第3話「陽キャ」
「づ、づがれだぁ……」
「現役女子高生が何言ってんのよ。せっかくオシャレしたのに台無しでしょうが」
そうは言っても、週末は完全引きこもりクイーンであるこの私が、今日は朝からずっと行動しているのだ。
もう足はパンパンだし、既に一ヵ月分は歩き回った気分だった。
――それに、これめっちゃ歩き辛い
お気に入りのスニーカーを脱がされた私は、現在パンプスなるものを履かされていた。
それに服も、お気に入りのジャージから白地のワンピースにピンクのカーディガンという、いかにも今時女子っぽい恰好までさせられてしまっていた。
――いやいや、何の罰ゲームですかこれ
この私が、まるで陽キャみたいな恰好をさせられて街を歩くだなんて、はっきり言って公開処刑もいいところだった。
一刻も早く家に帰宅し、大好きなアニメを見る作業に戻りたい――。
しかも、今隣を歩くのは歳の離れた姉の瑞樹だ。
一応これでも、大学生の頃はミスなんちゃらになった程度には世間一般ではモテる女なのである。
――実際は、ただの鬼女だけど
ちなみに現在は、アパレル系の大手企業に勤めており、所謂バリバリのキャリアウーマンってやつをこなしている。
そんな姉とこうして街を歩けば、すれ違う男どもは当然のようにこっちを振り向いてきている事が分かった。
だから私は、非常に肩身の狭い思いをしながらそんな姉の金魚のフンとして渋々後ろを歩く。
しかし、歳の離れた人ならまだいい。
でもほら、あそこの高校生っぽい集団だっているし、もしそれが同級生だったら――
「ん?どうした?」
「い、いや、あ、あああそこにいるの。お、同じクラスの――」
「あー、あのチャラそうな連中?ふーん」
興味無さそうに相槌を打つ姉。
しかし私にとっては死活問題だった。
クラスのカースト最下位で、全力で根暗を貫いてきた私のこんな姿、クラスメイトでしかも陽キャの男子達に見つかってしまうだなんて、考えただけでそれこそ地獄以外の何物でもなかった。
しかし姉は、ここでまさかの行動を取る――。
「あ、そこの君たちちょっといい?道聞きたいんだけど」
なんと姉は、面白がっているのかそんな彼らに向かって自分から話しかけたのである。
当然うちの姉に声をかけられた彼らは、突然の美人の登場に分かりやすく緊張していた。
――有り得ない有り得ない有り得ないんですけどっ!!
焦った私は、咄嗟に距離をとって近くにあった街路樹の後ろに隠れる。
私への悪戯にしても、流石にやって良い事と悪い事があるだろ!
そう憤りつつも、まずはこの場をやり過ごす事に集中する私。
「何で逃げるのよ」
しかし姉は、彼らを引き連れて私の元へとやってきた。
「へぇ、こ、こちらが妹さんっすか?」
「ど、どうも!」
しかし彼らは、私に対してまるで他人のように挨拶をしてくる。
――へっ?
その思っていた反応と全く異なる事態に、呆気にとられる私。
――もしかして、私って気付いてない?
いや、というかそもそも、よく考えれば彼らが普段の私を認知しているかどうかも怪しい。
「ど、どうも、妹ですぅ……」
だから私は、消え入るような声でそう一言返事だけして、あとはすっと姉の後ろに隠れた。
内気で引っ込み思案な妹ちゃん、それが今の私だ。
憎き姉への文句は後にして、今は肉壁として間に立ちはだかって貰おう。
こうして、姉は彼らからどうせ知っている適当な場所の道順を聞くと、じゃあねと言って彼らの元を去る。
一時はどうなるものかと思ったけれど、私はほっと胸を撫で下ろしながらそんな姉のあとに続こうとした。
しかし、そんな立ち去ろうとする私の腕がいきなり誰かに掴まれてしまう。
突然の事に驚いて振り返ると、私の腕を掴んでいるのはクラスメイトの小木曽くんだった。
小木曽くんと言えば同じ中学出身で、陽キャグループの中では比較的静かな印象のイケメンさんだ。
でも、私は小木曽くんと直接会話なんてした事が無いし、こんな風に腕を掴まれる覚えなんて全く無かった。
――ハッ!これはもしや、ナンパというやつなのか!?
そう、だから私は気付いてしまったのだ。
私は今、人生初のナンパをされてしまっているという事に!
しかもそのお相手はまさかのクラスメイトというこの状況に、いい加減私の思考が追い付かなくなってくる。
「――新田、だよな」
しかし小木曽くんは、私の苗字を呼んできた。
そんな突然の事に、戸惑った私はつい言葉を漏らしてしまう――。
「ど、どうして――」
「見れば分かる」
見れば分かるって、それじゃまるで、私の事を知っていたみたいじゃ――。
「――ごめん、それだけだ。じゃ」
しかし小木曽くんは、それだけ言うと掴んでいた腕を離して他の皆の元へと行ってしまった。
去り際、普段無表情な事が多い小木曽くんが一瞬笑ったように見えたのは気のせいだろうか――。
――っていうか、ヤバイ!バレたじゃん!!
無事危機を乗り越えたと思ったのに、最後の最後でクラスメイトに正体がバレてしまった事に私は絶望する。
――ああ、私の平穏無事なスクールライフ終わったかも
クラスの根暗女が、こんな格好して街を歩いているのだ。
高校生、そして同じクラスという狭いコミュニティーにおいて、そんな恰好の餌となるネタを彼らが放っておくはずがない。
「……終わった」
「何がよ?」
「全部お姉ちゃんのせいだっての!もう本当最悪――」
「――そんなこと、無いと思うけどね」
無いって何がよ、無責任な――。
そんな不満でたらたらになった私は、それから再び美紀ちゃんの美容室を訪れると共に、たっぷりと姉の愚痴をこぼしつつ帰宅する。
そして帰宅した私は、お化粧がしんどくなってきたから早速お風呂へ向かい、洗面台の鏡に映った自分を見て気が付く。
――そうだ、今の私こんなだったんだ
そう、鏡に映るのは美少女の私で、昨日までの私ではないのだ。
つまりそれって――
「明日からの学校、どうしよう……」
そう、もう私は、かつての自分には戻れないのだ。
ようやく私は、今とんでもない問題が起きてしまっている事を自覚したのであった――。
ということで、新連載です。
本当は短編のつもりで書いていたのですが、長くなりそうだったのでマイペースに投稿していこうと思います。(他のもあるので、本当マイペースに。。)
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