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ビラトナガルの魔法瓶  作者: あかあかや
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山の民の遺跡

 ロボ研が作成した二足歩行格闘ロボがようやく完成した。早速、山間地のダランという街にあるライバル高校のロボ研に行って試合をする事になった。


 この競技には色々と規則があり、高さ1m、重量30キロ以下で独立駆動の二足歩行型である必要がある。このロボに剣や刀、槍を装備させて戦闘しながら、所定の場所から荷物を拾って目的地まで運んで届けるゲームだ。

 動力源は危険防止のために、爆発の恐れがない全固体電池のみを使っている。ガソリンエンジンや燃料電池は使用禁止だ。武器に高周波ブレードを用いるため、火花や飛び散りやすいためである。


 結果はボロ負けだった。

 ナラヤン側の武器はナイフ1本だったのに、相手側は有線式の弓矢と巨大な斧という武装だったので、当然といえば当然なのだが……どこかの弁慶のようになっての立ち往生であった。

 落胆するナラヤンと部長たちだが、今は飯屋でシコクビエのディーロを注文して、やっぱり山の飯は美味いなーと舌鼓を打っている。飯の写真と、部員の集合写真までスマホで撮っている。


 サラスワティがスマホ画面の中からディーロを見て、ナラヤンに聞いてきた。

「ナラヤンさん……これはもしかすると、シコクビエですか?」

 ナラヤンが素直にうなずいた。

「はい。シコクビエの粉を練って炊いたものですよ。ビラトナガル市内ではあまり見かけませんよね」

 スマホの修理がまだ途中なので、画面や音声に時々ノイズが入っている。金欠なので仕方がない。


 サラスワティがスマホの中で感慨深い表情になった。

「そうですか……あのシコクビエは今も食されているのですね」

 ちょっと涙声になったので、ナラヤンがそっと聞く。すると、この穀物の育種に昔関わった事があるのですと答えてくれた。

 感嘆するナラヤンだ。

(マジでいったい何歳なんだ?)


 ロボ研の部長たちが食事を終え、映画館で人気作が上映中だと知り見に行く事になった。『強力太郎の帰還パート2』という題名の映画だ。内容は、まあ普通の歌って踊るインド映画である。言語はヒンディー語なのだが、ネパール人の多くは理解できる。


 ナラヤンも乗り気だったのだが……スマホのサラスワティが見ておきたい場所があると遠慮がちに申し出た。

「巨人が現れたと聞いて、一つ思い出した事がありまして」

 そのため、ナラヤンは単独別行動でダランの山中へ入る事になったのであった。


 その前にお祈り用のバターランプと季節の花、ココナツの実、赤い色粉、セルローティ、そしてディーロを買い揃えた。水筒にはシコクビエの蒸留酒を注ぐ。まだ神無し月なので閉まってる店が多いが、何とか用意できて、ほっとしているナラヤンだ。

 セルローティはネパール風のドーナツである。

「お待たせしましたサラスワティ様。では、案内をお願いします」


 山奥に入ると電波の状態が悪化したので、スマホでの通信が途切れ途切れになってきた。

 ナラヤンが短髪頭をかいた。

「すみません、サラスワティ様。このままですと、通信が途絶えてしまいそうです」

 ここへ来てみてはどうですかと提案した。


 少し躊躇していたが、結局サラスワティが転移してやって来た。

「そうですね……いつまでも避けていてはいけませんよね」

 スマホの画面越しにサラスワティが、森の奥を指さした。

「では、思い出の場所へ案内しましょう」

 地図アプリで場所を推定したサラスワティが森の中を案内していく。サラスワティは地面から浮いているので、ナラヤンが供物を抱えて急いでついていった。雨期の森なので足元がツルツル滑るようだ。

「ちょ、ちょっと待ってください。木の根とか枝が多くて速く歩けません。もう少しゆっくりお願いします」


 そんなこんなで、足を滑らせて何度か転びそうになりながらも目的地へ到着した。その場所は木々と苔に覆われていたのだが、かつては段々畑だった場所のようだ。

 雨期なのでヒルだらけだが、サラスワティの神術でナラヤンが保護されている。


 サラスワティが昔話をしてくれた。

「2300年前になるんですね……ここにその頃、大きな庭園を造ったんですよ。今までは足が向きませんでしたが、ようやく来る事ができました」


 そう言ってから、優しい笑顔でナラヤンに微笑んだ。

「感謝しますナラヤンさん」

 恐縮するナラヤンだ。

(うひゃー……やっぱり美少女なんだよなあ。実年齢は不明だけど)


 ナラヤンが顔を赤くしながら、慌ててごまかした。

「そ、そういえばですね。呪術師のラズカランさんが話してくれたのですが……ええと、伝説で聞いた山の民の拠点だったのでしょうか? サラスワティ様の思い出の場所なんですね。お祈りをしましょう」

 そう言いながら、手際よくディーロとロキシーを最初にサラスワティに供物として捧げた。

「ど、どうぞ」


 サラスワティが優雅な所作でフワリと簡易祭壇に手をかけた。

「懐かしいですね……では、味見をしてみましょう」

 生気を吸い取り満足な笑顔を浮かべる。

「美味しいです。昔とは風味が異なっていますが、これはこれで良いですね」


 ほっとするナラヤンである。

「喜んでくれて良かったです。急いで用意したので心配だったんですよ」

 そう言ってから、他の供物を広げて祭祀を行った。

「超絶簡単で申し訳ありません」


 サラスワティがヴィーナを呼び出して弾き、サンスクリット語で歌い始めた。

「子守唄と恋歌の2曲です。どちらも古い歌になってしまいました……」


 再びヴィーナを弾きながら歌い始めた。次第に少し泣き声になっていくのを聞いて、じっと静かに森の中にたたずむナラヤンであった。


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