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ビラトナガルの魔法瓶  作者: あかあかや
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泥人形づくり再び

 さらに数日が過ぎた。

 羅刹世界のマガダ帝国から工房世界へ、本格的な開拓団が派遣された。開拓先は地球とよく似た星で、闇魔法場を強めに帯びているという。

 寮の自室でムカスラから話を聞いていたナラヤンだったが、一つ提案した。

「せっかくですから、サラスワティ様もお呼びしましょうか、ムカスラさん。僕の部屋は散らかってますし、外でご飯でも食べながら続きを聞かせてください」


 素直に了解するムカスラだ。

「ああ、でしたら泥人形を使って実体化してもらいましょう。ワタシも羅刹魔法で人間に化けて、食事会に参加しますよ」

 ナラヤンが財布の中を見てから、右手の平をクルリと返した。

「すみません……あんまり高い料理が出る店は無理です。居酒屋で構いませんか? 僕は未成年なので飲めませんけど」


 かくして、寮の近くにある居酒屋へ行く事になった。参加者はサラスワティ人形とドゥルガ人形、それに擬態ムカスラの4人だ。

 ナラヤンが感心して擬態ムカスラを見つめている。

「ほえー……ものすごく好青年に見えますよ」

 ドゥルガ人形も同意してニヤニヤしている。

「美少年ってヤツだな。あんまり目立つと面倒事に巻き込まれるぞ、ムカスラ君」

 サラスワティ人形はノーコメントでクスクス微笑んでいる。


 擬態ムカスラが自身の服装や顔を鏡で見て、小首をかしげた。

「そうですか……? 美醜の価値観がよく分からないんですよね。では、ナラヤン君に少し似せてみましょうか」

 ドゥルガ人形とサラスワティ人形がニコニコしながら、肯定的に首をふった。それを見てジト目になるナラヤンだ。

「どーせ、僕は美から、かけ離れていますよ」


 居酒屋はナラヤンが予約を入れていたので、すんなりと4人席のテーブルに案内された。ナラヤンがニコニコしながらメニュー表を見せる。

「ここは炭火焼きの串焼きが美味しいって評判なんですよ。セクワって呼ばれている料理です。山羊と鶏肉がメインですね」


 セクワは下処理を済ませた肉を串に刺して焼く料理だ。インド料理やイスラム料理の串焼きと違う点は、見た目が焼き鳥に似ている点と、使用されている香辛料が控えめという所だろうか。もちろん、日本の焼き鳥とも違う。

 小さなスダチのような酸っぱいカンキツの半切りが添えられていて、この果汁をかけて食べるのが基本である。

 いうまでもなく、酒のツマミ料理だ。ビラトナガル市には山の民であるライ族やリンブー族などが多く住みついているので、こういう料理が多い。酒はシコクビエの焼酎が一般的だ。度数はビール程度しかないが。


 そのセクワと、鶏チリ、野菜の香辛料炒め、チャパティを注文するナラヤンであった。擬態ムカスラを除くと3人の見た目が学生なので、飲み物は全員がチソである。

「レストラン料理ではないので、味の方は期待しないてくださいね」

 確かにその通りだったのだが、ご機嫌な表情の3柱の方々である。


 擬態ムカスラが嬉しそうにセクワを一本、一気食いした。美男子なのでそんな食べ方でもサマになっている。

「気取った料理ではない方が、ワタシは好みなんですよ。研究職なので食事も適当ですしね」

 ドゥルガ人形とサラスワティ人形もご機嫌だ。

「やっぱり、直接飲食できるってのは良いよね、サラシュ」

「そうだね、お姉ちゃん」


 ナラヤンの財布の上限がきたので、そこで食事も終了となった。ほっとしながらも謝るナラヤンだ。

「すみません、皆さん。僕がもっと修理仕事なんかをして稼いでいれば良かったですね」

 ドゥルガ人形がニマニマ笑いを浮かべた。

「ポカラに来たら、隠者君の手伝いを紹介できるぞ。魔物退治とかだけどね」

 ナラヤンが首をすくめた。

「ごめんなさい。学校を休んでしまうとヤバイんです、僕」


 テーブルが片付けられて、チソとスナックだけになった。スナックはフライドポテトに、野菜のかき揚げである。それを摘まみながら、擬態ムカスラが報告を始めた。

「では、お腹も落ち着いた所で……工房世界の現状を報告しますね」


 マガダ帝国は開拓団を工房世界へ派遣しているのだが、現在は移住に向けた集落の建設を重点的に進めているようだ。食料は帝国からの持ち込みなのだが、これも現地栽培や養殖できるように開拓を行っていると話す。

「ナラヤン君が調べてくれた論文情報が色々と役立っているそうです。農務省の友人が喜んでいましたよ」

 照れているナラヤンである。

「役に立てて僕も嬉しいです」


 しかし魔法場が羅刹世界とは違う部分があるため、その対処で試行錯誤を続けているらしい。

「星を丸ごと羅刹に適した魔法場に変える必要がありますね。本格的な移住は数十年後になる見込みです」

 途端に残念がるナラヤン。

「そうですか……僕が生きている間に移住開始を見たかったのですが。惑星ですしね、そのくらいかかりますよね」


 擬態ムカスラとドゥルガ人形とサラスワティ人形が、少し哀し気な表情を浮かべた。不死者とそうでない者との差は大きい。


 ナラヤンが話題を変えた。

「昨日ですがシディーダトリ様とシャイラプトリ様に会いました。最近は魔物の出現数も激減したって仰っていましたよ。もしかすると魔物って、魔法世界と関わり合いがあったのでしょうか?」


 サラスワティ人形が穏やかに微笑んで肯定した。

「そうかも知れませんね。ヘビ魔物ムシュキタが帯びていた魔法場には、あの亡くなったメイガスさんの魔法場と共通する波動が混じっていましたし」

 そう話してから、ドゥルガ人形に視線を流した。

「あの朱色の聖槍を探していたようですね。姉が保管していたのを、何らかの魔法で察知していたのかも知れません」


 ドゥルガ人形が視線を逸らして頭をかいた。

「気配が漏れ出たのかなー。でもアタシが持ってるって知らなかったみたいだし、あの時は巨人世界で盗聴する事に集中してたと思うぞ」

 ムカスラが小首をかしげた。

「朱色の聖槍ですか? そんな神具なんてありましたっけ」

 ナラヤンも同じく首をかしげている。

「初耳です。赤い色をした槍なんですか? 神々が持っているのは金色の三又槍ですよね。その他にもあるんですね」


 その様子を見たドゥルガ人形がニッコリと笑った。

「知らないなら別にいいよ。古い古いポンコツ槍だから」

 サラスワティ人形は困ったような笑顔を浮かべている。

「もう、お姉ちゃんってば」


 ドゥルガ人形が話題を変えた。塩と赤い唐辛子粉を入れた小皿にフライドポテトの先を当てて、そのまま食べている。

「それよりも、ナラヤン君のスマホの調子はその後どうなんだい?」


 ナラヤンがスマホを取り出して、左手の平をクルリと返した。

「情報工学部のムクタル先生に診断してもらったのですが……それほど長くはもたないだろうと言われてしまいました」

 バッテリーの消耗が激しくなり、素子の痛みも深刻だそうだ。

「……まあ、何とかしてみようとも言ってくれたので、それに期待します」


「それは困りましたね」

 サラスワティ人形と擬態ムカスラが揃って不安そうな表情になった。実際、スマホを介さないと話もできない。

 サラスワティ人形が考えながら話す。

「まだ泥スマホの改善作業中なのですが……不具合をカーリーさんから報告されまして。ナラヤンさん向けの専用の泥スマホを作る必要がありそうですね。もしくは神術か。考えておきます」


 ナラヤンがサラスワティ人形にお願いしますと頼んでから、聞いてみた。

「その泥人形ですが、僕の髪の毛を使っているんですよね。髪の毛の有効期間ってどうなるんですか? 髪の毛をまた強制的に伸ばす必要があれば、遠慮なく仰ってくださいね」

 サラスワティ人形が気楽な表情に戻って答えた。

「髪の毛の魔力はかなり長いんですよ。ナラヤンさんが生きている間は十分に持つハズです。再び髪の毛を刈り取る必要はありませんよ」


 それを聞いて、ほっとするナラヤンだ。頭蓋骨を削り取られるイベントはなさそうである。しかし、少し考えてから新たな提案をした。

「神様だけ泥人形を使うというのも、不公平な気がします。ムカスラさんの分も作りましょうか」


 擬態ムカスラが野菜のかき揚げを食べてから、ゲジゲジ眉をひそめて遠慮した。

「私は羅刹ですからねえ……カーリー様たちに見つかったら、すぐに破壊されてしまうのがオチですよ」

 ドゥルガ人形がチソを飲んでから、肯定的に首をふった。

「カーリーは堅物で真面目だからねえ。でも、泥人形を増産するっていうなら話は別かもよっ。泥人形の評判がすっごく良いんだよ。ポカラまで伝わってくるほどなんだ」


 ナラヤンが真面目に考えた。

「うーん……何とかしてラムバリさんを説得するか。この人が公園管理人をしているんですよ。呪術師のラズカランさんに相談してみますね」

 サラスワティ人形がそれを聞いて、手元に曲刀スチミタールを召喚した。見事に刀身が途中で折れている。

「そうですか。では、私もヤマ様に新しいスチミタールをお願いしましょう。このままでは、髪を切る際に困りますし」

 ナラヤンがドン引きした。

「……別の刃物にしませんか?」


マガダ帝国が模索していた移住ですが、ようやく実現する事になりました。羅刹世界には他にも国や勢力があるので、彼らとどうするのかという問題は残っていますが。

まずは作者からも祝辞を贈りたいと思います。

この部分を書いていた際に聞いていたのは、BabymetalのArkadiaでした。船に乗って航海に出たくなるような曲ですね。

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