魔族の国 ガウデンツィオへ亡命
───ていうかさ、二重人格ってどういうこと?
転生失敗してるってこと?
それとも魔王の自我が強すぎて人格の融合ができなかったとか?
私はどちらかというと前世の自分の方が濃く出ていると思う。前世の人格にレティシアの記憶が流れ込んできた感じだ。
でもそれは、実は私もレティシアの記憶を共有してるだけで、人格が入れ替わる可能性があるってこと?
今はルイスと巫女のあの現場を見てショックで打ちひしがれているだけで、私もヴォルフガングと同じように二重人格の可能性があるのだろうか・・・?
あ~もう魔族の設定崩壊が酷すぎてわけわからん!!
実は結構前から言いたかったんだけど、女神様・・・何してんの?
女神様の采配じゃないのコレ?
少なくともゲームのシナリオでは女神が異世界から巫女を呼び寄せた事になってる。
でもユリカといい、御曹司といい、人選ミス酷くないか?
こんな事思ったら罰当たるかな・・・?
「お前、オレガリオ王国から逃げたいのだろう?だったら俺の国に来たらいい。お前に居場所を与えてやる」
「え?」
「逃してやるって言ってんだよ」
突然の申し出に頭が働かず、すぐに返事が返せない。
逃げる?魔族の国に?
いずれこの大陸全ての国と戦争を起こす魔族の国に?
そんなのレティシアの正規(中ボス)ルートまっしぐらじゃない!!反逆者として殺されるじゃん!
「お断りします」
「何故だ?」
「死にたくないんで」
「死なせねぇよ」
「死ぬの!魔族の国に行ったら自国に反逆者にされて中ボスになって、神の巫女と王子に剣で刺されて死ぬの!」
そんな事させない。中ボスになんかならない。
私は子供と2人で穏やかに暮らしたいのよ。
誰が好んでトラブルメーカーの元に行くもんですか!
「お前は馬鹿か?」
「何ですって?」
呆れた目で私を見下ろし、あからさまにため息をつく魔王についカッとなってしまう。
「異世界人とやらは揃いも揃って脳みそが平和ボケしてるんだな。お前のような小娘が腹に子を抱えて1人国を出て、無事に生きて行けると思っているのか?断言してやる。絶対に無理だ。ぬくぬくと公爵家で育ったお前がいくら異世界人の知恵があるとはいえ、国を出れば数ヶ月で屍となるだろう。この世界はお前らがいた世界より残酷な世界だ」
「私はほとんどの属性が使える魔法使いよ!舐めないでちょうだい。この迷いの森の魔物にだって負けやしないわ」
「それがどうした。お前程度の魔法使いなど大陸中にいくらでもいるが?そもそも人間族など、この大陸に存在する種族の中で最弱クラスと言っていいくらいだ。この森の深層部にいる魔物にはお前など数秒持たずに食われるさ。羽虫程度の魔物を倒したところで何の自慢にもならん。国を出たら大口叩くのは止めておくんだな。お前が恥かくだけだ」
「・・・・・・・・・っ」
悔しい。
私の今までの血の滲むような努力が大した事ないと言われているようで腹が立って仕方ない。
全てはルイスの為、王妃となって国を守る為だと年相応の楽しみや親との触れ合いの時間を全て捨てて妃教育に務めてきたのに・・・。
でもそれは、自国レベルでの話。
きっと魔王には私の実力はお見通しなのだろう。
1000年以上生きているのだ。この大陸にある全ての国の情勢を詳しく知っているはず。
その上で、オレガリオ王国は・・・、私は大した事のない魔法使いだと言われている。
周辺諸国に比べたらオレガリオ王国の国土は小さく、魔法に長けていなければすぐに何処かの国の属国とされているだろう。
自国で指折りの実力者と称されていたとしても、結局大陸という括りで見れば、オレガリオ王国は国力では大した事ないのだ。
井の中の蛙と言いたいわけね───。
私が悔しくて歯を噛み締めていると、魔王が私に近づいて髪を一房取り、その髪に口付けた。
そして口付けたまま、私を上目遣いで見上げてフッと微笑む。
「その反抗的な目、良いな。調教したくなる」
「・・・・・・!?」
何!?何のつもり!?
私は咄嗟のことに掴まれた髪を取り返す。
「全く、この俺にそんなつれない態度取る女はお前くらいだぞ」
「無闇やたらに色気振り撒かないでよ!この歩く18禁め!」
「歩くじゅうはちきん・・・?なんだそれは?」
あ、動揺し過ぎてうっかり日本語ワード出してしまった。
「何でもないです!」
まさか魔王に『お前の存在が卑猥だ』なんて言えるわけない。
意味を教えたらニヤリとして18禁ルートが開きそうな気がするからその手の話題は絶対してなるものか。
「まあいいだろう。とにかく俺の国に来い。俺ならお前をオレガリオ王国からも、他の魔の手からも守ってやれるぞ?その腹の子と一緒にな」
───────お腹の子と、一緒に・・・?
思わずお腹を見下ろして手を当てる。
魔王が、私と子供を守ってくれるの・・・?
戦争起こす張本人が?
ゲームの中の最大のバッドエンドは、魔王が大陸ごと滅ぼして魔族以外の種族を全て滅亡させてしまうのだ。
言ってみれば魔王が1番危険な存在なのである。
でも私はそこではたと気づいた。
────あれ?
魔族以外が滅ぶという事は、魔族は生き残る?
そしたら魔族の国にいた方が安全?
箱入り御曹司の手によって、魔族はかなりキャラ崩壊を起こしている。
魔王軍がジャージを開発してる時点でゲームのシナリオからかなり脱線しているし、私も転生者だから中ボスにならない選択は可能なはず。
それに、魔王と私が出会ってる時点でもうシナリオが狂っている。ゲーム内では魔王の魔力に当てられて中ボス化するけれど、本人同士は会った事はないのだ。
その前にレティシアが神の巫女達に討たれるから。
でも私は序盤で逃げ出した。神の巫女も虐めてない。そして魔王に出会って国を出ようとしている。
もうゲームは破綻しているのでは?
魔族の国に行って出産したら、育児でますます中ボスになってる暇などないだろう。
この先起こるかもしれない戦争は、私が魔王を止めればいいわ。箱入り御曹司の方なら説得できそうだし。
私は子供と2人で穏やかに、健やかに過ごせればそれでいい。ルイスを取り戻そうなんて思わない。
ルイスは私にとって死亡フラグだ。
だからお腹の子を守る為に逃げる事を選択した。
まだ完全にルイスへの想いが断ち切れなくて辛いけど、ユリカに心を移した彼よりも私はお腹の子の命を取る。
絶対に死んでたまるか!
「おい、レティシア。どうするんだ。俺と来るのか、このまま1人で森を出て野垂れ死ぬか、早く選べ」
「行きます!魔族の国に行かせてもらいます!」
こうして私は、魔族の国に亡命することになった。
握り拳を掲げて気合いを入れる私の後ろ姿を眺めながら、魔王が不敵な笑みをこぼしているとも知らずに───。
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