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旅立ち①




あの戦争から13年の時が流れた。



私は途中でストップしていた公園設置計画を再開し、今は国中の至るところに公園で遊ぶ子供達の姿が見られるようになった。


そして国の未来を作る子供達の教育に力を入れるべきだと、魔王と共に議会で皆を説き伏せた。


実力主義の弱肉強食の文化は否定はしない。でもそれを政治に適用するのはやっぱり違うと思う。



国のトップに立つ為に、誰にも負けない武力を持つのは悪いことではない。でもそれだけではダメなのだ。


力とは別に、国を想う強い気持ちと、政治に明るい頭脳と手腕を持ち合わせていなくていけない。


為政者はそういう者でなければ良き治世を行えないのだ。



その辺りは日本の知識を得た魔王はよくわかっていた。今までの慣例は捨てなくてはならないと。



だから軍人と文官を育てる学校を国内に建設した。


識字率を高め、将来魔王城で働ける優秀な人材を育てる為だ。


教材も魔王がイラストを描いて図説を入れたりと凝った作りにしたのが好評で、既に成人している大人達にも広がり、今では他国の学校でも教材として使われていたりする。



それからオタクグッズが一つの産業となりつつある。


以前、私とヴォルフの漫画制作のアシスタントで鍛えられた者達がプロに育ち、独自に作品を作ったり、アシスタント育成に努めたりした成果が実り、ガウデンツィオでの漫画産業がこの10年で飛躍的に成長した。


私は更なる発展を遂げるために、ガウデンツィオは漫画発祥の地だと各国に公表し、オタクグッズを売る店をオープン。


今では世界各国の漫画ファン達が観光でガウデンツィオに訪れ、オタク談義に花を咲かせている。



そしてジャージ産業も順調で、騎士や軍人の訓練に使われたり、馬乗りや狩りなど、とにかく体を動かす事に適した機能性が評価され、販売経路はずっと右肩上がりで広がっている。


売上をもう少し上げるなら、まだこの世界に存在していないスポーツの文化を作ってしまったらどうか?と魔王と計画しているところ。


競技場を作って観戦できるようにすれば、それもまた産業の一つになるし、民達の活気がよくなるしね。



そんな感じで、私達は内政に大忙しだった。





それからオレガリオ王国の方は、私達が戦争をしている最中に王宮の広場で前国王が公開処刑され、数日首を民達に晒された後に処分された。


前国王が犯した罪の詳細は、復興支援の条約を結んでいる3カ国との契約により、ルイスによって近隣諸国に公開され、その残忍な犯行に各国を震撼させた。



そしてガウデンツィオでの戦争で魔王達が混血魔族に勝利した事で、一連の事件ではアデリーヌ達が悪でガウデンツィオは人身売買の被害者だと各国に伝わる事となった。


当然オレガリオは外交問題に大きく影響し、ルイスはマイナスからのスタートで来る日も来る日も公務に追われる事になる。


側近候補だったエバンス達はルイスの信頼を失ったことで王宮を出され、立ち入り禁止処分とされた事で勘当を言い渡された。


そして代わりに父親が爵位を後継者に譲り、愚息の責任を取る形で復興支援に努める事となった。




お互いに国内の情勢が落ち着いた頃、魔王がアレクに頼まれてオレガリオのルイスの執務室とガウデンツィオを転移魔法陣で繋ぎ、アレクが自由にルイスの元へ行けるようにしてくれた。


魔力認証を施しているから、その転移魔法陣はアレクしか使えない。つまりルイスはその魔法陣を使ってガウデンツィオに来ることはできない仕様になっている。



だからルイスとはもう13年くらい会っていない。手紙でたまにお互いの近況報告はしているけどね。


今ではオレガリオもガウデンツィオのお得意さんだから、いろんな商品を買ってくれて有難い限りです。


そしてルイスは、既に成人した弟に王位を譲って公爵を賜り、陛下の補佐兼、農地改革の責任者として働いている。



あれから兄弟力を合わせ、何とか以前のように国が回るようになってきた。10年くらいかかってしまったけれど、前国王があれだけの事をやらかした後なんだから、むしろ早めに国を立て直せた方ではないだろうか。


今では食物の国内生産率も上がって隣国の支援を減らしつつあると、ジュスティーノ王国にいるお父様達から聞いた。






◇◇◇◇




「母上」



「アレク!準備はもう終わったの?」


「はい。もう荷物は父上の邸に送ったので、後は身一つでオレガリオに行くだけです」



「そう。いよいよ、行ってしまうのね。寂しくなるわ・・・」


「転移すればすぐ会えるじゃないですか。俺も定期的に帰ってきますよ?魔法や戦闘の訓練は魔王軍でした方が実践的でレベル高いですからね」



「そこは寂しがる母に会いに帰るって言いなさいよ、もうっ。―――――ルイスによろしくね」


「はい」




笑顔で答えるアレクは15歳になり、本当に昔のルイスにそっくりで、何だか懐かしい気持ちになる。



アレクに父親の存在を教えたのは、ルイスが王位を譲渡して公爵になった時だった。


それまでもアレクは定期的にオレガリオに遊びに行っていたので、ルイスの事を打ち明けても驚かなかった。



なんなら、「知ってました。ていうか顔そっくりなんで」なんて言われてしまった。まあ、そうだよね。髪の色が違うだけで、ホントにそっくりだもの。


アレクに隠しきれる事でもないから、私がシングルマザーになった経緯をユリカや魅了の件も含めて正直に話した。


その時は流石にアレクは顔を顰めてしまったけれど……。


そして、『そういう事ですか。――――父上はバカですね』と苦笑いしていた。




ルイスは未だ独身らしい。


『今後も結婚するつもりはない。可愛い息子がいればそれでいい』と言っているんだとか。



15歳になったアレクは、今日オレガリオに旅立つ。


ルイスの後継者として、人脈を作る為に向こうの学園に入学するのだ。ゆくゆくは公爵を継いで王宮魔法士として働きたいらしい。



アレクの実力なら筆頭王宮魔法士になれるそうだ。


私の血を濃く受け継いで神聖魔法以外の全属性の魔法が使えるし、小さい頃から四天王達に鍛えられているのでかなり強いと思う。



アレクから、ルイスの後を継ぎたいと言われた時は本当にびっくりした。アレクを手放すなんて考えられなくて最初は反対したんだけど、アレクの意思は固かった。



『俺、母上と父上が育った国で暮らしてみたいんだ。それにオレガリオの魔族に対する偏見も払拭したい。魔族は決して危険な存在なんかじゃないってことを、ガウデンツィオで育った俺が、皆に伝えたい』





小さかったアレクは、いつの間にか私の背を追い越して逞しく育ち、


自分の将来を見据え、歩きだそうとしていた。



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