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ビラトナガルの魔法瓶  作者: あかあかや
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カルナ来訪

 ガンガトール私立高校の授業が終わり、放課後になった。ナラヤンがロボ研部で、プログラム作成やロボづくりを部長や部員たちと進めている。

 サンジャイ部長が帳簿を見ながらニコニコしている。部活動の一環でビラトナガル市内の公衆電話や固定電話の修理サービスなどをしているのだが、その謝礼金収入などが記入されてあった。ナラヤンが時々している王宮跡公園での草刈り仕事も、これに含まれる。

「これなら遠征旅行もできそうだな」


 部長が、ロボの支持フレームを電ノコで切り出しているナラヤンの肩をポンポンと叩いた。

「ナラヤン隊員が重機の修理もしているので、その謝礼金収入もあって良い部品が買えるよ。感謝だ」

 照れるナラヤンである。危うく電ノコでフレームを切り過ぎそうになったので、慌てて停止スイッチを押したが。


 早速、遠征旅行の日程を考え始める部長たちだ。

「まずは一番近いダランだな」

 ダランはビラトナガルから真っすぐ北にある、ヒマラヤ山脈の山中にある街だ。地形のせいでかなり暑くなる事で知られている。主にライ族やリンブー族といった山岳少数民族が多く住んでいる。


 止まった電ノコを掃除してから、ナラヤンが北の方角に視線を向けた。ここからでは建物しか見えない。

(遠征か……そう言えば、ドゥルガ様の拠点は西のポカラだったっけ。ポカラにもロボ研があるし、後で問い合わせてみるか)


 スマホのクジャクが着信を通知した。ビハール州都パトナにいるカルナから返事が届いたと、クジャクが吹き出し形式のチャット文で伝えた。

 パトナで性質の悪い呪術師が居るという噂があり、彼が古いツボや水差しをガンジス河から引き上げている……とカルナに知らせていた。その情報を実際に伝えたのは、サラスワティの分身であるシディーダトリだが。


 ナラヤンがクジャクを指タッチすると、部室内にカルナが転移してきた。その姿をカメラ経由で見て、合掌して挨拶するナラヤン。

「カルナ様ですね。ナラヤンと申します。今回は、わざわざ来てくださって、ありがとうございます」


 カルナは宗教画でよく見られるような姿だった。白い衣装の上に金色の冠をつけ、首や腕にも装飾品が輝いている。弓を背負っていて、背中には矢筒がある。大刀も腰に吊るしているが、形状はスチミタールではない。

 肌の色はナラヤンよりも明るい印象である。


 ロボ研の部長や部員たちにはカルナの姿は見えないので『またナラヤンの奇行が始まったよ』という認識のようだ。ナラヤンを放置して、打ち合わせの続きを始めた。


 ナラヤンも慣れているのでロボ研の部室から出て、校舎の北にある空き地に向かう。

 そこへ到着後、周囲に学生が居ない事を確認し、スマホのイノシシを指タッチしてムカスラに電話で知らせた。


 すぐにムカスラも転移して空き地へやって来た。ナラヤンと同じように合掌し、さらに片膝をつく。いつもと違い、赤い髪がしっかりと櫛とかれている。服装も白衣型の軍服姿で格好良く見える。

「お目にかかれて光栄でございます、カルナ様」


 フン、と鷹揚にうなずいたカルナが話を始めた。カルナとムカスラの音声は、スマホのスピーカーからナラヤンに届く仕様だ。

「封印を解いて魔物や羅刹を使役しようと画策している人間が、十数名ほどいた。よって、神術で精神崩壊させて廃人にした。ヘビや犬型の魔物も一緒にいたので、処分して魂も破壊した」

 淡々と話していく。

「ガンジス河から水揚げしたツボや水差しが保管されている倉庫も特定した。が、破壊すると中に封印されている魔物や羅刹が復活する恐れがあるので、そのまま放置している。他にも呪術師が残っているかもしれないので、警戒を強めている状況だな」


 容赦ないなあ、と感心するナラヤンである。

「カルナ様、どうやって不審者を特定したのでしょうか」

 カルナがドヤ顔になる。

「神の直感だ」

 ドン引きするナラヤンとムカスラ。


 ムカスラが片膝を地面につけたままの姿勢で話す。

「人間は魔法が使えないので、魔物や羅刹を使役する事は不可能でしょう。しかし汚染源には変わりがありませんので、その倉庫に行ってツボや水差しを全て座標特定していく所存でございます」

 結構緊張しているなあ……とムカスラを見るナラヤンである。ムカスラは顔を伏せて話している。

「この機会に、ガンジス河に沈んでいるままのツボや水差しについても座標を特定いたしたく存じます」


 後日マガダ帝国の救出部隊が来て、封印されている魔物や羅刹を救助する段取りだ。救出後、中身が空になったツボや水差しを破壊してくださいとカルナに頼む。

「人間世界と羅刹世界との出入り口が多くなる良い機会なのですが、仕方がありません」


 鷹揚にうなずくカルナである。雰囲気は、先日の羅刹兵の兵長に近いかな……と思うナラヤン。しかし、実際の威圧感はカルナの方が圧倒的だが。

「羅刹どもに協力するのは不本意だが、これも仕方あるまい。では、パトナで待っているぞ」

 そう言い残してカルナの姿が消えた。


 ほっとするムカスラ。地面に尻もちをついた。赤い瞳が赤や黄色に変わっていて、彼の心情を示している。人間でいう所の、目を白黒させているという状況だろう。赤い髪は早くもボサボサ状態に戻りつつあった。

「攻撃されるのではと内心ヒヤヒヤでした」

 ナラヤンも同情する。

「カルナ様は英雄ですからねえ……僕の村でもカルナ様を熱心に信奉する人が多いんですよ」


 ムカスラがそれでは、早速プラランバ上司に伝えてきますと言って消えた。

 入れ替わりにスマホ画面にクジャクが登場し、サラスワティからの電話通知を知らせてくる。すぐに電話に出るナラヤン。

「ハローハロー、ナラヤンです」

「私です。カルナさんがスマホを介して転移したそうですね。無事に転移できたようで安堵しました」


 ナラヤンがカルナと話した内容をサラスワティに伝えると、少し不機嫌な口調になった。

「私以外の神々でもスマホを使えるようにしましたが、私に一言欲しかったですね。まったくもうカルナさんは……いつもこうです」


 ナラヤンが小首をかしげた。

「ええと……ドゥルガ様が既にやっていますよ?」

 サラスワティがコロコロと笑って答える。

「姉は物凄く頑丈ですので大丈夫ですよ。他の一般の神々は繊細なので注意しないといけないのです。後で行動ログを解析して、術式の動作確認と不具合修正を行いますね」

 行動ログを取っているのか……と冷や汗をかくナラヤンであった。

(エロサイトとか見れないな……)


 その後はドゥルガの話題になった。楽しく雑談を交わしていたのだが、サラスワティが何か思い出したようだ。

「あ、そうだ。二つお知らせがあります」


 サラスワティが自作した泥スマホは神術場の影響で壊れて、粉になってしまった……と語る。

「泥といえども神術には耐えられないようですね、何か緩衝材になるような物を混ぜた方が良さそうです」


 どんなものが良いんですかとナラヤンが聞くと、いわゆる生贄ですねと答えるサラスワティ。

「生気を帯びたものなら何でも良いのですが、血が手っ取り早いかな」

「では、僕の血を献血しましょうか?」


 ナラヤンの提案を聞いたサラスワティが、少し考えてから遠慮した。

 泥スマホはブラーマ神も気に入っているので、彼の眷属の神々にも配る必要が出てくるらしい。

「そうなると大量の血が必要になるので、ナラヤンさんが失血死してしまいます。止めておきましょう。代わりに以前受け取ったナラヤンさんの髪の毛がありますので、それを緩衝材に使って工夫してみます」


 サラスワティが言うには、ムカスラが使っているコピー魔法を習得したという事だった。

「ナラヤンさんの髪の毛をコピーして増やして実験します。血は液体ですのでコピーが難しいんですよ。ナラヤンさんの脾臓を切り取るわけにもいきませんしね」


 ナラヤンが自身の腹を片手で押さえた。

「……そうですね。脾臓ってあんまり大きくないみたいですし」

 クスクス笑ったサラスワティが同意した。

「うっかり全部摘出してしまうかも知れませんしね。実験の結果が出るまで時間がかかりますので、ナラヤンさんのスマホを当面の間は頼る事にします」

 了解するナラヤンであった。


 二つ目のお知らせは、放送部の友人ジトゥが失ったカメラとモニターを泥で作った事だった。

「作ってみました。こんな感じでどうですか?」

 早速サラスワティが転送し、ナラヤンのスマホ画面から飛び出してきた。ナラヤンがカメラとモニターを空中キャッチする。


 危うく落としそうになりかけて慌てているナラヤンに、サラスワティが電話で話し続けた。テレビ電話ではないので、今のナラヤンの姿を見る事はできていない。

「術式をかなり改良しました。人間には神術場がないので長持ちするはずです。神である私が使うと数日ももたないのですが、人間であえば数年間はもつでしょう」

 少し自慢気な口調になっていく。

「中の部品も泥から作っていますが、本物の部品に擬態しています。普通に部品交換しての修理ができますよ」


 ナラヤンがカメラとモニターを慎重に地面に置いてから、喜んで礼を述べた。

「ありがとうございます。後で供物を展望台へ持っていますね。何が良いですか?」

 サラスワティが少し考えてから答えた。

「……そうですねえ。市場で売っているインド菓子なんか良さそうですね」


 放送部のジトゥには、ナラヤンが盗品市場で見つけたと伝える事になった。

「盗まれた本人が取り返しに来たと言った事にして、格安で買い戻したとすれば彼も納得すると思います」

 サラスワティは弁舌の神でもあるので、こういった必要なウソについては特に咎めたりしないようだ。

「あの人間は、どうも危なげですね。彼が無茶をしないように忠告しておいてください」


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