第14話「友達」
次の日。
いつもより少し早く登校した私は、トイレへ行くフリをして教室から出た。
そして、本当にたまたま通りかかった風を装いながら、とある教室の前を通り過ぎる。
顔は真っすぐ前を向いたまま、横目で教室の中の様子を伺うと国分寺くんの姿があった。
クラスの女子達に囲まれた国分寺くんは、昨日のドラマ見たよと口々に絶賛されていた。
そんな女子達に対して、国分寺くんは分け隔てなく平等にありがとうと返事をしており、それに対してまた女子達がキャーキャーと喜んでいた。
――うわぁ、やっぱすげーなぁ芸能人
そんな光景に、私はただただ呆気に取られていた。
昼休みの国分寺くんしか知らなかったのだが、普段はこんなにも女子人気が高かったんだなと。
そして、女子達に囲まれる国分寺くんを見て、私は早々に諦める。
――うん、家に連れてくとか普通に考えて無理!
しれっと何も無かった事にしよう。
こうして早々に諦めた私は、くるっと回って自分の教室へ戻る事にした。
何事も素早く決断することが大切なのだ。
もしここが戦場なら、一瞬の迷いで命を落としかねないのである。
「あれ?新田さん?」
しかし、そんな判断速度に定評のある私に声をかけてくる人物が一人――西沢さんだった。
昨日知り合った彼女は、廊下を歩く私に気が付くと嬉しそうに手を振りながら声をかけてくる。
すると、元々ベリーキュートな西沢さんの行動は目立つのか、主に男子達からの視線が一斉に私へと向けられる。
――そ、そんな目で私なんて見ても何の得にもなりませんよ……
そしてその視線の中には、女子達に囲まれている国分寺くんの視線も含まれていた。
その結果、元々国分寺くんの偵察にきていた私と国分寺くんと目線がバッチリ合ってしまう。
だが、何を思われたのか国分寺くんから気まずそうにふっと視線を逸らされてしまう。
――え、何?
もしかして私、嫌われてるっ!?
いや、そもそも芸能人と根暗クイーンのこの私、そもそも不釣り合いなのは重々承知しているけれど、それでもこうやって露骨に避けられてしまうのは中々にダメージが大きかった。
「新田さん、どうかしたの?」
そこへ、トコトコと歩み寄って来てくれた西沢さんが気にしてくれる。
本当にこの子は、見た目も中身も天使そのものだった。
傷ついた私の心もムクムクと復活を遂げると、私はそんな天使な西沢さんの手を取る。
「わたし、西沢さん大好き!」
「ふぇ!?あ、ありがとう」
「うん!こちらこそ!それじゃあ!」
敬礼した私は、そのまま弾む足取りで教室へと戻る。
なんで国分寺くんが余所余所しくなってしまったのかは分からないけれど、今は天使のようなお友達が出来たことを喜ぼう。
◇
お昼休み。
私はいつも通りエデンへと向かい、そこで一人お弁当を開く。
「あ、いたいた。教室にいないから、いなかったらどうしようって思っちゃった」
そして、ここエデンへとやってきたのは西沢さんだった。
彼女はわざわざ一度私の教室へ寄ってくれたようで、何だか悪いことをしてしまった。
「ご、ごめんなさい。いつもの調子ですぐにここに来てしまい……」
「う、ううん!私が勝手にした事だから!でも、居てくれて良かったな」
そう言ってふんわり微笑む西沢さんは、やっぱり天使だった。
――ああ~、心がぴょんぴょんするんじゃあ~
まさか二次元以外で、こんな気持ちになれるとは思わなかった。
私がもし男の子なら、確実にフォーリンラブだ。
こうして私は、西沢さんと並んで座ると一緒にお弁当を食べる事になった。
「前は、国分寺くんもここへ来てたんだよね?」
「え?う、うん」
「そっか」
遠い目をしながら、そう言って一度頷いた西沢さん。
きっと西沢さんは、国分寺くんとお昼を食べたいのだろう。
でもとっつき辛い感じに進化した私は、国分寺くんを遠ざけてしまったのだ。
でも改めて思えば、私は国分寺くんに対して酷い事をしていたのかもしれない……いや、絶対してる。
それに昨日だって、西沢さんの事を考えてばかりで、国分寺くんの気持ちとか全く考えれていなかったかもしれない。
「や、やっぱり西沢さん的には、国分寺くんもいた方がいい?」
「――ううん、大丈夫だよ。新田さんと仲良くなりたいから」
西沢さんが望むなら、この安い頭ぐらいいくらでも下げようと思ったのだが、首を横に振りそう言って微笑んでくれる西沢さんはやっぱり天使だった。
それに私も、そんな西沢さんともっと仲良くなりたい。
だからこの時間は、二人の仲を育む時間にしよう。
そして、国分寺くんにはちゃんと謝ろう。
そう決意した私は、ちょっとだけ人として成長できた気がしたのであった。
これまで何でも一人で完結していた人生から、誰かを思いやる事を少しずつ学んでいく明美さんでした。