マガダ帝国の大湖 その二
ナラヤンの意識が一時消失して、再び気がつくと素体に魂が移動されていた。今回は小学生くらいの男の子型であった。その体を動かして、その場で軽く跳びはねる。
「……子供の体って、こんなに身軽でしたっけ。特に問題は感じられません」
ムカスラの説明によると、人間は羅刹世界に長時間滞在すると魔法場による浸食汚染が深刻になるらしい。そのため体を石化して保存し、魂は素体に封入したという事だった。
ムカスラが白衣姿でナラヤン素体の手をとった。
「1時間の余裕ができたので、その間に観光しましょうか。サラスワティ様はマタンギ化してしまいましたが、こちらも特に問題なさそうですね」
ナラヤン素体がスマホ画面を見ると、そこにはマタンギ化したサラスワティがいた。相変わらず酔ったような表情だが、言動はサラスワティのままだ。落ち着いた口調で答えて微笑んだ。
「そうですね。この程度でしたら制御できます」
ナラヤンが感心している。
「なるほど、言動はサラスワティ様のままですね。これなら安心です」
マタンギもスマホの中で肯定的に首をふった。
「次回は各種術式を工夫して、マタンギ化しないようにしてみますね」
研究所から少し歩くと、巨大な湖に出た。相当大きな湖のようで、南の水平線の向こうには陸地が見えない。砂浜に打ち寄せる波も海のようだ。ただ、淡水湖なので潮の香りは感じられない。
ナラヤン素体が目をキラキラさせて、水を舐めた。
「おおお……塩辛くない。淡水だ。凄いなあ。人間世界と羅刹世界って地形が同じなんですよね。こんな大きな湖は僕の世界にはないですよ。僕の故郷とビラトナガル市が湖の底に沈んでいるのかー……」
ムカスラが空模様のニュースを魔法で聞いてから、軽く肩をすくめて答えた。
「大湖と呼ばれています。羅刹世界では最大の淡水湖ですね。実はコレ、人工湖なんですよ」
人間世界でも同様なのだが、コシ河は暴れ河だ。洪水がよく発生する。
その影響はコシ河の先にあるガンジス河にも及ぶ。そのため、ガンジス河の河口に広がる広大なデルタ地域でも洪水が発生する。河口域は巨大で、コルカタを含む西ベンガル州南部と、バングラデシュのほぼ全域が相当する。
このデルタ地域は穀倉地帯でもある。そのため、ガンジス河の流れを改善する事業が興った。といっても、かなり昔の話になるが。
当時、魔法世界から呼ばれた魔法使いが魔法で河川工事を行った。
が、魔法が暴走。河口域に巨大な山が誕生してしまった。そのためガンジス河がせき止められてしまい、水が流れなくなって羅刹世界で最大の淡水湖が誕生したのであった。
穀倉地帯も大半が湖の底に沈んでしまった。
この大湖の水深は、雨期の最盛期で150メートルにも達する。ナラヤン素体が指摘した通り、ビラトナガルがある場所も水没するため、羅刹たちは標高200メートル以上の山間部へ移住している。
「大湖ですが、季節で大きさが変わります。最も大きい季節では、東西1500キロ南北200キロに膨れ上がりますよ」
その大きさを聞いて驚くナラヤン素体と、スマホ画面のマタンギだ。
大湖の水辺にある喫茶店でお茶する事になった。ムカスラがナラヤン素体にショウガ酒を勧めたのだが……ナラヤンは未成年なので断った。
「見た目も完全に子供ですし」
残念がるムカスラ。
今は雨期なので一番水深が深くなる時期になる。そのため喫茶店も湖の中にあって、陸地とは橋でつながっている状況だ。水はナラヤンの予想以上に清く澄んでいて、魚の大群や水草の草原が見える。
と、スマホの中のマタンギがサラスワティに戻った。自身も驚いている。
「あらら……ビラトナガル市内よりも清浄なんですねここ」
マジですか……と驚くナラヤン素体。
羅刹魔法場は闇魔法の系統なので、環境に良くないのではと勝手に想像していたのだが……実際は環境にも優しいようだ。実際、羅刹世界の風景は実に牧歌的である。
(不思議なものだね、魔法場って)
ムカスラが飲んでいるショウガ酒に、サラスワティが興味を抱いたようだ。
「私にも一杯もらえますか?」
快く了解したムカスラが、新たに注文して供物として捧げた。
「どうぞ。この時期は暑いので冷やしてありますよ」
ショウガ酒がスマホ画面の中に現れ、それを手にして飲むサラスワティ。
「魔法禁止世界ではないので、実際に飲食ができますね。2000年ぶりかも。んー……昔飲んだショウガ酒とは風味が違いますが、これも美味しいですね」
そう言ってからクスクス笑った。
「ここだけの話ですが、ビラータ藩王国が滅んでナンダ帝国が興った原因の一つがコレなんですよ。お酒の力って凄いですね。その後のチャンドラグプタさんが下戸だったので、廃れてしまいましたけれどね」
そうなんですか……と真面目に聞くナラヤン素体とムカスラ。
サラスワティがスマホ画面の中で微笑んだ。早くも目元が緩んできているような……
「ムカスラさんの上司にプラランバさんが居ますから、彼に聞いてみると面白い話がたくさん聞けますよ」
その後は、広大な湖を眺めながらの談笑になった。ムカスラがこの湖の話を続ける。
彼の話によると、大湖には数万人もの規模の水上集落が点在しているそうだ。湖が季節変動で大きさが変化するので、それに合わせて湖面を移動している。魔法具やドワーフ技術を使って建てているので、沈没の心配はないらしい。
「リゾート集落もあって人気なんですよ」
サラスワティが画面の中でショウガ酒を飲み干した。テーブルにあるショウガ酒も同調して空になる。
「でしたら私が神術でその山を吹き飛ばしましょうか。マンダという神術でしたら、ストラを数億発一度に撃てます」
ナラヤンが冷や汗をかいた。
「ムカスラさんから聞いたのですが、ストラって一発でビラトナガル市が消し飛ぶ威力なんですよね。それが数億発なんですか……」
ムカスラも驚いている。
「さすが神術ですね。もしかしてシシュナーガ王国の羅刹軍を滅ぼしたのって、その神術ですか?」
サラスワティが微笑んだ。
「あの戦いに私は参加していませんよ。姉のドゥルガは大暴れしてましたけど」
その前のカラヤヴァーナ帝国との戦いで使った神術だと話してくれた。
「羅刹軍が100万もいたので苦労しました。ほぼ皆殺しにしたのですが……今から思うと若気の至りですね」
マジですか……とドン引きするムカスラだ。
ナラヤンは呪術師のラズカランから神話を聞いていたので、本当だったのかと驚いている。
(桁はかなり少なくなってるけどね。ラズカランさんめ、やっぱり数字を盛っていたか)
結局、山を吹き飛ばす事は遠慮してもらった。ムカスラが恐縮しながらサラスワティに話す。
「気候が変わってしまう恐れがあります。農業や畜産水産業にも大きな悪影響が出てしまうかも知れません」それもそうですね、と理解するサラスワティ。
湖面には多くの魚が群れをなして泳いでいるので、釣りをする事になった。餌は無菌飼育しているウジ虫だった。結構大きい。
スマホ画面の中のサラスワティがドヤ顔になる。
「もうソレを見てもマタンギ化はしませんよ。触りはしませんけどねっ」
ナラヤン素体とムカスラが釣り上げたのはマスの仲間で、早速喫茶店のオヤジに頼んで串焼きにしてもらう。最初にスマホの中のサラスワティに供物として捧げると、彼女が喜んだ。
「良い生気です。本当に清浄な湖になっているんですね」
そう言えば……と、サラスワティが話を続けた。パクパクと串焼きの魚が食べられていく。
「マチャ帝国は魚がシンボルだったんですよ。マチャ帝国が滅亡した後でチャンドラグプタさんに何度か川魚を御馳走してもらいましたが、ここのマスの方が美味しいですね、あはは」
喫茶店の近くには手漕ぎの渡し舟の発着場があった。そこでは木製の小さな渡し舟に乗った羅刹たちが、水平線の向こうにある水上集落へ移動していく。
船頭がムカスラに会釈して、低く渋い声で舟唄を歌い始めた。羅刹魔法を使って船を漕いでいるのでかなり速く、みるみるうちに水平線の向こうへ消えていった。
その様子をスマホの中からニコニコしながら見送るサラスワティだ。
「平和な国になったんですね」
はい。とうなずくムカスラ。
「テロ組織や敵対している国は、まだ多いのですが……マガダ帝国内はどこもこんな感じですね」
サラスワティがヴィーナを呼び出して、早くも耳コピーした舟唄をネパール語に翻訳して歌い始めた。驚くムカスラと喫茶店のオヤジ羅刹、それにナラヤンだったが、すぐに歓迎して聞き入る。
ナラヤンが称賛した。
「希望に満ち溢れる歌詞ですね」
サラスワティが歌い終わって少し照れた。
「こういった前向きな歌って、ずいぶん久しぶりに弾きました。良いものですね」
そんな談笑を続けていると、1時間が経過した。ムカスラの手元に空中ディスプレー画面が発生し、アラームが鳴る。
「あ。時間ですね。では、ナラヤン君は人間世界へ戻ってもらいましょうか」
石化状態のナラヤンの肉体を元に戻し、ナラヤンの魂を素体から戻す。その作業中に意識が遠くなるナラヤンだ。この点はまだ改善されていないようである。
帰還先は王宮跡公園の丘の上だった。元の体に戻ったナラヤンが芝の上で起き上がる。
「またここか。羅刹世界と縁があるのかな」
スマホ画面を介して、ムカスラとサラスワティに自身の体と意識に異常がない事を伝えた。人間世界なので、ナラヤンは直接彼らを見る事はできない。少し不便に感じるナラヤンであったが、仕方ないと割り切る。ちなみにサラスワティはスマホから外に出ていて、周囲を感慨深そうに眺めている。
丘の下にはヘビとカラスの魔物がいたので、サラスワティが神術を撃って殺し、魂だけにして自身の水筒に吸い込んだ。どことなく寂しげな表情になっている。
「魔物って廃墟とかに集まりやすいんですよね……後でムカスラさんの水筒に魔物の魂を転送します」
カーリーが使った水差しは、後で破壊して粉にすると告げるサラスワティだ。ムカスラが残念がるが仕方ないと納得した。
そこへ、ミニスワティが小さな白鳥に乗って飛んできた。ナラヤンに気さくに手を振って挨拶してから、真面目な表情でサラスワティ本人にそっと報告する。そして、すぐにビラトナガル市街へ向けて飛び去っていった。
その白鳥とミニスワティを見送ったサラスワティが、残念そうな表情でナラヤンとムカスラに告げた。
「病院詰めしている分身から救援要請が来ましたのでそちらへ向かいます。カルナさんに廃人にされたパトナの呪術師達がネパールに来て倒れたそうです。神術の解除をしないといけません」
ナラヤンが思い出した。
「あー……カルナ様がそのような事をしていましたね。インドからはるばるネパールへ来ていたんですか」
小さくため息をついたサラスワティが、それではここで失礼しますね、と去った。瞬時に彼女の姿が消える。
ムカスラも一緒に人間世界まで来ていたが、手元の小さな空中ディスプレー画面を指さして苦笑した。
「研究所から呼び出しが来ています。人手不足なので新人のワタシは雑用係で忙しいんですよ、ははは。ではワタシも戻ります」
そう言って去った。彼の姿もスマホ画面に映らなくなる。
ナラヤンも軽く背伸びした。
(皆さん忙しいんだなあ……さて、僕もラムバリさんに挨拶しに行くかな)
ナラヤンが丘を歩いて下りていくと、周囲の村から牛糞の臭いとハエが。
「むむむ……やはり羅刹世界の方が清浄なのかも知れないなあ」
そしてスマホを見て首をかしげた。
「いつの間にかテレビ電話機能がついてたな……っていうか、神様の出入り口になってしまったような。ま、いいか」
赤い屋根でドゥルガ祠も兼ねている公園事務所へ入り、公園管理人オヤジに挨拶する。
この間の大雨で一気に雑草が伸びてきたとグチるラムバリだ。仕方がないので、ナラヤンが丘の下で草刈り鎌を使って除草する事になった。
草刈り機は寮に置いてあるので、倉庫にある大鎌を使う。見た目は死神が使っているような巨大なものである。
「慎重に作業しよう。この大鎌ってうっかりすると足を切ってしまうんだよね」
その草刈り作業をしていると、背筋に悪寒が走った。
(な、なんだ……?)
思わず作業を中断して周囲をキョロキョロ見渡す。と、公園の外に異形の何かが現れて、こちらへ歩いてやって来るのがスマホ画面を通じて見えた。
「げ。で、でかい。何だアレ」
異形の何かは次第に人間のような形状に変化していく。そして背丈十数メートルもある武装した巨人の姿になった。それが音もなく歩いてやって来る。実体化はしておらず半透明なので、地響きも発生していない。
ナラヤンが目を点にして眺めていると、その半透明の巨人が公園の壁を余裕で踏み越えた。そのまま公園の敷地内へ歩み入る。
スマホ画面を通じてその巨体を見上げるナラヤンに、巨人が顔を寄せてきた。
「貴様がカンチェンジュンガ様を見たという人間か」
巨人に聞かれて、素直に肯定するナラヤン。
スマホに常駐しているクジャクとイノシシに指タッチして、ナラヤンが救援を呼びかける……が、邪魔だと巨人が言っただけで電話回線がかき消された。
「神々と羅刹には用事など無い」
そう言い放つ巨人。
しかし同時にスマホも火花を散らして壊れてしまった。スマホを通じてしか知覚できないので、巨人の姿を見失いキョロキョロするナラヤン。
呆然としているナラヤンに、公園管理人のラムバリが歩いてやって来た。雰囲気が彼のものとは別物に変わっている。人間の雰囲気ではない。
「人間は我を知覚する事は難しいだろう。よって近くにいたこの人間の体を借りた。これでどうだね」
声があの巨人のものだったので憑依したのかと理解するナラヤン。
名前を尋ねるが、拒否されてしまった。憑依ラムバリがナラヤンに説明する。
「巨人の名前には魔力がこもっているのだよ。生身の人間が聞くと魔法場汚染により死んでしまう。貴様が何かに憑依していれば大丈夫だが、今は無理のようだな。我の事は巨人とでも呼べ」
了解するナラヤン。
その時、丘の上でバチバチと火花が散った。
憑依ラムバリが鷹揚に丘の上を見上げて、小さく呻く。ナラヤンも丘の上を見上げて聞いてみた。
「やはり何かあるんですか? 巨人様」
しかし憑依ラムバリは素っ気なく答えるだけだった。
「何だ知らぬのか。知らぬなら知らぬままにしておこう」
その反応で確信するナラヤンだ。
(やっぱり、この遺跡には何かあるんだな)
憑依ラムバリがナラヤンに詰め寄ってきた。
「そんな事よりもだ。カンチェンジュンガ様について見た事を話せ、人間」
ナラヤンがひるまずに気楽な口調で応じた。今までの経験で、かなり場慣れしてきたようである。
「それじゃあ、近くの茶店に行きましょうか。この大鎌も洗って倉庫に戻さないといけませんし」
公園の外の村にあるチヤ屋台に行き、チヤを注文してすすりながら話すナラヤン。
「僕が見たのは、山々に被さるようにかかる半透明の巨大な壁でした。場所はイタハリの北です」
そう言ってから、北の方角を指さした。ちょうど丘陵地のふもとになる。
「あの辺りがイタハリです。僕が見たのは、北東の山々を全て覆う巨大な半透明の壁でした」
憑依ラムバリもその方角を眺めて、貴重な情報が聞けたと感謝した。
「カンチェンジュンガ様は永い間、お隠れになっておられるのだ。我々巨人族による探索でも見つかっておらぬ。この人間世界では、巨人族は実体化するだけで因果律崩壊を引き起こす恐れがある。そのため、なかなか探索がはかどっていないのだ」
神様と同じか……と理解するナラヤン。
「面倒な制限ですよねえ、同情します」
しかし……と小首をかしげた。
(カンチェンジュンガ様って、ここから見えるカンチェンジュンガ連峰にいるんだよね。簡単に探索できると思うんだけど……)
ナラヤンが話を続けた。
「カンチェンジュンガ様は巨人族にとって重要な方のようですね」
うなずく憑依ラムバリ。彼の頭はかなり髪の毛が後退していて今も日差しを反射しているのだが、巨人の影響なのか非常に神々しく見える。威厳も十分だ。
「齢300万歳を超える御方だからな。我ら巨人族でも最古参に属するのだ。何とかして救出したいのだが、魔法禁止世界ではなかなかに難しい」
ナラヤンが質問した。
「あの……もしかすると、他にも同じような巨人が人間世界に残っているのでしょうか」
うむ、とうなずく憑依ラムバリ。
そりゃ大変だと同情するナラヤン。
ナラヤンが少し考えてから話した。
「サラスワティ様がカンチェンジュンガ様について色々と知っているようですよ。コシ河の水はカンチェンジュンガ様の寝汗だとか、沐浴をしていないので魔物が体に多く巣食っているとか言っていました」
興味深く聞く憑依ラムバリ。
「そうか。これも貴重な情報だな。サラスワティ様には昔、巨人族を助けてくれたので感謝しているのだよ。しかし人間世界へ行く機会がないので、これまで礼の一つも言えぬままだが」
それってどうなんだ? と内心でツッコミを入れるナラヤンである。
「とりあえず、僕の方からサラスワティ様に巨人族が感謝していると伝えておきますね」
憑依ラムバリが鷹揚にうなずいた。今まで感じていた圧倒的な威圧感が少し和らぐ。
「そうか。ではよろしく頼む」
そして憑依ラムバリがナラヤンに顔を寄せて聞いた。
「それはそうと、どうして巨人族を人間が知覚できているのだ? 魔法適性はないはずだが」
ナラヤンが壊れたスマホを取り出した。
「実は羅刹世界とちょっと関わり合いがありまして……」
ナラヤンの話を興味深く聞く憑依ラムバリだ。
「……なるほど。カンチェンジュンガ様の体に棲みついた魔物の掃除をしてくれたのか。羅刹どもは意図していないのだろうが、結果的に良い事をしているようだな」
ご機嫌になり、チヤをすすった。
「なかなか美味いなコレ」
ナラヤンが微笑んだ。
「でしょー。ここのチヤはこの村の水牛の乳を使ってますからね。茶畑も近いですし」
憑依ラムバリがチヤを飲み干してナラヤンに礼を述べ、そして憑依を解いた。
「情報提供を感謝する。機会があればまた会おう、人間」
ラムバリの意識が戻った。雰囲気も普通のオッサンに戻る。
「ん? なぜここにいるんだワシは。さっきまで事務仕事をしていたんだが……ん?」
理解できずに驚いているラムバリに、ナラヤンがチヤをすすりながら話しかけた。
「先程から何か考え事をしていましたから、ここに来た事に気がつかなかったんでしょう」
そしてもう一杯チヤを注文した。
が、次の瞬間。6本脚の獅子に乗ってスクランブル出動をかけてきた、カーリーの三又槍の一撃を食らってしまった。チヤ屋台が粉砕されて、ラムバリと屋台のオヤジまで潰れて肉塊になる。ナラヤンも当然のように潰れていた。
カーリーが瓦礫と化した屋台の上に降りた。
「魔物が出たと緊急警報を受けたのだが……あれ?」
村から人々が飛び出してきて、粉砕されたチヤ屋台に駆け寄って大騒ぎを始めた。
三又槍を一閃して彼らを気絶昏倒させる。そして足元の肉塊を見下ろし、ため息をついた。三つの人間の魂が空中に浮かび上がってきたので、それらを無造作につかむ。
「……また貴様か、人間。ええと、ナラヤンとか言っていたか」




