16 戦場に舞う美しき乙女
朝、いつものように柚葉と由奈は朝食を食べていた。
「由奈は今日もよく食べてかわいいわね」
「お姉様、食べる事がかわいいってどう言う意味ですか?」
柚葉の言葉に疑問を感じながら由奈は今日もその体格には見合わないほどの量を食べている。
しかし、由奈よりも多く食べている少女がいた。
「たくさん食べないと戦はできないからね」
そう言いながら蘭華が目の前に置かれている大量の料理を食べている。
「蘭華様、もっと持って来る?」
「ありがとう、でも初音もちゃんと食べてね」
「大丈夫、ちゃんと食べてるから」
蘭華と違い初音は普通の量を食べている。
「蘭華さんってたくさん食べますよね」
「そうね、でも彼女の場合は食べる事も任務では必要な事なのよ」
「そうなんですか?」
「今度任務から帰って来た蘭華を見てみると良いわ、驚くわよ」
そう言って柚葉は紅茶を飲むのだった。
そして未確認の出現が確認され蘭華と初音達が現場へと向かった。
「何だかたくさん来てるわね」
未確認の大群を見ながら蘭華はお菓子を食べている。
「蘭華さん、未確認の中に人型の未確認が見えます」
少女の一人が双眼鏡で未確認を覗いて言う。
「どんな姿をしているの?」
「全身が岩のような姿をしています」
「岩? 生き物じゃないの?」
「はい、間違いなく岩です、見ますか?」
初音は少女から双眼鏡を受け取り未確認を見る。
「確かに人型で岩のような姿をしている」
「今まで三体の未確認が確認されたけどどれも生き物だったからてっきり生き物だけかと思ってたけど、どうやら姿は一つだけではないようね」
「蘭華様どうする?」
「私が一人で出るから皆は下がってて」
「え? 蘭華さん一人で行くのですか?」
「一人じゃ危険ですよ」
「大丈夫だから、皆は危ないから離れててね」
食べるのをやめた蘭華は少女達の心配も気にせずに未確認の前に出る。
「大丈夫かしら」
「何て言うか蘭華さんって戦えるのかな? あの体形だし」
「ねえ、初音さん蘭華さんって戦えるの?」
「見てればわかるから、私達はできるだけ遠くにいるよ、蘭華様の邪魔にならないように」
少女達の心配など気にせず初音は蘭華を見ているのだった。
「ん?」
進行していた未確認を統率していると思われる全身が岩の姿をした人型の未確認が蘭華の存在に気づく。
「何だお前は?」
「あなたがナンバーズと言われている未確認で合ってるかしら?」
「そうだ、俺はナンバー017」
「そう、私は蘭華、あなた達を倒す存在と言えばわかるかしら?」
「こいつらを倒している人間の女達がいると聞いたが、お前か?」
「ええ、そうよ」
「面白い事を言うな、そんなぶくぶく太った身体でまともに戦えるのか?」
017は笑いながら蘭華を見て言う。
「確かに太った私は戦えないわね、今の私はね」
蘭華は背中に背負っている大剣を抜く。
「待ってなさい、今戦えるようにするから」
そう言った瞬間蘭華の身体から風が巻き起こり蘭華を包んでいく。
風が蘭華を包み姿が見えなくなった瞬間突然斬撃が飛んで行き未確認を真っ二つに切り裂く。
「な、何だ?」
突然の出来事に017は驚愕すると蘭華を包んでいた風が消え姿を現す。
「待たせたわね、さあ始めましょうか」
そこにいたのは大剣を軽々と持っていてしかも蘭華の姿も変わっていた。
丸々と太った体形とは違い痩せたスリムな姿で出る所は出ていて引き締まっている所は引き締まっている美しい姿をした少女であった。
「その姿は何だ?」
「私のスキルよ、そしてこの姿になったからには、あなたはここで終わりよ」
蘭華は地面を蹴って未確認をその大剣で切り倒しては戦場を駆け回る。
「す、凄い」
「あれが蘭華さんのスキル」
遠くから見ている少女達は蘭華の戦う姿を見て驚愕している。
「蘭華様のスキルは『カロリー強化』摂取したカロリーを消費させる事で肉体を強化させる事ができるスキル、消費するカロリーが多ければ多いほど強化する力は大きくなる」
「もしかして蘭華さんがいつもたくさん食べているのって」
「そう、スキルによって消費するカロリーを増やすため、そしてスリムな体形になって戦えるようにするため」
「戦えるように?」
「私も話だけしか聞いた事ないけど、蘭華様は最初太っていなくて今戦っている姿と同じだったんだけどスキルを使った瞬間カロリーを消費するから身体がガリガリにやせ細ってしまったらしいの、命まで失いかねないほどに」
「あ、だから普段から太った身体を維持するために食べ続けていたんだ」
「そう、そしてスキルを発動させた蘭華様の戦い方は敵の攻撃を華麗に躱し自分の身長以上の大剣を軽々と振り回し敵を殲滅する、その姿は正に」
初音の言う通りスキルを発動させた蘭華は未確認の攻撃を一切の無駄のない華麗な動きで躱し隙を見ては大剣を振り未確認を次々と倒していく。
その姿は正に。
「戦場に舞う美しき乙女、そう呼ぶのに相応しい」
そうして蘭華は巨大な未確認を全滅させる。
「さて、残ったのはあなただけよ」
「バカな、あれだけの未確認が全滅だと」
「終わりにしましょうか」
「舐めるなよ!!」
017は地面に手を当てると地面から岩が飛び出して来てそのまま蘭華を襲い蘭華の全身に地面からの岩が衝突する。
「ふん、どんなものだ」
017は確実に蘭華を仕留めたと思うが岩は一瞬で吹き飛び中から蘭華が何事もなく歩いて来る。
「ならこれでどうだ!!」
017は手を上にかざすと巨大な岩が出現しそのまま蘭華を押し潰そうとする。
「そのまま潰れてしまえ!!」
しかし蘭華が大剣を上に向けて切ると岩は真っ二つに割れて落ちる。
「俺の岩が簡単に」
「スキルを使った私にはこんなの簡単に切れるわ」
蘭華は大剣を再び構えて017に向かう。
「ぐ、ぐおおおおおおお!!」
017は身体を丸めてまるで巨大な岩を思わす姿で蘭華を押しつぶしに掛かる。
「押しつぶされろ!!」
「言ったはずよ」
蘭華は大剣で017に一振りする。
「スキルを使った私には岩など簡単に切れると」
「ぐあああああああ!!」
017の身体は真っ二つになりそのまま爆散する。
「終わったわね」
殲滅を確認した蘭華は、初音達が待つ場所へと戻る。
「蘭華様、お疲れ」
「ええ、あなた、達も、無事で、よか、った」
そう言って蘭華は、その場に倒れる。
「ええ!? 蘭華さん大丈夫!?」
少女達が蘭華を心配すると蘭華のお腹が鳴る音がする。
「お腹が空いて動けない」
「蘭華様のスキルは一度使うと摂取したカロリー全てを消費するから消費するカロリーが切れたらお腹が空いて動けなくなるの、蘭華様が一人で戦うのは仲間を巻き込まない事ともう一つ戦い終えて動けなくなった蘭華様を運んでもらわなければならないのもあるの」
「な、なるほど」
「強くなる代わりにリスクも大きいスキルなのね」
「取りあえず、蘭華さんを運びましょう」
「そうだね」
「蘭華様は私が運ぶからあなた達は今すぐ基地に連絡してたくさんの料理を用意してもらいたい」
「わかったわ」
少女達は基地に連絡して初音は蘭華をおんぶして運ぶ。
「ありがとう初音、重かったら引きずっても良いからね」
「平気、今の蘭華様は滅茶苦茶軽いから蘭華様はこれ以上消費しないようにただ黙って運ばれてて」
「うん」
蘭華は荷物のようにじっとして初音に運ばれるのだった。
「じゃあ、報告をお願いして良い?」
「うん、任せて」
基地に帰って初音は報告を他の少女達に任せて自分は真っ先に食堂へと蘭華を運んで行く。
「お姉様の言う通り本当に蘭華さん綺麗な姿で初音さんに運ばれてますね」
「そうね」
柚葉と由奈は蘭華達を見送るのだった。
「はあ、美味しい」
蘭華は目の前にあるステーキを一切れ食べる。
太っていた時と違って豪快に食べずにナイフとフォークを使ってお嬢様のように上品に食べている。
「蘭華様、まだまだたくさん料理があるから」
「ありがとう、初音」
戦闘を終えた蘭華は再び戦える力をつけるためにたくさん食べるのだった。
これがスキルホルダー蘭華の戦い方なのだ。
読んでいただきありがとうございます。
同時に投稿している作品「魔王様、今日も人間界で色々頑張ります」もよろしくお願いします。




