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向日葵にはなれないけれど  作者: 長月 灯
徒花のような私でも
19/19

いつかを、夢見て(終)

 ある晴れた日、修道院は珍しく喧騒に包まれていた。


 今日は、少し離れた場所にある聖堂で重要な礼拝があり、院長をはじめ修道女達は早朝から馬車で赴く。

 信仰の道を志す者は同行を許されるが、基本的に、見習いの少女達はお留守番。

 ――つまり、見習いにとっては、貴重な自由時間。


『くれぐれも、くれぐれも己を律するのですよ』という寮監のお言葉にお行儀よく返事をし、淑女のように馬車を見送った後、少女達は歓喜の声を上げた。


 時間の使い方は、人それぞれ。

 読書や刺繍に励む者、惰眠をむさぼる者、おしゃべりに興じている者――皆が、久方ぶりの自由を満喫していた。


 そんな時、裏庭に集まっていた少女達は、見慣れぬ光景を目にしていた。


「あいつ何してるの?」

「ごみ掃除、とか?」


 彼女達の視線の先には、ドロシーの姿があった。

 一抱えほどもある紙の束を地面に置き、上から油らしきものを撒く。

 手にした蝋燭の火を紙に近付けると――すぐさま引火し、少しずつ燃えていく。

 立ち上る煙を、ドロシーは、ただ静かに見つめていた。



(これで……全部、終わり)

 ずっと書き溜めていた手紙を、やっと、処分する決心がついた。

 トリアン伯爵家の顛末やラングル領の現在を知り、自分は、ずっと子どものままでいた事がやっと理解できた。

 でも、皆のように、自分も、前を向かなければ――

 これは、その為の儀式のようなものだった。


 自分がトリアン伯爵家に関わる事は、もう無いだろう。

 でも、どうか――

(どうか、キャロルが、幸せになりますように)

 マーゴットにも、アンヘルにも、取り返しのつかないことをしてしまったと、今なら理解できる。

 これからの、幸せな未来が想像できないくらいに。

 せめて、彼女達が愛していたキャロルの幸せを願う事しか、思いつかなかった。

(私は、私のできる事を探していくわ。それが、償いになるかは分からないけれど)



 ラングル領へ赴いた後、ドロシーは自分の財産をマーカス子爵に託した。

 土地は売るか貸すかして、その利益もラングル領の為に。


『あまり、自らを顧みない行いは避けてほしいのですがね……ご両親も、貴女の身を案じていると思いますが……』

 子爵は最初渋っていたが、最終的には『まあ、上手くやりますよ』という言葉で決着した。


『人が増えてきましたからね、色々と今の設備では足りなかったんですよ。組合との話し合いになりますが……施療院を拡張してもいいですし……』

 その呟きを聞いて、ドロシーは働き手に志願した。

 院長と相談し、ここでの奉仕期間を終えたら、ラングル領に戻る予定だ。



(今度は、胸を張って、帰れるようにならないと……)

 注いでもらった優しさを台無しにして、誰も幸せにできなかった徒花みたいな自分でも。

 いつか、誰かの心を明るくする向日葵のようになれると信じて――



 見上げると、深い青色の空が視界いっぱいに映る。

 空高く昇った太陽は、今日も眩しい。

 照り付ける日差しを受けて、ドロシーは晴れやかな笑顔を見せていた。

最後まで読んでいただきありがとうございました。

ドロシーのその後を書いて完結させたいと考えて、時間が掛かりましたがやっと終わる事ができました。

よろしければ感想や評価をいただけると幸いです。

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― 新着の感想 ―
[良い点] ドロシーがこれまでの行いに気が付き後悔出来た事、またそれを乗り越えて前に進めた事、その描写が見れてとても嬉しいです。 人によってはこの話は蛇足だとか、ざまぁのままでよかったと思う人もいる…
[良い点] 悪役は○んでザマァ! めでたしめでたし じゃないところが、本当に素晴らしかったです
[良い点] やっと自分を取り戻せたみたいで良かった。 [一言] 周りの大人たちに振り回されてきた二人が前を向いて歩いていけて本当に良かった。
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