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失くせない者 side ヴォルフガング

誤字脱字報告ありがとうございます。とっても助かります(>人<)



記憶で見たヴォルフの生き様が、弟によく似ていた。



本妻の子で、抑圧された環境の中で神経すり減らしながら生きていた事も、純粋過ぎて傷つきやすい所も、周りに利用され続けて誰も信用出来ないでいる事も、助けてと声をあげられず、痛みも寂しさも貼り付けたような笑みで隠す所も───、




「───アイツは、イグレシアスに似ている」




だから消せなかった。


罪滅ぼしのつもりだったのかもしれない。

ただ自分が楽になりたいだけの自己満足だ。




横目に、この話題で体を揺らしたレティシアが見えた。






「・・・・・・ずっと聞きたかったんだけど、聞いていい?」



掠れた、震える声が聞こえる。


隣に視線を移すと、顔を歪めて泣きそうな顔でこちらを見上げるレティシアがいた。





「───私が目覚めてからずっと、違和感があった。・・・・・・・・・ヴォルフは・・・ヴォルフは消えてないよね?」


「・・・・・・・・・」


「いるよね?貴方の中にいるのよね?」





「──────アイツは・・・」














◇◇◇◇

   




時は遡り───、




「魔王様!魔王様!しっかりして下さい!!」





意識が薄れる中、アドラの声が聞こえる。



これはマズイ。


───と、本能的にそう思った。


これは普通の毒ではない。自分はあと数日で死ぬだろう。



そう悟った時に、最初に脳裏に浮かんだのはアイツの存在。



心の内で、アイツに呼びかける。




『おい、…おい!聞こえてるか!?』


『…………魔王…くる…しい…、痛い…よ、何これ?』




自分の中でアイツの存在が揺らいでいるのがわかる。


未だにどういう原理でコイツの人格が俺の中に入っているのかわからないが、本来は存在するはずのないコイツが俺の中で異物なのは変わりない。



当然、命の危険に晒された時、コイツに危機的状況を乗り越える力は無いだろう。


何故なら異世界人は俺と共存していても、俺の一部ではない。俺の計り知れぬ力が働いているだけで、その領域に触れない事で消滅を防ぐ事ができても、コイツに直接何かできるわけではない。



その壁を超える領域の力を、俺は持っていない。


ただ人格を明け渡し、会話ができるだけだ。




つまり、この毒でアイツの領域が侵されて消滅しかかっても、俺は手が出せないという事だ。



『おい!ヴォルフ!気をしっかり持て。アドラ達が何か対策を取るだろう。それまで耐えろ』


『無理…だよ…、もう…疲れた。苦しいし…何となく、自分の存在が薄れている気が…する…』


『だからそれを何とか耐えろと言ってんだ!お前にはまだやりたい事があるのだろう!漫画とやらもまだ最後まで描いてないだろうが!お前の知識はこの国の発展に必要なものだ。消えることは許さん』


『無茶言わないでよ…、僕に…この状況をどうにかする力なんか…ない…』



『レティシアに会えなくてもいいのか!』


『………っ』



『…消えたら、レティシアにもアレクにも会えなくなるんだぞ。お前はアイツらを愛してるんだろう?だったら耐えろ』


『魔王…だって…、レティシアを…愛してるじゃないか』


『………』


『何で僕が…魔王の体の中に入ってるのかわからないけど…、元々僕はいるはずのない存在だから…、もし消えたとしても……元の魔王に戻る…だけ…だよ…』




アイツの気配がだんだん薄れていく。


このままでは本当にマズイ…っ。


どうすればいい!どうすれば今度こそ救える?



侵入を許されない領域に手を伸ばそうとしても弾かれる。目の前でアイツが消えかかっているというのに、魔王である俺の力が及ばない。



『レティシア達を…よろしくね…』


『ダメだ!レティシアはお前を必要としてる。消えたらアイツは泣くぞ。惚れた女を泣かす気か!?根性で生き残れ甘ったれが!』


『ははっ…、無茶言わないでよ…僕は…魔王みたいに強くないんだから……。ああ…、でも……やっと楽になってきたかも……もう…眠い…や』


『ヴォルフ!!』


『あり・・・がと・・・、魔・・・王。・・・僕、ここでの生活・・・皆と・・・暮らせ、て・・・楽しかっ・・・た・・・』





誰か教えてくれ。

どうやったら失わずに済むんだ。



コイツは俺にとっても必要なヤツなんだ。

コイツがいるから俺は一人じゃなくなった。


いつのまにか側にいるのが当たり前になった。



もうあの時のように失うのは嫌なんだ――――。






『それにしても、他の人格として前世の記憶が残るなんて不思議よね。どういう仕組みなのかしら?』


『俺が知るわけないだろう。寝て起きたらこうなってたんだよ。お前の場合は今世の人格は消えたのか?』


『うーん。どうだろ。性格的には前世の自分の方が濃くなっちゃったかもしれない。でもレティシアの記憶や想いはちゃんと自分の中に存在してる。2つだったものが1つに融合した感じかなぁ』




その時思い出したのは、出会った頃のレティシアとの会話。


──────融合。



直接どうにか出来ないなら、消えかかっている存在そのものを毒ごと俺の中に取り込めば、アイツは生き残れるのか…?


本来は、俺もレティシアのようにそうなるはずだったのだろうか。




『ヴォルフ!』


『…………』



『くそ!!』




確証は持てないが、やるしかなかった。

アイツを丸ごと俺の意識に取り込む。


記憶を繋げる。



2つの人格を、1つに融合させるのだ。





俺の中ではもう、お前は手放せない存在の一人だ。

消えてもらっては困る。



お前が消えたら、



きっと俺も泣く――――。

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