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第15話「ランクアップ」

 今の私は、確実に経験値を積んでいる。

 言えば、対人関係Fランクから、Eランクぐらいにはランクアップしている自信しか無かった。


 それもこれも、西沢さんの存在が大きい。

 私にとって、この高校で初めて出来た同性のお友達。


 そんな彼女は同性の私から見てもとっても可愛くて、もし自分が男の子だったら是が非でも手に入れたくなるような素敵な女の子で、そんな女の子と仲良くなれた事で私は人として得られるものがあまりにも大きかった。


 だから今の私は、もし西沢さんと仲違いでもして離れてしまったらと思うだけで、正直吐きそうになる程辛いことだった。

 それはもう、本当にゲーゲーである。


 せっかくできたお友達を失いたくない、嫌われたくないと思えるこの気持ちこそ、私の中では新たな欲求であり感情だった。

 そして同時に、そんな感情を抱くようになって、自分のダメダメさにも気付かされてしまう。


 ――国分寺くん、それから小木曽くんや岸田くんに対して酷いことしてたよなぁ


 たしかに、あの時の私は本当に勘弁して欲しかった。

 けれど、彼らはきっと好意を持って接して来ていてくれたはずなのだ。


 それを私は、自分の感情だけで一方的に拒絶してしまった……。


 対人経験が無いから仕方ないだなんて、ただの言い訳だ。

 じゃあそんな私だから、西沢さんと仲違いしても仕方ないっていうの? ――ううん、そんなわけない。


 でもそれは、西沢さんだけ?

 思えば、あれから小木曽くんも岸田くんも余所余所しいというか私はクラスの腫物みたいになっていたのではなかろうか。


 ……いや、絶対そうだ。そうに違いない。

 何故私はこうも、客観的になれなかったのだろうか。


 そんな自分が嫌になる。これはもう、シャンプーしている時に思い出してワ―ってなるやつだ。

 そのぐらい、今の自分が恥ずかしかった。


 でも、だからこそこのままでいいはずが無かった。


 ――挽回しなくちゃっ!


 そう決心した私は、これまでの失礼を詫びるべく行動に起こす事にした。

 Eランクにランクアップしたこの新田明美、自分に好意を持って接してくれる人の気持ちを二度と傷つけない事を誓いますっ!



 ◇



「お、小木曽くん……あの……」


 今日も教室の端で、陽キャグループでわちゃわちゃ会話をしているところへ私は飛び込んだ……ものの、やはりこの自分とは真逆の人種の中に割り込むのは非常に居心地が悪い。



「あっれー? 新田ちゃんどしたー?」

「お、おい。新田困ってるから――で、なんだ?」


 ウェーイと話しかけてくる友達を制しつつ、疑うような、恐れているような視線を向けてくる小木曽くん。

 やはりそれだけ、私に対して警戒してしまっているという事の現れだろう……。


 完全に自業自得なのだが、実際にこういう態度を取られると今すぐにでも逃げ出したくなってきてしまう。


 ――でも、ここで逃げたらFランクに逆戻りよ!


 そう気合を入れ直した私は、そんな小木曽くんの手をぎゅっと握った。



「えっ!? ちょ!? に、新田!?」

「お、小木曽くん! この前は酷い態度取ってごめんなさいっ!」


 よし、言ってやった!

 別に許されたいわけじゃない。良くないと思った事はしっかり改めるのが新・新田明美スタイルなのだ。



「……いいよ。俺の方こそ、その、すまなかった……」

「え?」

「俺もその、新田の気持ちを考えずにズケズケ行き過ぎたなって反省してたんだよ……」


 そう、だったのか……。

 うん、なんだじゃあ私達、両想いだったのね――。


 分かってしまえば何という事は無い。

 人間関係の修復がこんなに嬉しい事だなんて知らなかった私は、どうしても笑みが浮かび上がって来てしまう。


 些細なすれ違い、本当にただそれだけだったのだ。



「なら良かった! じゃあ、これからも宜しくね? 小木曽くんっ!」


 そう言って、私は純度100パーセントの笑みを浮かべた。


 私は自分の笑顔に自信があった。

 何故なら小さい頃はよくお母さんに、「明美の笑顔はお日様のように可愛いわね!」と育てられてきたからだ。

 今だってそのお日様パワーは失われてなどいないのだ――と信じたいっ!


 すると、私の笑顔を前にした小木曽くんは、ニッコリと微笑み返し――てはくれていなかった。

 代わりに小木曽くんの顔は、それはもう梅干しのように真っ赤に染まってしまっていた。

 それはもう耳まで見事に真っ赤だ。


 そして、そんな私達のやり取りを見ていた周りの陽キャーズの皆様は、私と小木曽くんの肩をポンポンと叩いて代わりにニッコリと微笑んでいた。



「なんかよくわかんねーけど、仲直りウェイ!」

「それそれ!」

「俺達もこれから宜しくなっ! 新田ちゃんマジ天使!」

「え? は、はい!」


 何だかよく分からないけれど、私ってばマジ天使らしく悪い意味では言って無さそうだったから、とりあえず合わせて微笑みながら頷いておいた。

 すると、陽キャーズの皆まで顔が赤くなってしまい、どうやら私の自慢のこのお日様スマイルは劣化するどころか進化していたようだ。


 ――へへ、日射病には気を付けてくれよなベイベーっ!


 そんなわけで、私はまず一つ心のシコリを取り除く事に成功したのであった。



ランクアップした明美は、改める。

しかし、その結果待っているのは――。

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― 新着の感想 ―
[一言] でもまだ薬草摘みレベルだよねえ。 難度の高いミッションを無理にこなそうとするとろくな事に…
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