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第11話「覚悟と決別と異世界転生」

 ――どうしてこうなったぁ!!


 頭の中がパニックになりつつも、私はそれを誤魔化すかのようにダッシュで弁当を食べた。

 そして急いで食べ終えた私は、慌ててトイレへと駆け込んだ。


 ――よし、とりあえず避難完了!


 ようやく一人になれた私は、便座に座りながら安心すると共に絶望する。

 我ながら矛盾していると思うが、言葉通りなのだからどうかしてる。

 とりあえず、いくらなんでもさっきのは目立ちすぎたのだ。


 根暗クイーンであるこの私にとって、さっきの状況は心的負担が大きすぎた。

 しかし、これからどうしようかと私は一人トイレの中で考えてはみるものの、対人能力Fランクの私に良い答えなんて出て来るわけが無かった。


 ――これはもう、あまり乗り気はしないけど


 だから私は、少ない脳みそをフル活用させて一つの結論にたどり着く。

 正直本意ではないが、もう仕方のない事だろう。


 そう思った私は、自分に喝を入れると、トイレから出て教室へと戻ったのであった。



 ◇



「お、帰ってきた。急にどこ行ってたのさ?」


 教室へ戻ると、岸田くんがにこやかに話しかけてくる。

 なんと三人とも、まだ私の席の周りに座っていたのである。


 だから私は、覚悟を決めてそんな岸田くんに向かって返事をする。



「――か、関係、ないでしょ」

「え?」

「――もう、その、私のことは放っておいてください!」


 そう、私は人生で初めて、人を拒絶したのである。

 これまで拒絶される事はあっても、私から拒絶するのは今回が初めてだった。


 ――や、やばい、手と足が震える


 そんな私の態度の急変に、岸田くんは引きつった笑みを浮かべていた。



「もう、駄目だよ岸田くん。新田さんを怒らせたら」

「そうだぞ、お前はいつもグイグイ行き過ぎなんだよ」

「――お、お二人もです。もう食べ終えたなら、そろそろ離れて貰えませんか」


 岸田くんを非難する国分寺くんと小木曽くんの二人にも、私は同じく拒絶の意を示す。

 もうこうでもしなければ、彼らは私にこれからも干渉してくるだろうし、きっとこの過ごしづらい状況は続くだろうから――。



「あ、えっと、新田さん――」

「いや――」

「お願いだから、そっとしておいて貰えませんか?」


 私がそう告げると、三人もようやく私が本気な事に気付いたようで、気まずそうに立ち去ってくれた。

 こうしてようやく一人になれた私は、自分の席に座って持ってきていた小説を読む事にした。


 カバーをしているが、勿論中身は萌え萌えキュンなラノベだ。

 今の私には、一刻も早く萌え萌えキュンからのピョンピョンで自然治癒(ナチュラルヒール)が必要なのだ。


 しかし、周囲から向けられる視線が痛い――。

 さっきは三人に対して、割と強い態度で拒絶してしまったせいだろう。


 不満そうに自席に座る岸田くんと、陽キャの輪の中でいじられている小木曽くん。

 ちなみに国分寺くんは、気まずそうな笑みを浮かべながら教室から出て行ってしまった。


 ――これは、やらかした可能性大だよな


 自ら生み出してしまった空気に震える。

 しかし、もうこうする以外根暗な私には選択肢が無かったのだ。


 こうして私は、岩のようにただじっとラノベ読むマシーンと化す事で、何とか気まずい昼休みをやり過ごしたのであった。



 ◇



 それからの私は、我ながらとっつき辛い人間に進化していた。

 三人に限らず、他にも話しかけてくる男の子が現れる事もあったのだが、その都度私は拒絶の態度を取り続けた。


 きっともっと上手いやり方は色々あるのだろうけれど、根暗な私には一人の時間を手に入れるためにはそうするしか無かったのだ。


 その結果、私に近付いて来ようとする人は次第に減っていった。

 そして岸田くんに小木曽くん、それから国分寺くんもあれ以来私に接してこようとはしなくなっていた。


 全員、私を前にすると話しかけては来ないのだが、気まずそうな表情を浮かべるのだ。


 そんな姿を目にすると、正直後味は悪かった。

 しかし、そもそも私なんかに近付いてくる事自体がおかしいのだ。


 あなた方陽の者は、陽の者同士で楽しんだらいい。

 私のような対人能力Fランクと接しても、お互い不幸になるだけなのだから――。


 こうして私は、また一人の時間を過ごす事が出来るようになったのであった。




 そして、再び平穏を勝ち取ったある日。

 私は妙な噂話を耳にする。


 何やら噂話によると、この学校には攻略難度SSSランクの美女がいるらしい。

 訳の分からないその噂話に、私は思わず吹き出してしまった。


 ――いやいや、どこのラブコメだよ


 何とも馬鹿らしいその内容に、ありとあらゆるラノベを読んできたこのラノベマイスターの私は笑わずにはいられなかった。


 ――いや、私も危機管理能力Sランクだけどさ、SSSランクって何のチートだよ


 まるで異世界転生者が現れたとでもいうようなその噂話は、もう完全に私の中でツボに入ってしまった。

 ちなみにその異世界転生者はというと、どうやらこの学校の美男子達を誰一人寄せ付けないらしい。


 世の中物好きな美女もいるもんだなぁと思いながら、私は出来る事ならその異世界転生者とお近づきになりたいなと思いつつ、まずはそれがどんな女の子なのかこっそり調査する事にしたのであった。



先生!この学校に異世界転生者がいまーす!!


学校生活の中で、小さな楽しみを見つけた明美さんでした

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― 新着の感想 ―
[一言] とりあえず、「私の好きな人を袖にした。生意気だ」という報復が無くて良かったですねえ/w 人は自分の姿が見えないもの。友達いないけれど、どうやって情報収集するものか。
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