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ビラトナガルの魔法瓶  作者: あかあかや
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王宮跡ダンジョン その二

 王宮跡公園の丘の上へ到着すると、ムカスラがナラヤンの前に出た。

「いきなり何かの罠が発動するかもしれませんので、ワタシが前に出ますね」

 そして、プラランバから教えてもらった羅刹語の呪文を唱えた。呆気なく古びた木製の扉が出現する。


 プラランバはムカスラの手元にある小窓ディスプレー画面に映っているのだが、太い眉をひそめて呻いた。

「むう……やはり魔法場が外に漏れ出ている。早めに気づいて正解だったな」

 サラスワティはナラヤンの隣に浮かんでいるのだが、彼女も真面目な表情で同意した。細い眉を寄せている。

「そうですね。野良の魔物が引き寄せられる原因になります。あ……先日のヘビ羅刹さんが目覚めたのも、これが影響したのかな」


 ムカスラが慎重に古びた木製の扉を押し開いて中へ入った。周囲をうかがってからナラヤンに手招きする。

「確かにゴミしか見当たりませんね。魔法場がかなり強烈ですが、この魔法障壁であれば問題ないでしょう。ナラヤン君もどうぞ中へ」

 ナラヤンも扉の中へ入り、キョロキョロ見回した。好奇心で目がキラキラしている。

「んー……確かにゴミだらけですね。扉から外に魔法場が漏れ出ていませんか?」


 サラスワティも扉の中へ入りながら、気楽な口調で否定的に首をふった。

「その点は心配無用です。では探検してみましょうか。実は私も中に踏み入るのは初めてなんですよ」


 扉の中は結界空間になっていた。一種の異世界である。古びた石畳の床には、枯草や枯れ枝が粉になったものが山になっている。サラスワティが眺めて微笑んだ。

「これらは昔、ビラータ藩王国があった当時に王宮庭園の草刈りで生じたゴミですね。懐かしいなあ」


 本当にゴミ捨て場だったか……と落胆するナラヤン。しかし、奥へ進む事にする。


 その先では羅刹兵が着用していた全身甲冑と刀剣などの武器が散乱していた。ムカスラが手に取って品質を確認する。

「驚きました。かなりの魔法場を帯びています。加工すれば今でも通用する品質ですよ」

 ナラヤンも興味津々の様子で手に取っている。防御障壁のおかげで何ともないようだ。

「意外と重くないんですね。これなら僕が着ても動きやすいかな。でも、さすがにデザインが古いというか、仰々しいです」


 サラスワティが素っ気なくうなずいた。

「この地には大昔に、羅刹が治めるシシュナーガ王国がありました。それと人間と神の連合軍が戦い、王国は滅びてビラータ藩王国の一部になりました。その際の羅刹兵の装備ですね」


 ムカスラが引き続き調査を続けていると、甲冑が自動的に寄せ集まり合体して動き始めた。

「わわっ」

 慌てて手に持っていた古びた槍を手放して、距離をとる。ナラヤンも古びた剣を投げ捨てて警戒した。スマホのカメラを向ける。


 合体した甲冑がゆっくりとした動きで襲い掛かってきた。サラスワティが淡々とした口調で話す。

「魔法の武器なので、こういう事が起きるんですよ。外敵を察知すると、自動で迎撃する術式ですね」

 プラランバがうなずきながら、攻撃許可をナラヤンに与えた。

「射撃を許可する。だが、床や天井を撃たないようにな」


「ハワス、サー!」

 ナラヤンが答えて、スマホを使ったストラ撃ちを始めた。呆気なく合体甲冑が次々に撃破されて粉になっていく。

 ムカスラが興味深く観察して感嘆した。

「なるほど。神術と羅刹魔法とは反発するので、こうなるんですね。ではワタシはその間に、採集をしてみます」


 その後も探検して楽しむナラヤンであった。

 最後に残っていた甲冑を撃破して粉にすると、部屋の奥に新たな羅刹魔法場が発生してきた。その場所にも容赦なくストラを撃ち込むナラヤンだ。


 そこを攻撃すると床が崩壊して、下り階段が現れた。


「隠しダンジョンだ!」

 喜ぶナラヤンである。ムカスラも赤い目をキラキラさせている。

 一方のサラスワティは不思議がっていた。プラランバも同様だ。

「変だな……そんな地下室を設けた記憶はないのだが」


 ここは慎重に対処しようとなり、サラスワティが緑色のオウムを放って調査する事になった。一羽のオウムが召喚されて、そのまま飛んで突入していく。

 ……が、そのオウムが突如消滅した。


 サラスワティが細い眉をひそめる。

「階下に、何者かがいますね。攻撃を受けました」

 緊張が走る。プラランバが険しい表情で告げた。

「いったん撤退して戦闘準備を整えよう。探索の専門部隊が必要のようだ」


 数分後、マガダ帝国から羅刹の特殊部隊が到着した。全員が高度なステルス障壁に包まれているため、ナラヤンのスマホを通じても姿が見えない。ナラヤンたちは扉の外に出て、今は丘のふもとに下がっている。

 ムカスラがナラヤンとサラスワティに実況説明した。

「今、総勢10名の特殊部隊が扉の中へ潜入しました。羅刹世界にも昔の魔法使いが残した洞窟や地下室に結界があるので、その調査をする部隊です」


 サラスワティがナラヤンの隣で腕組みしている。

「私でも察知が困難です。驚きました」

 プラランバが空中ディスプレー画面の中で満足そうにうなずいた。

「長年の研究の成果ですね。魔法世界と交易していますので、こういった対策は必須なんですよ」


 そんな談笑をしていると、赤い炎型の魂が10個逃げ帰ってきた。プラランバが赤い目を点にしている。

「は? 全滅だと」


 特殊部隊だった魂が羅刹世界へ帰還していくのを見送るナラヤン。ムカスラが転送魔法を使っているのだが、冷や汗をかいている。

「うわわ……敵の数と攻撃手段が判明していません。瞬殺されたという状態ですね」


 そこへ、シディーダトリがケラケラ笑いながら飛んできた。彼女の後ろにはカーリーと9柱の部下女神、それとカルナ、アルジュナがいる。

「異変察知の神術を貼っていたのさー。面白そうな事してるじゃん。仲間も呼んできたぞい」

 そう言って、得意気に白鳥の翼をバサバサ羽ばたかせた。


 サラスワティが大いに細い眉をひそめてジト目になっている。

「呼んではいませんよ。何を勝手にやって来ているんですか、もう」


 カーリーが続いて到着して、不満そうな表情をサラスワティに向けた。彼女はいつものように赤と黒のインド風軍服姿で、6本脚の獅子に乗っている。

「おい、サラスワティ。こういう事はきちんと我々に知らせろ。独断専行が過ぎるぞ」

 サラスワティも似たような表情だ。

「知りませんよ、そんな決め事。今回は元々、結界内の探索だったんです。討伐なんか想定していません」


 そのままカーリーとサラスワティが口論を始めた。それを眺めてから、空飛ぶ水牛の背に乗った赤い軍服姿のシャイラプトリが気さくに手を振った。

「よお、また会ったな。ナラヤンとムカスラ。ったく、君たちには騒動を呼び寄せる才能があるようで嬉しいぞ」


 神々が王宮跡公園の丘の上にそろい立った。最後にブラーマも到着する。さすがに神術場が強くなったのか、プラランバが映っている画面がノイズだらけになっていく。ムカスラも小人化して、ナラヤンの水筒の中へ一時避難した。

「さすが錚々たる面々が一堂に会すると、凄いですね」

 ムカスラの感想に同意したナラヤンが、スマホ画面を介してこれまでの状況をブラーマに説明した。サラスワティはそっぽを向いているので、彼が説明するしかない。


 それを聞いたブラーマが腕組みをしながら難しい表情になった。彫りの深い顔の陰影が濃くなっていく。

「むう……ゴミ捨て場に何者かが棲みついたという事か。プラランバよ、羅刹や魔物ではないのだな?」

 プラランバがノイズまみれの画面から答える。今はただの電話機能しか使えないようである。

「うむ。特殊部隊が辛うじて採取した魔法場の波動特性が、我々や魔物全般と違う。中にいるのは正真正銘の怪物だ」


 それを聞いて俄然戦闘的になる神々だ。特にカルナとアルジュナがはしゃいでいる。

 ブラーマが少し考えてから神々に攻撃許可を出した。

「滅殺しても構わぬ。この世界に危害を及ぼす恐れがあるモノは排除だ。しかし、念のためワシに神術場の一部を預けてくれ。因果律崩壊のような攻撃をしてくるかも知れぬからな」

 サラスワティがムカスラとナラヤンに簡単に説明した。

「この世界から弾き出された場合に備えて、迅速に復活するための種として使うんですよ。保険のようなものですね」


 気勢を上げた神々が、扉の中へ飛び込んでいった。ブラーマが石製の水差しに神々の魂片を保存して、感慨深そうに古い木製の扉を眺めた。

「まだ残っておったのだな。事実上、ビラータ藩王国の遺物はコレだけか」

 ナラヤンが訂正する。

「いえ……聖池がまだ残っています。凄いですよね、2300年の時の流れに耐えたんですから」

 ブラーマがその聖池を丘の上から眺めて、少し嬉しそうにうなずいた。

「そうだな」


 そんな感じで和んでいると、扉の中から神々が魂状態になって逃げ戻ってきた。さすがにブラーマが驚く。

「は? 何とした事だ」

 水色の炎型の魂になったシディーダトリが泣きながら報告する。

「めちゃくちゃ強いですう~」

 しかも、敵の正体と数も全て分からずじまいだった。


 絶句しているブラーマに、ようやくノイズ画面ではなくなった空中ディスプレーのプラランバが冷静な口調で告げた。

「神でも無理か。予想以上に難敵だな。ワシはこれでいったん失礼するよ。作戦を立てねばならん」

 彼の空中ディスプレー画面が消えた。


 幸いな事に神々は魂状態になっただけで、すぐに復活できると分かった。ほっと安堵するブラーマとサラスワティだ。ブラーマが水差しを呼び出して、保存してあった魂の一部を戻していく。

「すぐといっても、数日はかかりそうだな。予想以上に君たち魂の損耗が深刻だ。その間、神々は休業とする。皆の者、それぞれの寺院に戻って養生するように」


 ブラーマに言われて、フラフラとビラトナガル市内へ飛んでいく神々の魂。カルナとアルジュナの魂はインド方面へ飛んでいった。

 ナラヤンとサラスワティが見送っていると、赤と黒の炎型の魂が寄ってきた。見ただけでカーリーだと分かる。

(不覚、不覚! 我が獅子も消滅してしまった。次は本気出す!)

 サラスワティがジト目になりながら手でパタパタあおった。その風だけで、カーリーの魂が吹き飛ばされる。かなり弱っているのが明白だ。

「はいはい。数日間休んでいなさい、カーリーさん」


 カーリーの魂が寺院に向けて飛んでいくと、今度は赤い炎型の魂がやって来た。シャイラプトリだ。

(ははは、負けちゃったよオイ。カーリー様がブチ切れてるから、さっさと討伐してくれな。この公園ごと破壊するつもりだぞ、あれ)

 ナラヤンが妙に納得している。

「でしょうね……」

 サラスワティが了解した。

「分かりました。姉のドゥルガに頼んでみますね」


 シャイラプトリの魂も寺院に向けて飛んでいった。最後に残ったブラーマが、真面目な表情をサラスワティに向ける。顔の陰影がさらに濃くなっているようだ。

「ドゥルガの招集を許可する。久しぶりに姉妹そろっての討伐になりそうだな。全ての神術と神器の使用も許可しよう。変身も許可する」

 サラスワティが合掌して拝命した。どことなく嬉しそうだ。

「はい、かしこまりました」


 ブラーマが続いてナラヤンに顔を向けた。ナラヤンは両膝を地面について合掌している。

「ナラヤンよ。よくぞ発見してくれた。このような危険な存在が、扉の外に出る前で幸運であった」

 恐縮しているナラヤンに、軽く微笑む。

「作戦は明日実行する。それまでに、ワシはビラトナガル市とジョグパニ市、その周辺の村に防御障壁をかけておく。ストラにも耐えるものだ。心置きなく討伐を見届けるように」


 ブラーマが光に包まれて消えた。

 ほっとしたムカスラが水筒の中から出てくる。

「サラスワティ様のように、羅刹に配慮してほしいんですけど……明日ですか。ワタシも見物したいので、帰ったら仕事を調整します。溜まっている仕事を今日中に片付けないとっ」


 ムカスラが慌ただしく羅刹世界へ戻っていった。それを見送ったナラヤンが、サラスワティに聞く。

「サラスワティ様。大がかりな事態になってしまいました……もしかして、地球の危機とかいうヤツですか?」


 サラスワティがキョトンとしてからコロコロと笑った。

「そんな大それた事態にはなりませんよ。扉の中に潜んでいる者ですが、本当に凶悪でしたら今まで隠れている理由などありません。とうの昔に人間世界へ出てきていたでしょう。カンチェンジュンガ巨人のように、怠け者なだけだと思いますよ」

 そう言われてみれば、そうかな? と納得してしまったナラヤンであった。


「では私も姉に会いに行きますね。明日の朝、部屋にうかがいます。せっかくのアスタミの日ですから、今晩はたっぷりと山羊料理を楽しんでくださいな」

 そう言って姿を消した。

 ナラヤンがスマホで時刻を確認する。そろそろ山羊料理が出来上がる頃だ。

「あー……そうだった。明日に備えてガッツリ食べておかないとね」


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