第8話「カラオケ」
昨日は投稿できませんでしたので、本日二度目の投稿です!
帰りのホームルームが終わった。
何だかいつも以上に長く感じられた一日だけど、これでようやく終わったのだ。
何だか色々ありすぎて謎の疲労感でクタクタになった私は、力なく帰りの支度を済ませると席を立つ。
そしてさっさと教室をあとにしようとしたその時、突然背後から声をかけられる。
「待って新田さん!このあと時間ある?」
その声に驚いて振り返ると、そこには岸田くんがいた。
岸田くんはニッコリと微笑みながら、何故か私の予定を聞いてきたのである。
「いや、あの……帰るだけですけど……」
「お、じゃあさ、俺今日部活休みだからさ、良かったらカラオケ行かない?」
「カラ……オケ……?」
今なんて?カラオケって言いました?
それってもしかして、友達集まって同じ部屋の中で歌を歌い合う例のアレですか?
――いやいやいや!無理無理無理っ!
この引きこもりクイーンである私が、学校帰りに誰かとカラオケとか意味わからないし、絶対無理だから!
よし断ろう、今すぐ断ろう。
そう思った私が口を開くより先に、そんな私と岸田くんの間に割り込んでくる人が一人。
「新田、そういうのあんま得意じゃないでしょ」
誰かと思えば、小木曽くんだった。
突然現れた小木曽くんは、なんと私の気持ちを岸田くんに代弁してくれたのである。
「いやいや、新田さんはまだ何も言ってないんだけど?」
「相手の気持ち分からない男は、モテないぞ」
「は?なんだよ」
そして何故か、一触即発の雰囲気二人でにらみ合う二人。
「まぁまぁまぁ!新田さんカラオケ行くなら俺らも行きたい的な?」
「あ、じゃあ俺はお姉さん希望ー!」
「いいねー!」
更にそこへ陽キャの皆さんが加わってくる事で、一触即発な感じは無くなったものの事態は余計ややこしくなる。
「あ、あのっ!カラオケは無理ですっ!さ、さよならっ!」
だから私は、それだけ告げると一目散に逃げ出した。
―――怖えぇ、陽キャ怖えぇよぉ~!
暫く走ったあと後ろを振り返ると、幸い誰も追って来てはいないようだった。
安心した私は、ほっと息をつきつつ上がった息を整える。
まったく、なんで私なんかをカラオケに誘ってきたのか謎過ぎるけど、本当勘弁して貰いたいもんだ。
歌なんて、好きなアニメの主題歌ぐらいしか知らないっての。
こうして何とか命からがら帰宅する事に成功した私は、気分を切り替えて帰りに書店に寄って行く事にした。
――そんなことより、今日は新刊の発売日~♪
そう、今日はいつも読んでいる漫画の新巻の発売日なのである。
早く続きが読みたい気持ちでいっぱいになりながら、私はルンルンとした足取りで駅前の書店へと足を運んだのであった。
◇
「ねぇ明美、私のメガネしらない?」
部屋で一人買ってきた漫画を読んでいると、姉が部屋に入ってきた。
「メガネ?知らないよそんなの」
何で私にそんな事を聞いてくるんだと、私は漫画を読みながら返事をする。
この両目の視力1.5の私にとって、そもそもメガネなんて全く縁が無い代物なのだ。
「へぇ、じゃあこれは何かな」
「何ってなによ」
そう言いながら仕方なく視線を向けると、そこには私が昨日まで学校にかけていっていた伊達メガネを持つ姉の姿があった。
――あ、そう言えばそうだっけ
「あー、それはその……」
「その?」
「……勝手に借りてました。ごめんなさい」
素直に謝りながら、軽やかに土下座する私。
我ながら美しいこの土下座は、もし土下座検定があればきっと一級は固いだろう。
そんな一級品の土下座を前にして、それでも許してくれないっていうなら大したもんですよ。
「借りたって、何に使ったのよ」
「いや、学校へ行くときの変装用に……」
「変装?」
「うん……高校デビューって、みんなに馬鹿にされると思ったから……」
そう私が答えると、何が面白いのか姉は吹き出すように笑い出す。
いやいや、こちとら至って本気と書いてマジなんだが、何故笑う?
「本当あんたって、自己肯定感低いよね」
「当たり前じゃん、こちとら歩く根暗クイーンだぞ!」
「いや、胸を張って言う事じゃないから……。とりあえず、これは必要ないと思うから返して貰うわよ」
「あっ――」
そう言って姉は、そのままメガネを持って部屋から出て行ってしまった。
こうしてメガネを没収された私は、明日からもありのままの姿で登校するしか無くなってしまった。
――ああ、これで私はもう、マスクメガネ女には戻れないんだね
グッバイ、マスクメガネ女――。
そう思うと、あれだけ嫌だったあだ名なのにちょっぴり寂しい気持ちになってくる。
でも、人の噂も七十五日とはよく言ったもので、日が経てば私に集まる注目度もすぐに減ってくるだろう。
そう思った私は、漫画の続きを読む作業に戻る。
ちなみに今日買ってきたこの漫画はラブコメ作品で、学年一の美少女と主人公が恋愛する内容のものだった。
――ああ、やっぱり可愛いなぁこのヒロイン。ぴょんぴょんしてくる~
可愛すぎるヒロインにニヤニヤしつつ、ふと冷静になった私は自分とそのヒロインの女子力のギャップを痛感する。
でも、自他共に認める根暗女の私は決してヒロインなどではなく、ただのモブなのだ。
だから私は私のままでいいし、そもそもそういう感情自体がよく分からない私にとって、恋愛なんてものはこういう漫画とかで供給できればそれで充分なのであった。
自己肯定感皆無な明美ちゃんでした。
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