影の報告 side 公爵家
「申し訳ありません、スカーレット様。お嬢様は迷いの森の中に入り、魔族の者と姿を消しました」
「は?どういうこと!?」
影の報告を受けたスカーレットは一瞬驚いて固まってしまったが、すぐにレティシアの意図を汲み取り、こめかみに手を当てて大きなため息をついた。
「追手に魔力残滓を追われないように森を抜けて国境を越えようとしたのね。妊婦なのに何考えているのと言いたい所だけど、王太子の婚約者として騎士団に顔が知られているレティシアが堂々と検問所を通れるわけないものね・・・。それで?貴方がここにいるということは、その魔族に心当たりはあるのよね!?」
「お嬢様が罠に嵌まっていた魔族を助け、その者とだいぶ打ち解けていた様子でした。特に殺気は感じられなかった為、一定の距離を空けて監視をしていたんですが、どうやら相手が上級魔法の使い手だったらしく、転移魔法で二人を見失ってしまいました。申し訳ありません」
「魔族で上級魔法・・・、ガウデンツィオの者かしら?」
「恐らく。夜目でハッキリとは見えませんでしたが、変わった服を着ていたので魔王軍の者だと思われます」
「魔王軍・・・。それなら上級魔法を使えて当然ね。ガウデンツィオだなんて随分遠いわね──。申し訳ないけど今からガウデンツィオに向かってくれる?あと2人くらい連れて行っていいから定期的に報告してちょうだい。ジュスティーノ王国からもガウデンツィオに問い合わせてみるわ。魔王軍と交渉できそうだったらすぐに知らせる」
「わかりました」
誰もいなくなった部屋で、スカーレットは再びため息をつく。
「よりによってオレガリオの敵とされてる魔族と接触するなんて、何を考えているのあの子は・・・っ」
娘が心配で落ち着かない。
昔から選民意識の高いオレガリオ王国では、魔族は厄災の象徴、獣人は野蛮で低能な生き物として言い伝えられ、魔物の存在も魔族が使役していると信じて疑わない。
多種族が住まうこの大陸の中で、魔法を使える人間こそが至上の種族だというのが今の国王の考えなのだ。
母国ジュスティーノでは移民を受け入れている多種族国家だ。その中には獣人や魔族も少なからず存在している。
母国のように、多種族と外交をこなしている国では魔王はあくまでガウデンツィオの国王であり、魔族は高い魔力を有する者達でしかない。
エルフ族や竜族などの希少種族と同等とされる存在である。
しかしこの国で魔族は絶対悪なのだ。
レティシアやジュスティーノ王国が魔族と繋がりがあると王家の耳に入れば、アーレンス公爵家が反逆者として捕らえられる可能性が高い。
そしてそれを餌に母国に無理難題をふっかけて自分達に有利な条件で支援に応じさせようとするはず。
あのずる賢い陛下のことだ。
公爵家の弱みを握るために間違いなく探りをいれてくる。
そうなる前に、必ず亡命を果たすとスカーレットは誓った。
影は魔族に殺気は感じられなかったと言っていた。
それならレティシアは魔王軍に保護されている可能性が高い。
スカーレットはそう結論づけ、翌日すぐに母国の国王である兄に手紙を書き、使者を送った。
「レティシア・・・、迎えに行くまでどうか無事でいて」
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