20 私はイカれているのだと思う
~東エリア~
「はあ・・・はあ・・・」
柚葉がいる東エリアは現在、柚葉の周りには大量の倒された大型未確認が横たわっていて全滅し、それを率いたナンバーズ024も息を切らしている状態なのに対し柚葉は余裕な表情で傷一つ負っていない。
「まさか、これほどの差があるとは」
「そうでもないわ、倒すのに苦労したわ、あなたの力で未確認の攻撃が速くなって避けるのに苦労したし時計の姿をしているからおそらく本来私に届く攻撃時間を加速させたと言う感じかしら、早送りみたいなものね」
「わかったとしてもあれだけの数を相手に攻撃が当たらないなんて完全に想定外ですよ」
「でも、ちょっと拍子抜けだわ、時計だから時間を戻したりする事ができるのかと思ったのだけど、できたのは時間を早めるだけだったみたいね」
「私にそんな力などありませんよ、時間は早める事ができても戻す事は出来ない、ただ過ぎていくだけですから」
「そうなの」
「ですが、私も簡単にやられるわけにはいきませんからね、奥の手を使わせてもらいますよ」
「奥の手?」
024は手をかざす。
すると辺りの背景が色を失いそれに巻き込まれた柚葉も色がなくなりそのまま動かなくなる。
「これが私の奥の手、時間を早める事ができても戻す事は出来ない、しかしもう一つできる事があります、それは時間を止める事」
024は止まっている柚葉に近づく。
「あなたは強い、だからこの奥の手を使わせていただきました」
「へえ、やはりあなた時間を止められるのね」
「!!」
024は驚愕する。
時間を止めたはずの柚葉が動いて言葉を話しているからだ。
「な、何故!?」
「そうね、可能性としては私のスキルとあなたの力が同じだったからかしら?」
「同じ?」
「私のスキル時間停止はあなたと同じように自分以外の時間を好きなように止める事ができるのよ」
「なるほど、私と同じ時間を止められるからこの止まった時間の空間に干渉できると言う事ですか、通りで加速した攻撃が当たらないわけですね」
そこまで言って024はそのまま力なく棒立ちする。
「どうしたの?」
「奥の手も効かないとわかった今、私にあなたを倒す方法はありません、私の負けです」
「潔いのね」
「あなたと当たった時点で私の負けは決まっていたのですね」
「運の差だと思うわ、現に私以外だったらあなたの勝ちだったもの」
「敵であるあなたにそう言われると皮肉にしか聞こえませんね」
「とどめを刺す前に聞くけど、あなた達より上の存在ってどんなのがいるの?」
「負けは認めますが、仲間を売る気はありません」
「そう、ならその潔さに免じて」
柚葉は024の身体を一閃すると024の首が飛びそのまま爆散する。
「苦しまずに殺してあげるわ」
024を倒した柚葉はそのままスキルを解き時間を戻す。
東エリアの戦い、柚葉の勝利。
「たった一人で全滅させた」
「だから言っただろ、柚葉の勝利だと」
「彼女の強さは聞いていたがまさかこれほどとは」
「柚葉は基本一人で戦った方が効率よく敵を殲滅できる、だから戦場に行く時は常に一人で行動している」
「でも、ターニャの時は一緒に行動してたぞ?」
「それなんだが、湊、お前も柚葉のもう一つの仕事と本来のスキルは知ってるだろ?」
「ああ、知っているが・・・・・・待てよ、柚葉が今まで一緒に行動してた相手って」
「そうだ、皆スパイだった者達だ、しかもその日の内に皆殺された」
「これから、殺す相手と共に行動してたのか、でも、何でだ? 何でこれから自分が殺す相手と共に行動するんだ?」
「うむ、私も気になって柚葉に聞いたが、その時の答えに私は柚葉を絶対に敵に回したくないと思った」
楓はその時の事を思い返すのだった。
『一緒に行動する理由? いきなりどうしたの?』
ナイフをいじりながら柚葉は質問して来た楓を見る。
『単純に気になったんだ、裏切者を始末する処刑人をしているお前がどうして処刑する相手と処刑する日に未確認と共に戦うのか』
『別に話しても良いけど、あまり良い話じゃないわよ、胸糞悪くなるだけよ、それでも聞くの?』
『構わん』
『そう、わかったわ』
柚葉は手元のナイフを見ながら話し出す。
『私がその日の内に始末するスパイと組んで行動する理由は、そうね、理由と言っても特にこれと理屈的な理由でも都合が良い理由でもなくてそう、強いて言うなら私なりの勝手な慈悲なのかしらね』
『慈悲?』
『ええ、これから始末しなけらばならない相手、でもスパイだったあの子達も自分の任務を果たそうとしているだけ、そのために演技をして仲の良いふりをしている、そんな頑張っている子達を私はこれから殺す、でも殺すにしても一時とは言え同じ組織で行動していたんだからせめてどんな子達か知ってから殺したいと思うのよ』
『なっ』
柚葉の言葉に楓は息を呑む。
『私今まで人を殺す時は殺す相手を知る事から始めるのよ、その相手がどんな性格なのかとか色々とね、だって何も知らずに殺されるんだからせめてそう言う人がいたと言う事を覚える相手がいた方が良いと思ったのよ、だから私は自分が殺した相手を覚えている、どんな人だったのか、何故殺さなければならなかったのか、そう言うの全部ね』
『全部、だと?』
『そう、例えばマフィアの組織ならボスや幹部だけでなく構成員の一番下っ端の人まで全部調べて殺したわ』
『柚葉、人を殺すのに抵抗などなかったのか?』
『抵抗? そうね、正直に言うと全くなかったわね、初めて人を殺したのは悪徳な金貸しの人達だったわね、その人達を全員殺しても何も感じなかったわ、例え悪人でも普通殺したらその罪悪感が人を殺した感触が確かに襲い掛かって押しつぶされそうになるはずなのに、または夢に殺した相手が出て来て怨み言などを言ってきて目が覚めてしまったりして呼吸が荒くなったりする事があってもおかしくないのに、私にはその感覚が全くないのよ』
柚葉はそれをまるで友達と話しているかの感覚で言っているがそんな事を普通に言える事に異常性を楓は感じていた。
『それだけじゃないわ、とても仲良くしていた子が死んでも私は悲しみとかそう言うのも感じずどちらかと言うと残念だわって感じの方が強いのよ、でもその子の事を大切な友達だとは思っていたわ、信じられないけど本当なのよ』
『・・・・・・』
楓は冷や汗を流しながら何も言えず柚葉の次の言葉を待つ。
『自分で言うのもどうかと思うけど、私はイカれてると思うわ、人間として持ってなければいけないものが欠如しているのだと思うわ、だから私はこんな考えを持っているのかもしれないわ』
『欠如』
『最初の話に戻るけど、そんなイカれた考えを持っているから裏切者のあの子達を忘れないように一緒に行動してどんな人間だったのかを知ってから殺してるのかもしれないわね、あの子達を忘れないようにするためにそれが私から殺した人達への勝手な慈悲なのかもしれないわね』
言い終えてから柚葉はナイフをしまい席を立つ。
『ごめんなさい、胸糞悪い話を聞かせたわ』
『いや、聞いたのは私だ気にするな』
『そう、それとこれだけは言っておくわ、私この基地の子達の事は大切な仲間だと思ってるわ、もちろん楓あなたもね、信じなくても良いけど一応言っておくわ』
そう言って柚葉は楓に手を振って移動するのだった。
「それが柚葉の理由らしい」
「・・・・・・それは、慈悲と言えるのか?」
「確かに我々からすればそうかもしれないが柚葉にとっては慈悲だと思っているんだろう」
「大事なものが欠如しているか、敵に回すと本当に恐ろしいな」
湊は柚葉が味方でいてくれる事に心から安堵している。
「そうだな、そして我々も大事な何かが欠如しているのかもしれぬな」
「え?」
「考えても見ろ、こんな話聞かされたらそいつと関わり合いたくなくて距離を取るのが普通なのに我々は、少し引いているだけで柚葉と距離を取ろうと言う考えが出ないぞ」
「確かに、ヤバい奴だなと思えても顔も見たくないとかそう言った嫌悪感はないな」
「これも、我々がスキルホルダーと言う人間をやめ戦う兵器と化したからかもしれぬな」
「なるほど、人間をやめた事により考え方が人間よりじゃない部分も出ていると言う事か、妙に納得できるな」
「ともあれ、柚葉がどのような考えを持っていたとしても今我々が戦いに勝利した事を喜ぼうではないか、指揮官に良い報告ができそうだ」
「そうだな、他の子達も戦いで疲れているはずだし、早く基地に戻ろうか」
「うむ、帰還の準備だ」
全ての戦いを終えた楓は他のエリアの少女達に帰還命令を出し基地へと帰還するのであった。
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同時に投稿している作品「魔王様、今日も人間界で色々頑張ります」もよろしくお願いします。