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本物のヴォルフガング




「ん・・・」  




ゆっくりと浮上する意識の中、唇に触れる柔らかい感触と、何かが胸元を弄る感触がする。


それは身に覚えのある刺激で、かつてルイスが私に教えてくれた感覚と似ていた。




「ル・・・イス?」



微睡の中、寝ぼけて彼の名を呼んだら口内に濡れた暖かいものが入ってきて、私の中を優しくなぞる。



「?」




違和感を感じて薄らと目を開けると、目前に人外のように美しいヴォルフガングの顔が映った。



「!?」





驚いて状況を確認すると、私は現在魔王に唇を奪われ、服の上から胸を触られていた。





なっ、なっ、な・・・っ!!


何してんのよコイツーー!!




「おわっ」



私は瞬時に腕に強化魔法をかけて目の前の魔王の顔に張り手をお見舞いし、横に押し退けた。




「何してんのよ!!このケダモノが!!」



「いや、2日ぶりにアイツが寝たから表に出てみれば、ソファの上にイイ体した女が無防備に寝てるんだぞ?据え膳食わぬは男の恥だろう。だから頂こうとしただけだ。俺は悪くない」



「悪いでしょ!!寝込みを襲う強姦魔でしょうが!!」 

 




何てことを!!


ヴォルフガングと・・・御曹司とキスしてしまった!



今まで乙女ぶってオネエ疑惑を持たせておいて、人が寝てる隙に手を出すとは卑劣な・・・っ。


うっかり油断した私も悪いけれど・・・でも卑怯!



私妊娠してるのよ。例え見た目が推しキャラでも襲われるなんて冗談じゃないわ!



これ以上何かしようものなら毛根死滅させてやる・・・っ。




魔王に対して猫の如くシャー!!と威嚇していると、魔王は愉快そうに喉を鳴らして笑い出した。



「クックックッ────お前、魔王である俺に楯突くなんて珍しい女だな。普通は俺の覇気に耐えられずにガタガタ震えるか、女は恍惚な顔して悶える奴らばかりなのに。ふーん・・・・・・・・・・・」



そう言うと魔王は顎に手を当てて、足の爪の先から頭のてっぺんまで私を舐め回すように見た。



「・・・・・・?」



なんかさっきと全然雰囲気が違うのだけど、どうしたのかしら?箱入り感が全くなくて危険な男の香り満載なのだけど・・・どうした御曹司?


徹夜明けでおかしくなった?




「・・・ふむ。よし、気に入った。お前美人だし胸もデカいし、イイ女だな。やっぱり抱かせろ」


「いやいやいやいや!何がよし!なのよ!無理です!ノーセンキュー!!欲求不満なら娼館行け!!」


「嫌だ。お前を抱く。俺が決めた」


「断じて断る!!」



「何故だ?俺が抱いてやるって言ってんだ。光栄に思えよ。魔族の女も人間族の女も、俺を見れば皆喜んで体を差し出すぞ?」




知らんわ!


あの乙女ゲームはR18じゃなかったもの!!



確かに魔王は絶世のイイ男だし、ファンの間では歩く18禁キャラと呼ばれたほど漏れ出る色気が半端ない。


もし今の私の中にレティシアの記憶が一切なく純粋な日本人だったら、多分推しキャラを前に鼻血吹いてたと思う。






でも私は今、レティシアだから。


無理なものは無理。





「私妊娠してるのよ。だから絶対お断り。一宿一飯の恩義はもう返したし、私は家を出るから他の女の所に行ってください」


「・・・・・・・・・ふーん。お前の魔力に違和感があるのは腹に子がいるからか。しかもそいつも中々の魔力持ちだな。成る程」



「え?もう魔力があるかどうかわかるの?」


「俺は魔王だからな。────で?その腹の子の父親はさっきお前が呼んでたルイスって奴か?」



「・・・・・・・・・そうよ」


「まだソイツが好きなのか?今頃ソイツはお前が言ってた神の巫女とやらと乳繰り合ってるんだろ?あっちもお前に隠れて楽しんでるんだ。ならお前も俺と楽しんでも文句言われる筋合いな──」




バシッ!!!




私は無神経な男の頬を思い切り叩いた。魔王の言葉で頭の奥に押し込めていたあの2人の姿が鮮明に蘇る。


ルイスの私室で抱きしめ合い、口付けを交わしていたあの2人の姿を・・・。




胸が引き裂かれるように痛んで視界が滲む。



何でわざわざ思い出させるのか。



平気で人の心を抉る目の前の男に腹が立って仕方ない。例え推しキャラだったとしても、それは前世の話だ。



今世のレティシアである私は、あの裏切りを見るまではルイスを心から愛していたのだ。


子供の頃から紡いできた彼との愛を、あの光景を見るまでは信じてたのよ。



それがあの日粉々に壊されたからといって、ルイスへの気持ちがすぐに消えたわけではない。


消えないから苦しい。



許せない。





堪えきれずに涙がポロポロと溢れていく。




「・・・・・・・・・・・・っ」


「・・・・・・・・・・・・・・」




何も言わない魔王を不審に思って顔を上げると、射抜くような熱の籠った視線とぶつかり、背筋に冷たい汗が流れる。



今まで御曹司が纏っていた空気はどこにもなかった。




この男は誰───?



これが本来の魔王なの?

さっきまて猫被ってた?




「ちっ、アイツが起きてキレてるな。仕方ない、アイツに免じて今のところはお前に手を出すのは我慢してやる。だが俺は一度欲しいと思ったものは何がなんでも手に入れる(たち)なんでな。お前覚悟しとけよ」




絶対に逃がさないとでもいうような視線を向けられて体が硬直する。




アイツに免じて・・・ってどういう事?


一人称も『俺』に変わってるし、纏ってる空気が全然違うというか、魔王然としているというか、・・・ゲームの中のヴォルフガングに似ている・・・。




「・・・・・・・・・貴方・・・今までと全然雰囲気違うじゃない。そっちが本性なの?私を騙してたの?」



「騙してない。俺が本物のヴォルフガングだからな」




「・・・・・・・・・は?」



言っている意味がわからない。



「お前が今まで相手してたのはもう1人の俺だ。前世の俺というべきか?まあ、俺は信じちゃいないがな」


「どういう事?人格が違うってこと?御曹司が猫被ってたんじゃなくて?」


「俺が主人格で、アイツが後から突然湧いて出た。まあ、俺の力を持ってすれば消すのは簡単なんだが、異世界人とやらの記憶が思いの外楽しそうだったからそのまま野放しにしている。長生きし過ぎて俺はもう退屈で死にそうだったからな。余興代わりだ」




長生き・・・確か上位魔族になればなるほど力が強くて長寿なんだっけ・・・。魔王レベルになると竜族並みに寿命が長くて、確かゲーム開始時点で1000歳超えていたはず・・・。


暇を持て余してるから御曹司の人格をそのまま残してるってこと?




「つまり、貴方は二重人格という認識でいいのかしら?」


「まあ、そういう事になるな」




私を見下ろしたまま、片方の口の端を上げて愉快そうに笑うその様は、まさにゲームで見ていたヴォルフガングそのもので、大人の男の色気がダダ漏れだった。






あずき色ジャージ着てるのに何故!!

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