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ビラトナガルの魔法瓶  作者: あかあかや
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素晴らしきデスメタル

 羅刹世界では汚水処理やゴミ処理でも魔法を使っている。

 しかし、田舎では魔法使いの人数が不足していて間に合っていない状況だ。そこでナラヤンが提供した情報を基にして魔法具を試作する事になった。


 今回はその実証試験の立ち合いにナラヤンとサラスワティが呼ばれていた。

 羅刹世界にはナラヤンが魂だけの状態で到着し、現地で用意された素体に憑依する。いつもの手順である。今回の素体は背が高めの成人男性だった。


 予定では素体を2体用意するつもりだったが、研究が盛んになっていて素体不足が起きているという。そのため、用意できたのは1体だけであった。

 ムカスラがサラスワティに謝る。

「すみません、サラスワティ様。魔法世界からの輸入に頼っていますので、今回は都合がつきませんでした」


 サラスワティがナラヤンのスマホに入ろうと試みてみたが、先日の故障の影響でそれは無理だった。

 細い眉をひそめて困った表情になる。

「あらら……どうしましょうか」


 ナラヤン素体が起き上がって提案した。

「すみません。今は金欠でして、スマホの修理が間に合いませんでした。とりあえず今回は、僕の素体に憑依してみませんか?」

 サラスワティが少し考えてから了承した。

「……そうですね。二重憑依になりますが、試してみましょう」


 こうしてサラスワティがナラヤン素体に憑依する形になったのだが……現場に入るとナラヤン素体がマタンギ化してしまった。男の姿のままで、顔や手足が緑色に変わる。

(あらら……変身してしまいましたか)


 体の操作権はナラヤン魂のままだったので暴れる事はなかった。しかし汚水やゴミを食べたがるので、その衝動に耐えるナラヤン素体である。

「絶対に口にしないぞ。食べたら下痢ピーだぞ」


 ムカスラがマタンギ化したナラヤン素体を見てお願いした。

「デスメタル演奏は遠慮してくださいね」


 しかし体が勝手に動いてヴィーナを呼び出し、メタルギターの音でかき鳴らし始めた。ナラヤン素体が焦る。

「うわわわ。止められないー」

 憑依しているサラスワティ……もといマタンギも謝った。

(すみません。演奏衝動が抑えられません……何曲か演奏すれば落ち着くのですが)


 ムカスラが諦め顔になった。

「……では落ち着くまで路上コンサートでもしましょうか。こんな事も起きるだろうと予想していまして、準備はしてあります」

 マタンギ化したナラヤン素体が冷や汗をかいている。

「マジですか……楽器を弾いた経験がないんですけど僕」

 マタンギがご機嫌な口調で答えた。

(大丈夫ですよ。私に身を委ねてくださいな)


 結局、体が勝手に動くのに任せるナラヤン素体であった。ムカスラを始め、研究者の羅刹たちもノリノリでヘドバンしてくれている。

「な、なるほど邪神って呼ばれるのが分かる……」

 ドン引きしていたが、やがてノリノリでデスボイスを放って、ギターをかき鳴らすナラヤン素体であった。

 マタンギは少し不満そうであるが。

(邪神なんて失敬な。ちょっと生ゴミを食べたがるだけです)


 数曲ほど演奏するとマタンギ化が落ち着いた。ほっとして演奏を終了するナラヤン素体。

 やんやの喝采をするムカスラたちである。人が良いというか何というか……


 ナラヤン素体が疲れ果てて喉を枯らしてしまいながらも、口元を緩ませている。

「い……意外と良いかもコレ」

 マタンギも落ち着いた様子で、穏やかな口調になっていた。ヴィーナを消去する。

(これで大丈夫ですね。仕事に取り掛かりましょう)


 苦笑しながらも同意するムカスラたちである。

「ナラヤン君もノリノリでしたけど、さすが切り替えが速いですね。顔は緑色のままですけど」


 とにかくも、召喚時間は1時間しかないのでさっさと仕事をする事になった。

 田舎の町で最も問題になっているのは、生活排水の浄化処理だと説明を始める。

「糞尿や生ゴミ、燃えるゴミなどは土と一緒にして、巨大ワームに食べさせています。その巨大ワームからは肥えた土として排出させ、それを少し寝かせてから肥料として使用しています」


 一方で排水の処理は、排水中に空気を送り込んで酸化させて汚物と水とに分離させる、活性汚泥法を用いて浄化処理をする。しかし油が大量に含まれる排水の場合には、前もって油を除去する必要がある。この油の分解に微生物を使用している。


「ナラヤン君が情報提供してくれた論文情報の中に、2種類の酵母菌を混ぜる事で処理能力が向上した、という内容がありました。この実証試験がコレです」

 ムカスラが案内した先には、排水の浄化システムが稼働していた。

「サラスワティ様から見て、どうでしょうか。浄化の女神様の御意見をお願いいたします」


 緑色の顔のナラヤン素体が浄化システムに手を触れた。

(……そうですね。浄化済みのタンクは合格点ですね。悪臭問題はまだ残っていますが、これはガス吸引と浄化装置をつければ解決できるでしょう)

 しかし、システムから排出された最終汚泥には近寄らなかったが……


 ムカスラがほっとした表情を浮かべた。

「高い評価をしてくださって、ありがとうございます。ガスの吸引装置は必要ですね。最終汚泥の発生量も通常の半分以下になりそうなんですよ」


 ナラヤン素体も緑色の顔を肯定的にふっている。

「充分に浄化されていると、僕も思いますよ。悪臭もあまり気にならないです。ビラトナガル市内の工場排液に比べると、遥かに清浄ですよ」


 ムカスラがその後の浄化方法を説明してくれた。

「油を除去した排水を、活性汚泥法で続けて浄化処理していきます。排水基準は、川の魚が苦しまない程度ですね。農業用水でしたら、そのまま使えます」


 ここでもナラヤンが提供した論文情報を使い、鉄サビの一種を活用していると話してくれた。この鉄サビに光を当てると光触媒反応が起きる。水素ガスを発生させながら汚水を浄化するという仕組みだ。

「活性汚泥処理を終えてからの最終処理でこれを使っています。細菌やウイルスを破壊できていますね」


 こうして、処理水が河川へ流れ出ていく。その環境数値を測定して安堵するムカスラたちだ。

 ナラヤン素体は数値の意味がよく分かっていない様子だが、実際の川面の様子を見て感心している。川魚が群れをなして泳ぎ回っているのがよく見えた。水草も繁茂していて、川の流れに波打っている。

「凄いですね。ネパールでここまでの浄化処理をしている町は、数えるくらいしかありませんよ。インドでも少ないかも。大湖の水がキレイになるわけですね」


 茶店で談笑していると、ムカスラの手元に小さな空中ディスプレー画面が生じた。羅刹の言語なのでナラヤンには読めないのだが、憑依しているサラスワティが小さくため息をついたのを感じる。

「ムカスラさん、何か事件が起きたのですか?」


 ナラヤン素体の問いかけに、両目を閉じて呻きながらうなずくムカスラだ。

「はい。研究所に近い村で巨大ワームが脱走したという知らせです。対処は帝国軍が担当するのですが、万一に備えて実験を中断するようにという事ですね」

 そういえば今はまだ日中なので、ムカスラが勤務している研究所は仕事中である。


 巨大ワームは村で生じたゴミや汚水を食べて処理している。いわば巨大なミミズのような感じで、肥えた土にして排出している。この土は農業に使われているそうだ。

 普段はゴミ捨て場で飼っているのだが、流れの魔物がやって来てしまい、その魔物を餌と認識して巨大ワームが追いかけ回してしまったらしい。結果、ゴミ捨て場の外に出てしまった……という経緯だ。


 ムカスラが申し訳なさそうに赤い髪の頭をかいた。せっかく整えてあったのだが、あっという間にボサボサ状態になっていく。

「ワタシは新人なので、こうしてチヤ休憩をしているのは心苦しいですね……ははは」

 それを聞いたナラヤン素体が目をキラキラ輝かせて提案した。

「では、僕たちも可能な範囲内でワーム捕獲に協力しましょうか」


 驚いているムカスラと憑依しているサラスワティに、ナラヤン素体が緑色の自身の顔を指さす。

「僕は人間ですから、ワームから見れば餌ですよね。囮に使えば、ワームを誘導できると思いますよ」


 ムカスラが困惑した。

「確かに誘導できるでしょうが……客人にそのような危険な行為を頼む事はできませんよ。それに、巨大ワームに対しては帝国軍が対処しますので、私たちのような素人は邪魔になるだけかと」

 そう言ってから、新たに表示された空中ディスプレーの表示を見て、ジト目になった。

「……帝国軍としては、魔法攻撃して巨大ワームを粉砕するという作戦をとるそうです。この方法ですと、死んでしまいますね。村でのゴミ処理と汚水処理が一時できなくなりそうです」


 ナラヤン素体がさらに目をキラキラさせている。その緑色の顔を見て、軽く肩をすくめて微笑むムカスラだ。

「分かりました。ナラヤン君を囮に使って巨大ワームを誘導し、剣などで切り刻むという提案を上司にしてみますね」

 輪切りにすれば、明日には再生するらしい。


 黙って聞いていた憑依サラスワティが、呆れた口調でコメントした。

(騒動に進んで関わるのは感心しませんよ。ですが、村人が困るのも理解できます。一応、護身用にコレを渡しておきますね)

 ナラヤン素体の手元に巨大な斧が出現した。柄が長くて槍の穂先が先端に付いている。斧の反対側には獲物を引っかけ捕らえるための巨大なフックが付いていた。

(ゴード斧です。元々は戦象の操縦士が使う道具ですが、これに武器の機能もつけています)


 それを肩に担いだナラヤン素体が満面の笑みを浮かべた。大きさは両手持ちの戦斧なのだが、片手で軽々と振り回す。

「重さが全く感じられませんね。これなら存分に走り回って囮の役目を果たす事ができそうです」


 ムカスラが手元の小さな空中ディスプレー画面を見て、肯定的に首をふった。

「上司から軍に話が通りました。軍の剣士隊が待機している場所へ、巨大ワームを誘導する作戦に変更されました。ナラヤン君、頑張って走り回ってくださいね」


 ムカスラが転移魔法を使って、巨大ワームが爆走して暴れている現場に移動した。ナラヤン素体が緑色の顔で感嘆する。

「で……でっかいなー。しかも動きが速いですよ。僕の自転車くらいのスピードはあるような」


 確かに巨大だ。全長10メートル、直径は1メートルほどある。手足がない癖に機敏に飛び跳ねて、こちらへ爆走してきていた。動きは例えると、蚊のボウフラみたいな感じだろうか。

 ナラヤン素体の存在を早くも察知して、吼えながら突進してきた。口は無数の鋭い牙がズラリと並んでいて、何かの肉やらゴミが大量に付着している。周囲には魔物の姿が見当たらないので、すでに食べられてしまったのだろう。


 ナラヤン素体が目をキラキラさせた。

「すっげー! 何かのゲームとか映画で出てきそうな怪物だあ」

 早速ゴード斧を肩に担いだままで脱兎のように走り始める。明らかに人間の走る速度ではないので、驚くナラヤン素体だ。

 憑依しているサラスワティが少しご機嫌な口調で教えてくれた。

(オートリキシャ程度の速度で走り回る事ができるようにしておきました。ワームよりも速く動けますよ)


 オートリキシャはインド圏で庶民の足として活躍している、小型の三輪タクシーである。最大速度は原チャリ程度だ。この時代ではガソリンエンジンではなく電池式に切り替わりつつある。


 感謝するナラヤン素体だ。爆走する巨大ワームの咬みつき攻撃を楽々と回避して、ゴード斧の腹でぶん殴っている。大きな石と土砂が舞い上がるが、これらもサラスワティが付与してくれた魔法障壁に弾かれてナラヤン素体には当たっていない。


 調子に乗り始めるナラヤン素体である。

「ひゃー。俺ツエエエじゃないですか。無双しちゃって良いですか」

 サラスワティがクスクス笑いながら答えた。

(ダメですよ。帝国軍の剣士さんたちの仕事を奪ってはいけません)


 そうでした……と素直に了解したナラヤン素体が、巨大ワームの口先を走り回って挑発していく。大いに吼えた巨大ワームが怒りで発光し、作戦予定地へ走り入った。

 その瞬間、ナラヤン素体の両側を何かの残像が高速で行き違う。

 次の瞬間、爆走してきた巨大ワームが十数個の輪切りにされた。大量の血が噴き上がり、輪切りにされた肉片が地面をタイヤのように転がっていく。そのうちの数個は、途中で光の粉に変換されて消滅した。


 思わず立ち止まって振り返るナラヤン素体だ。目を丸くして驚愕している。

「うわっ。一瞬の攻撃か。かっこいい!」

 剣士たちはそのまま作戦場所から離脱して、姿を消していた。代わりにムカスラが転移してやって来る。

「作戦終了ですね。お疲れさまでした。帝国軍からも感謝されていますよ。光って消滅した輪切りは、恐らく前回ドゥルガ様が教えてくださった技でしょう」


 ナラヤン素体が照れながら頭をかいた。

「僕は走り回っただけですよ。しかし、帝国軍の兵士の姿を全く見かけませんでした。ステルス魔法とか使っていたのでしょうか」

 ムカスラが軽くうなずいた。

「ですね。軍の装備や魔法術式を見られるのは何かと都合が悪いですし」

 憑依しているサラスワティも感心している。

(そうなんですよね。私も帝国軍が使用した魔法の術式を取得できませんでした。驚きました)


 さて、この巨大ワームは輪切りにされても生きているが、攻撃力はほぼ無くなっているので村人だけで対処できた。輪切りの状態で、元のゴミ捨て場へ運ばれていく巨大ワームを見送るナラヤン素体とムカスラだ。


 ナラヤンが緑色の顔で村人たちに手を振っている。

「後でドゥルガ様に話しますね」

 ムカスラがニコニコしながらうなずいた。

「そうしてください。帝国軍も喜びます」

 憑依しているサラスワティも穏やかな口調で賛同した。

(良いですね。姉もきっと喜ぶと思いますよ)


 最後にナラヤン素体が近くの川に飛び込んだ。バシャバシャ水浴びすると、顔色が緑から通常に戻っていく。

「マタンギ化を解除しておかないと、この素体の再利用をする時に困ると思いまして」

 ムカスラが感謝した。

「助かります。今は素体不足なんですよ」


 水浴びを終えて元に戻ったナラヤン素体が、岸に上がる。

「そう言えば先日、王宮跡公園に半透明の巨人が訪れました。カンチェンジュンガ巨人を救出したいと言ってましたよ」


 憑依しているサラスワティが苦笑しながらコメントした。多分、ジト目にもなっているのだろう。

「そうですね、早く引き取ってくれないかと常々思っていたんですよ。何千年も面倒みている私の身にもなってください」


 ムカスラが腕組みをして呻いた。

「羅刹世界があるように巨人世界もあります。ですが誰も行けないように、魔法がかけられているんですよ」

 そう言ってから、口調が少し強くなる。

「その巨人世界も手狭になってきているようです。それで、あちこちの異世界へちょっかいを出して迷惑をかけていると、マガダ帝国へ出入りしている魔法使いや神官が怒っていますね」


 ナラヤン素体が興味深く聞いて、軽く腕組みをした。

「僕のスマホも過負荷がかかったせいで壊れてしまいました。ムクタル先生に直してもらいましたが、出費がきつかったです。親からも、浪費するなと怒られてしまいました」


 その場面を思い出したのか、軽く目を閉じるナラヤン素体だ。細い眉がピクピク動いている。

「それでもサラスワティ様が中に入る事ができないので、まだ調子が悪いんですよね。再調整してもらいます。素体だと今回みたいにマタンギ化する恐れがあるし……」

 サラスワティも真面目な口調で答えた。

「私も対処方法を考えますね」


 ここで1時間が経過したので召喚終了となった。そのまま人間世界へ戻る。


 しかし、川に飛び込んだ際にナラヤン素体は川泥を吸い込んでしまっていた。

 次の日は大量の泥を便として排出し、腹痛に悩まされるナラヤンであった。

「素体に憑依したのは魂だけだったのに、なぜ?」

 トイレにこもって苦しみながら、ナラヤンがスマホでサラスワティとムカスラに電話してみる。

 サラスワティがナラヤンに謝ってから推測した。

「恐らくはマタンギ化した際の副作用ではないでしょうか」


 ナラヤンの魂がマタンギによって浸食されてしまい、その一部がマタンギと同化した……という仮説だ。その同化部分はマタンギなので、泥を食らう。

「ナラヤンさんの魂が元の自分の体に戻っても、その同化部分が残っていたのかも。それが人間の魂に戻った際に、吸収していた泥を吐き出したのでは」


 マジですか……と唖然とするナラヤン。

 ムカスラは電話向こうで興味深く聞いている。

「法術と神術とはかなり違うんですね」


 結局、その日も授業があったので登校したナラヤンであった。そして、ガンガトール高校のトイレが泥で詰まって大騒ぎになってしまった。


 放課後になって寮に逃げ込んだナラヤンが、サラスワティに一応知らせる。

「僕のせいだとはバレませんでした。お腹の具合も良くなってきましたし、明日には治るかと思います。しかしジトゥが僕のせいではないか、と聞いてきて面倒でしたけど」

 サラスワティが電話口で謝った。

「そうでしたか。すみません、ナラヤンさん。早急に対処しますね」


 結局、学校のトイレ泥まみれ事件は、放送部のジトゥが学校ミステリーいう線で記事にしたのであった。

 ジトゥが翌日、学校でナラヤンを見かけて肩に腕を回してきた。

「なあ、ナラヤン。この数ヶ月間、オカルト事件が増えていないか?」

 ナラヤンが目を泳がせながら視線を逸らした。細い眉も互い違いにぎこちなく動いている。

「そ、そそそそんな事はないと思うよ」


 その日はシディーダトリが耳ざとく聞きつけて、ナラヤンが参加しているロボ研部室に飛んできた。ジトゥと同じように、ナラヤンの肩に手をかけてニタニタ笑い始める。

 実際には触れられているという感触はないのだが、スマホの画面越しにシディーダトリの顔がドアップで映し出されていた。かなりウザイ。

「ミミズみたいな事をしてたって、小人型のサラスワティから聞いたわよ。どんな気持ち? ミミズになった気持ちってどんな気持ち? 泥の味ってどんな味?」


 ケラケラ笑うシディーダトリにジト目を向けるナラヤンだ。今はロボの動作プログラムを作っている最中なのだが、早速コードを打ち間違えてしまっている。

「僕なんかに構っていないで仕事をしてはどうですか。カーリー様の仕事があるんでしょ」


 シディーダトリがドヤ顔で笑った。

「残念だったね人間。もう今月は神無し月だ。神々は休暇中だぜ。カーリー様も休暇旅行に出かけてるから、怠けてても怒られないのだ」

 ナラヤンも、そう言えばそうだったなと気づく。


 ロボ研のサンジャイ部長がナラヤンを叱った。

「コラ、ナラヤン! 手が止まってるぞ。来週にはダランのロボ研と試合なんだ。ロボの調整を済ませなくては勝てないぞ」

 はいはい、と返事をしてプログラム作成を再開するナラヤンだったが……腹を押さえて呻いた。

「……うう、まだお腹がゴロゴロ鳴っている」

 腹痛で背中を丸めて、肩を落とす。


 シディーダトリがご機嫌な表情で飛び去っていった。治療するつもりは毛頭ないらしい。

「ではまたー。アタシはこれからバカンスだぜー」


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