巨人世界 その二
事務作業を開始すると、小型巨人の後ろに十数名の小型巨人族の兵士の姿が現れた。今までステルス魔法を使って潜んでいたのだろう。ナラヤンが興味津々の表情で見つめていたが、小首をかしげた。
「装備しているのって甲冑ですよね、あれ。王宮跡の地下庭園を守っていた甲冑に似ているような」
小型巨人が事務仕事で紙にペンを走らせていたが、その手を休めた。
「気づきましたか。その時の甲冑ですよ。修理して、今の装備に加工していますが。甲冑がサラスワティ様のファンだそうで、こうして見に来ているんです」
スマホの中のサラスワティが照れた。
「あらら。それは光栄ですね。着飾ってくれば良かったかしら」
ナラヤンが同意しながら、小型巨人の兵士の武装を見つめた。再び小首をかしげる。
「んー……杖や防護服なんかが、マガダ帝国の護衛隊と同じですね。魔法世界製かあ……でも、製造会社までピッタリ同じなんですね。形式番号も同じじゃないですか、これって。よっぽど人気があるメーカーなんですね」
事務仕事を終えたムカスラと小型巨人が、再び顔を見交わした。
「え。ちょっと待ってくださいナラヤン君。魔法世界には百以上の工房がありますよ。羅刹と巨人とでは魔法場の種類が違いますから、全く同じ形式番号にはならないはず」
「……ですが、人間の彼が指摘した通りですね。不自然です」
ムカスラと小型巨人が、それぞれの警護任務の部隊長に確認をとってもらった。結果は、ナラヤンが指摘した通りだった。さらに法術具の形式番号まで同じだと分かる。
深刻な表情になっていくムカスラと小型巨人、それにそれぞれの部隊長に、ナラヤンが聞いた。
「あの……すみません。僕にも分かるように教えてもらえませんか? そんなに賢くないんです」
ムカスラがゲジゲジ眉をひそめて、軽く両目を閉じてから答えてくれた。
「軍が作戦行動をする際には、自軍の連携を最適化して効率化するためにデータリンクを行います。情報共有網とでも理解してください。そのデータリンクを行う上で最もノイズが混じらないのは、同じ形式番号の装備品どうしなんです」
小型巨人が話を続けた。
「巨人世界は外世界との通信を厳格に制限しています。多チャンネル通信は不可能なんですよ。今回の交渉現場の情報を得るために外世界の誰かが、兵の装備品のデータリンクを悪用した可能性があります」
ナラヤンが必死で理解しようと努める。
「ええと……杖や防護服の製造会社が盗聴していたかもって事ですか?」
ムカスラが深刻な表情になったままで、上司のプラランバに報告と進言を行った。すぐにプラランバから応答が返ってくる。それを読んだムカスラが顔をしかめた。
「マガダ帝国に巨人世界の存在を教えたのは、この魔法兵器製造会社でした。その情報を基にして今回の調査隊が派遣されていますね」
小型巨人も同じような表情だ。
「巨人世界に羅刹世界から不法侵入者が来ていると知らせたのは、同じ魔法兵器製造会社が提供している魔法具でした。これは……最初から仕組まれていた可能性がありますね」
ナラヤンが考えすぎて目を少し泳がせた。慣れない事をしているようである。
「でも、そんな盗聴って……魔法世界の会社が得になるような情報なんてなかったと思いますよ」
ムカスラと小型巨人が同時にため息をついたので、代わりにスマホの中のサラスワティが教えてくれた。
「関係者だけが参加している秘密交渉の場を盗聴できたなら、それで十分なんですよ。盗聴システムを他の誰かに売るための良い宣伝と実績になります」
それからのマガダ帝国と巨人世界の対応は迅速だった。
あっという間に、この装備品の採用に関わった魔法世界の魔法使いと神官たちが十数名ほど拘束されて、ここへ転移させられてきた。当該の会社営業担当者もいる。
警護担当の軍部隊も全員が交代し、新たな部隊長がムカスラと小型巨人に敬礼して着任を報告した。
早速、部隊による尋問が開始されたが……誰も口を割ろうとしなかった。記憶探索の魔法なども使ったのだが、効果はない。
小型巨人が呆れながら小さくため息をつく。
「黙秘している時点で、犯人と関わりがあると認めているようなものなんですが……巨人世界の法では、これだけでも懲役刑です。裁判なんてありませんし」
一方のムカスラは困った表情をしている。
「マガダ帝国の法では、自白が必要なんですよね。百年くらいの封印刑になると思いますが……困ったな」
ナラヤンが提案した。
「小さくなったり別の存在に変化すると、性格が変わったりしますよ。そうなれば自白してくれるかも」
スマホを出して画面にいるクジャクを指さした。
「サラスワティ様によると、コレをゾンビ虎にして咬みつかせると、咬まれた人はゾンビになるそうです」
画面の中でサラスワティが頭を抱える。
「わわわ……よく覚えていましたね。ゾンビというか、強制的に不可触民にされてしまいます」
ため息をついて、顔を上げた。
「……その人の魔法場を変えるという意味では使えますね。彼らが尋問対策で使用している、各種の精神系魔法の術式が機能しなくなるはずですよ」
実際その通りになった。
先ほどまでは気品と気骨あふれる立派な魔法使いや神官たちだったのだが、今や泥酔したような有様だ。顔も緑色になっている。あっけなく自白して、ムカスラが音声データを上司のプラランバに送信した。
「女神様って……怖いですね」
ナラヤンが無言でうなずく。
緑色の顔のままで魔法使いと神官、それに会社の営業たちが小型巨人兵によって連行されていった。床にスルリと沈み込んでいく。もうすっかりゾンビ化してしまったようで、頭を激しくふりながらマタンギ、マタンギと叫んでいる。
ナラヤン素体がそれを見て、目を点にした。
「階段を使わないんですね。地下牢へ連れていかれたのかな」
まあ、身長が1キロ以上もあるような巨人が利用する階段を使ったら、ナラヤンのようなサイズでは大変だ。階段の段差だけで何十メートルもある。
床の上で軽くジャンプしているナラヤン素体に、頭上はるか高くから荘厳な声がした。しかも聞き覚えがある。
「いつぞやの人間か。こんな所にまで来るとは物好きなヤツだな。しかし、予想外の騒動になるとは。仕組んだ奴は許せぬな」
ナラヤン素体が真上を見上げて合掌した。天井が高すぎて見えないのだが、声の主の姿も見あたらない。サラスワティとムカスラ、それに新しいマガダ帝国部隊が警戒するが、僕の知り合いなので危険ではありませんと告げるナラヤンだ。
再び真上を見上げる。
「どうも大きな騒動になってしまいましたね。犯人は捕まりましたので心配いりませんよ。僕からではお姿が見えないのですが、先日チヤを飲んでくれた方ですよね」
頭上の空間からの声が穏やかな印象に変わった。
「あの時のチヤは美味かったぞ。また機会があれば遊びに行くとしよう。カンチェンジュンガの眠る位置もおおよそつかめた。感謝する、我の名はクンバカ……」
「ぴ」
当のナラヤンは瞬時に気絶状態となって倒れていた。代わりにスマホの中のサラスワティが答える。
「いきなり名前を仰るのはいけませんよ、クンバカ何とかさん。人間には魔力が強すぎます」
「お、おお……そうだったな。つい口が滑った。では我はさっさと退散するとしよう、ではまた」
地鳴りと雷鳴が轟いた。巨人が動くとこういう現象が起きるようだ。
それらが収まってから、スマホの中のサラスワティがほっと安堵する。
「まったくもう、どうして巨人はこうも雑なんでしょう」
ナラヤン素体に回復神術をかけて気絶を癒し、その後で周囲で倒れて痙攣しているムカスラや帝国軍部隊の面々も治療していく。クンバカ何とかさんの名前が帯びている魔力に当てられて、全員がショック状態になってしまったようだ。
小型巨人が頭をかきながら謝り、サラスワティによる治療を手伝った。
「すみません、女神様。大型巨人はああいう感じなんですよ。ですので、この交渉の場にお呼びする事ができなくて、ははは……名乗りが途中で終わって幸運でしたね」
気絶から回復したナラヤン素体が、元気よく提案した。
「この騒動の黒幕に会いに行きましょうっ」
さすがに呆れるサラスワティとムカスラ、それに小型巨人である。しかし、めげずに熱弁をふるう。
「武器会社がある魔法世界へ行けるのは今しかないと、僕の直感が教えているんです。こんな迷惑をかけた魔法使いには、一発殴っておくべきですって」
ムカスラが感心し始めた。ボサボサ状態になっていた赤い髪を撫でつけて整えている。
「ナラヤン君がここまで怒るとは珍しいですね。ご友人のジトゥ君や部活動のサンジャイ部長、それに幾多の女神様の無法無頼には甘々なのに」
スマホの中のサラスワティがジト目になってムカスラを見た。
「その中に私は入っていませんよね」
小型巨人が低い声で笑い、それから真面目な表情に戻って提案した。
「悪性度では法術神官よりも魔法使いの方が高いですかね。上司に相談してみますので、少し時間をください」
ムカスラも同じ事をナラヤンに告げて、上司のプラランバと相談し始めた。
プラランバが大いに困ったような表情を浮かべている。しかし、心情は理解できているようだ。少しして、今度は宰相のバスマスラの顔が空中ディスプレー画面に映し出された。彼も困ったような笑顔を浮かべている。
「ドゥルガさんとサラスワティさんとが、カラヤヴァーナ帝国の空中帝都へ突撃すると言い出した時の事を思い出しましたよ。ああ。あの時は、今とは違って人間の名前でしたね。ですが人間の性質なんでしょうかね、この突撃衝動ってのは」
サラスワティがスマホの中で視線を逸らしている。
「そのような事なんて、ありましたっけ」
実際の所、マガダ帝国は魔法世界への攻撃を計画中という事だった。宰相が軽く肩をすくめて話を続ける。
「まだ計画の段階であるのだが、皇帝陛下がまた激怒しておられてね……決定事項になる前なので、こうして部外者にも口外している訳なのだが……そうだな、軍が動く前に部外者が調停してくれると、外交上もそれほど大きな問題にはならない、か」
次に小型巨人が深刻そうな表情で話を始めた。
「上位巨人たちも、魔法世界を攻め滅ぼせという意見で固まりつつあります。少々、頭に血が上り過ぎという印象はありますが。巨人の国を運営している我々普通の巨人としては、マガダ帝国の宰相閣下と同意見ですね」
ムカスラとサラスワティがジト目になっていく。一方で目をキラキラ輝かせていくナラヤン素体だ。
「部外者なら、ここに都合よくいますよっ。今ならタダで請け負います」
火中の栗を拾うというか、飛んで火にいる夏の虫、というか……
かくして、緊急かつ即席で非常に安易な作戦が決行されたのであった。
ナラヤン素体に同行するのは、スマホの中のサラスワティとムカスラに決まった。小型巨人は巨人世界の外に出ると元の身長に戻ってしまうらしく、不参加となった。
「残念です。同じ理由で兵を随伴させる事もできません。一発殴りたかったのですが……その分、マガダ帝国軍に期待します」
ムカスラが申し訳なさそうに頭をかく。
「その帝国軍も、先ほどの気絶で使い物にならないそうです。宰相閣下が特殊部隊を送ると約束してくれましたので、彼らに頼ります」
確かに、帝国軍部隊は床に座り込んだままで頭をフラフラ回している。巨人の名乗りというのは危険なんだな……と実感しているナラヤン素体だ。
そのナラヤン素体の左腕がポロリと落ちて、光の粒になって消えた。
「あー……そういえば、そろそろ1時間経過しますね。困ったな」
ムカスラが自身の水筒の中から新たな素体を取り出した。これも若い男型である。
「宰相閣下が用意してくださいました。コレに乗り換えてください、ナラヤン君」
腕が落ちた素体は、もったいないという事でムカスラが回収した。水筒の中へ放り込んでご機嫌な表情になる。
「素体は貴重ですからね。有効利用しないと上司から怒られてしまいます」
その宰相が再び空中ディスプレー画面に現れた。大真面目な表情である。
「皇帝陛下からの許可が下りた。即席の作戦だが、期待しているぞ」
本来であれば帝国軍特殊部隊に出撃させるのだが……マガダ帝国軍だと魔法世界にばれてしまうと面倒になってしまうという事で、皇帝に納得させたようだ。もちろん形式上は皇帝からの許可という形になるが。
まだ不安そうな表情をしているムカスラに、気楽な表情に変わった宰相が告げる。
「こちらで策を用意してあるので心配するな。民間人にそこまで負担をかけるつもりはない」
(いえ、もう十分に負担をかけていると思いますが、宰相閣下)
とでも言いたげなムカスラであったが、口には出していない。彼も公務員だ。
宰相が簡単に『策』を説明した。しかし納得しているのはナラヤン素体だけのようである。ムカスラとサラスワティは揃ってジト目になってドン引きしている。サラスワティがスマホ画面の中で小さくため息をついた。
「魔法使いの実力が未知数ですので、その策の支援をいたします。幸い、ブラーマ様から『無制限の神術行使』ができる許可を得ていますし」
目をキラキラさせるナラヤン素体である。
「無制限ですかっ。ワクワクしてきました」
ムカスラは顔を青ざめているようだが、その二人に困ったような笑顔を浮かべるサラスワティ。
「あくまでも後方支援ですよ。使わずに済むのであれば、それが最善です」
ナラヤンが少し落胆したが、すぐに質問を投げかけた。
「その魔法使いですが、メチャクチャに強いんですか? カルナ様よりも強いとか?」
ムカスラが両目を閉じた。彼としては、パトナでの事件はかなり大変だったようである。
「メイガスと呼ばれている魔法使いですので、恐らくはブラーマ様と同等以上の魔力を有しているはずです。世界創造と破壊ができる魔法使い……と言えばいいかな。ブラーマ様とシヴァ様を合わせたような感じですね」
あまり想像できない様子のナラヤン素体であった。
「うーん……凄い魔法使いだとは理解できました。どんな人なのか、ぜひ会ってみたいですねっ」
苦笑して顔を見交わすムカスラとサラスワティ、それに宰相であった。宰相が口元と目元を緩める。
「これが人間の人間たる証だろうな。ではムカスラよ、出動を命じる。首尾よく遂行せよ」
「かしこまりました、宰相閣下。ではただ今より、当該魔法使いが所有する工房結界へ転移いたします」
しかし、転移中に阻害されてしまった。そのため今は、世界と世界の間で立ち往生している。幸い、ムカスラによる防御障壁の中にいたので、ナラヤン素体が分解してしまう事態には至っていない。
ムカスラがため息をついた。
「魔法に関しては彼らの方が圧倒的に上手ですからね……こうなるのは予想していました」
ナラヤン素体がムカスラを自身の水筒の中へ誘導してから聞いてみる。
「凄いですね、さすが魔法使い。魔法使いの名前や会社名を呼ばないのは、その名前に魔力がこもっているから……という解釈で良いんですよね。巨人族の名前と同じで」
ムカスラが水筒の中から顔を出して、素直に肯定した。
「そうですね。名前や組織名を呼ぶと、こういう場合では自動攻撃魔法などが襲い掛かってくる……というのが常識です。ワタシたちの位置や武装情報も、相手に察知されてしまいますし。軍事作戦ではコードネームなんかを使って呼称していますよ」
サラスワティがスマホの中でヴィーナを手にして、少し呆れた表情になっている。
「そういう話は作戦行動前に済ませておきなさい、ナラヤンさん。今の魔法では、名前や組織名を呼ばなくても、想像しただけで自動攻撃を受けるようになっていますよ。ほら、早速きました」
遠くから衝撃波のような魔法エネルギーの壁が迫ってきている。
サラスワティがスマホの中でヴィーナを一鳴らしした。ムカスラの防御障壁には一切悪影響を与えていない。
真空の中なのに音が波紋を形作り、それが衝撃波に衝突した。と、次の瞬間、衝撃波がキレイに消滅する。波紋となった音は何事も起きなかったかのように広がっていった。
ナラヤン素体がとりあえず聞いてみた。
「サラスワティ様。今のはいったい、何が起きたんでしょうか」
サラスワティが事もなげに答える。
「敵の防衛システムが作動して、私たちに魔法攻撃をしてきたんですよ。魔法の進行方向を逆転させましたので、防衛システムに跳ね返って自爆しただけです」
やはり全く理解できていない様子のナラヤンであった。
「ええと……つまり進撃再開って事で良いんですよねっ」
クスクス微笑んだサラスワティが、ある方向を指さした。空間がバックリと割れている。
「あれが目的地ですね。敵の防衛システムを全て破壊しましたので、今は因果律崩壊が起きています。収まってから進みましょう」
ムカスラが水筒の中から顔を出して感嘆した。
「さすが神様ですね。ワタシが準備していた対抗魔法を使う場面がありませんでした」
さて、ナラヤン素体が水筒とスマホを手にして目的の世界へ転移を果たした。そこは何かの研究施設の大広間で、床にヒーロー着地したナラヤン素体が顔を上げる。
「ん? 会議室みたいな場所ですよ、ここ」
そして、周囲を見回して不敵に口元を緩めた。
すでに十数名ほどの人型の魔法使いに取り囲まれていた。皆、すっぽりとローブを被っているため、顔どころか足先すらも見えない。認識阻害の魔法を帯びているのだろう。
「で早速、絶体絶命の危機なんですね、僕」
明らかな人工合成音声で、魔法使いのリーダー格らしき者が話し始めた。かなり上から目線な口調で、嘲笑が混じっている。
「巨人世界から転移してきた人間か。面白い実験素材になりそうだ。して、どういう目論見でやって来たのだ?」
そしてナラヤン素体の顔を見て、今度はあからさまに呆れた口調になった。
「な……何も知らないだと? このバカは何をしに来たのだ?」
どうやらナラヤンの記憶を強制的に調べたようだが……頭をかいて苦笑するナラヤンである。
「すみませんね、賢くなくて。説明を受けたのですが、よく分からなくて」
そして、動揺している魔法使いたちに大真面目な顔を向けた。ポケットから事前に聞いていた『策』の一環である紙切れを取り出して読み上げる。
「魔法使いどもよ、貴様らの悪事はすでにマガダ帝国と巨人世界に知られているぞ。正義の裁きを受けるがいい、覚悟しろ!」
まんま、カンペに書かれていたサンスクリット語を棒読みで読み上げた。同時に水筒とスマホを床に投げ捨てて、ナラヤン素体から離す。二つともカラカラと乾いた音を立てて床を転がっていき、壁に当たって止まった。
その水筒の中でムカスラが両目を閉じて呻いている。
「うぐぐ……演技力が皆無なんですね、ナラヤン君……」
スマホの中のサラスワティも視線を逸らし、肩をプルプル震わせながら口を両手で押さえている。
「そこがナラヤンさんの良い所でもありますけれどね」
魔法使いのリーダー格が、面倒臭そうにかぶりをふった。
「得るモノなしか。では用済みだ。さっさと死ね」
彼が言い終わる前に、ナラヤン素体が爆散していくつかの肉塊になった。
「魔法が使えない人間の分際で、我らに対抗できると思っていたのか。愚かな」
ミンチになった素体の頭部分からナラヤンの魂が浮き出てきた。青い炎型の小さな魂だ。
(だから、こうして通報したんですよ)
次の瞬間、ローブ姿の魔法使いたち全員が苦悶の声をあげて床に崩れ落ちた。
「な……?」
すぐに数名のローブ姿の魔法使いたちが出現し、倒れている者たちを拘束していく。その隊長が頭のローブを外して顔を見せた。赤目で鼻が高い人だ。
顔の印象は、以前にリンブー料理店ですれ違った欧州人に似ているのだが……ナラヤンは気がついていない。
その隊長がナラヤンの青色の炎型の魂を無造作に手でつかんで保護した。
「魔法世界の警察である。魔法を使えない種族を、魔法で殺害した現行犯で逮捕する。殺害に使用した魔法術式も採取済みだ」
犯人の魔法使いたちと、そのリーダー格はすでにマヒ状態になっていて身動き一つできない有様だった。反論や罵倒する事もできないようである。
ムカスラが水筒の中から飛び出てきて、ナラヤンの魂を水筒の中へ移し入れた。ほっとして礼を述べる。
「魔法世界の警察特殊部隊ですね。ナラヤン君の魂を保護してくださり、ありがとうございました」
警察特殊部隊の隊長が、赤い瞳を細めた。
「罪状を高めるためとはいえ、無茶をする人間ですな。後で羅刹さんの方から、この人間に説教しておいてください」
ムカスラのような不死の羅刹に対して魔法攻撃しても、その犯人の罪状はそれほど重くならない。せいぜい傷害罪だ。しかしナラヤンのような人間の場合では別で、殺人罪になる。
サラスワティもスマホの中で安堵していた。
「神術を使わずに済みました。ナラヤンさんは水筒の中で反省していなさい」
ナラヤン魂が水筒の口から顔を出した。
(えええー……魂状態だと寂しいので早く元に戻してください、サラスワティ様)




