迷いの森で無双
「ふざけんじゃないわよ!!あの浮気男ーーー!!」
私の心の叫びに、木々に止まっていた鳥達が夜空へ羽ばたいていく。
皆さんこんばんは。レティシア・アーレンスです!
いえ、もう公爵家を出たのでただのレティシアですね。
今私はどこにいるのかというと、この国で最も危険と言われている国境沿いの『迷いの森』に来ています。
何故迷いの森が危険なのか。
それはですね、
魔物がウジャウジャいるからです!!
『ヴオオオオオ』という地を這うような唸り声と地響きと共に、私の背後から熊の大型魔物が襲い掛かってくる。
鋭く大きな爪で私の体を抉ろうとするが、私は瞬時に光魔法で半円の結界を張り、自分の体を覆った。
結界に攻撃を遮られた魔物は見るからにイラついて、牙と歯茎をむき出しにして怒気を放つ。
「何よ、お腹空いてるからって八つ当たりする気?こちとら昨日婚約者の浮気現場目撃してね、私の方がイラついてんのよ!!絡んでくるんじゃないわよクソ熊がーーー!!エクスプロード≪爆発≫!!」
私は両手を前にかざし、火属性の魔法を放って魔物の体を爆発で木っ端みじんにした。
「あースッキリした。妊娠初期はストレスは大敵って侍女が言ってたわ。早く国境を抜けて宿を探さなくちゃ」
◇◇◇◇
ルイスの浮気現場を目撃した後、私は前世の記憶を思い出した。
名前とか細かい事までは思い出せていないけど、私は日本人で、漫画とゲームをこよなく愛し、二次創作を楽しむいわゆるオタク女子大生というやつだった。
私は原作担当で、他に作画担当、グラフィック担当の3人で活動し、ネットでもコミケでも新作出すたびに完売して結構売れていたのを覚えている。
印刷所の締切前はいつも戦場で、絵は描けないけど仕上げの手伝いをよくしていたのだ。
最期の記憶も確か作画担当の子の家で締切前の追い込みをしていて、2日連続徹夜して何とか締切に間に合わせ、寝不足のまま帰宅しようと仲間の家を出たところで記憶が途切れている。
多分、その帰り道に私は死んだのだろう。
徹夜による寝不足が祟って事故にあったのか、倒れて病にでもなったのか、死因は全く覚えていないのだけど。
でも死の間際まで制作していた作品は覚えている。
当時流行ってたファンタジーRPG携帯ゲームと、乙女ゲームの2作品。
そして驚く事なかれ。なんとこの世界、その乙女ゲームの世界なんです!
『イケメン恋愛RPG~悠久なる愛を君に~』というゲームは、異世界転移してきたユリカ扮する神の巫女が、神力を高めるために攻略対象者と修行をしたり、魔王討伐の旅に出て真実の愛を育んだり、RPGと恋愛が融合したようなゲームだったのでドハマりしたのよね。
そして私が生まれ変わったのが悪役令嬢のレティシア・アーレンス。
王太子ルートで登場する当て馬役で、婚約破棄の原因となった神の巫女へ恨みを募らせ、魔王の魔力に当てられて闇落ちし、中ボスとなって巫女の命を狙うのだ。
そして最期はルイスと神の巫女に討伐される。
前世で早死にして、純潔捧げた婚約者に浮気されて、あげくにまた早死にするキャラに転生とかツイてなさすぎるんですけど!!
私は前世で何か悪行を重ねたのだろうか?
そして我が婚約者のルイス王太子殿下は、この乙女ゲームの人気キャラランキングで1位だったんですよ!びっくりよね!
そんな人気ランキング1位のルイス王太子殿下、レティシア目線から見たらただの浮気野郎≪クズ≫だった!
やってらんないわよね。10年も厳しい妃教育に耐えて、体まで捧げて尽くしたっていうのに、浮気かましてくれましたよルイスさん!!
そりゃレティシア怒るよね。神の巫女恨むよね。だってお腹にルイスの子がいるんだもの!
R18ゲームじゃなかったから知らなかった裏事情。
あのクソ王子、レティシアの純潔奪っておいて、しかも妊娠までさせておいて、『王命によるただの護衛だよ。世界平和のためだよ。浮気してないよ』風を装っていながら私室でがっつり浮気してんじゃん!!
その上、神の巫女が王太子ルートに入った今、3か月後の卒業パーティで巫女を虐めたとして断罪され、婚約破棄されるのよ?
しかもそれ冤罪だから!
前世思い出す前のレティシア、巫女を虐めてなんていなかった。ルイスに言われて注意するのやめたもの。何なら見かけるたびに睨まれたのこっちだし!!
それなのにレティシアが断罪されるとか、めっちゃルイスと巫女に悪意で陥れられてるじゃん!どっちが悪役!?
愛した男にそんな仕打ちされたらそりゃレティシア絶望して闇落ちするよ。恨んで中ボス化もするよ。
前にユリカが言ってた『中ボスキャラのくせに』って多分この事よね?
つまりユリカもこのゲームをプレイしていて、私と同じ時代から異世界転移してきたことになる。
だからこんなに早くルイスを攻略できたんだわ。
なんかゲームのヒロインと違って全然あざとくて性格悪かったんですけど!!
あのゲームの主人公ってプレイヤーが自由にアバターを作れるから外見も名前も自由に変えられるんだよね。だから召喚されたのがたまたまユリカだっただけで、彼女じゃなきゃいけない理由はないはず。
なのにあの『この世界は私のためにあるのよ』的な振る舞いができるって凄いな。逆ハーでも狙っているんだろうか?そんなエンディングなかったけど。
あんな清純の皮をかぶった性悪女に騙されるなんて、王子のくせに何してんのよ!
とまあ、こんな感じでレティシアへの理不尽な仕打ちに前世の私が荒ぶっているんだけど、もちろん今のレティシアの人格もちゃんとあるわけで・・・
「ふ・・・っ、うううぅ~っ」
早く国境を越えなくちゃいけないのに、視界が滲んで歩きづらい。
前世を取り戻しても、現実はそんなすぐに想いを切り替える事はできない。
だって18年分のレティシアの記憶があるんだもの。ルイスと共に過ごした時間がちゃんと残っているんだもの。
「どうしてよ・・・っ、ルイスっ」
そんな感傷に浸ってる私を狙ってさっきから四方八方に魔物が襲いかかってくるけれど、全部片っ端から爆発してやった。
転生チートなのか、元々のレティシアのスキルなのかわからないけど、私は全属性の魔法が使える。
唯一使えないのは神聖魔法くらいだろうか。
あの魔法を使えるのは神の巫女であるユリカだけだ。
ホントはこの魔法だって、ルイスの隣に王妃として並び立つ為に頑張って練習したのに。
こんな所で無闇やたらに爆発させる為に頑張ったんじゃないのに。
─────愛してたのに、
「ルイスの・・・・・・ルイスのバカ野──」
「ぎゃああああああああーーー!!痛い痛い痛い痛いーー!!」
私の心の叫びは、情けない男の絶叫に掻き消された。
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