったかのように他国から買い叩いて賄うなど、為政者のする事ではない。




「噂、このままにしていていいんですか?」


「名誉挽回した所でまた新しい噂が立つだけだ。そんな無駄な事に力を注ぐよりさっさと国を捨てて亡命した方が良い。捨てると決めた国でどれだけ悪評が立とうがどうでもいいしな。王都のタウンハウスも近いうちに売りに出す。噂に耐えかねて領地に引き篭もった事にすればこちらも動きやすいだろう?」


「なるほど、噂を逆に利用するのですか」



「ああ。既にスカーレットは社交界での噂に心を病んだフリをして王宮への参内を断っているよ。永遠に断り続けてやると言っていた」



「ハハッ、スカーレット様らしいですね。なら私も噂を利用して無能アピールをしておきましょう。それなら全ての準備が整った時、爵位返上の手続きも滞りなく出来そうですから」


「すまないな。向こうでの君の住む環境は整えておく。後の事は頼んだよ」


「お任せください」




それからしばらくして、フランツは社交界での噂に憔悴しているかのような姿を周りに見せ、白々しい国王の同情を受けながら爵位譲渡の手続きを済ませた。


国王に今後の進退を聞かれたフランツは、しばらく家族で隣国に療養しに行くこと。公爵家の当主交代により食糧支援の窓口が変更になる為、契約書の更新をしてもらいに行く旨を話した。



契約には隣国の大使であるスカーレットが関わっている為、国王は何の疑いも持たずに国外に出る許可を出した。





コレで彼らが亡命し、二度と国に戻らない事になるとも知らずに。



そしてこの結果は、ユリカが講じた策も潰す事になった。




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