後日談
先日のビラトナガル市内やコシ河展望台、橋での連続爆破事件の参考人としてナラヤンが警察に呼ばれて、事情聴収を受けた後で解放された。
スマホの解析も警察が行ったが何も発見できなかったようだ。監視カメラや目撃情報の提供者の情報も少ないという。
(そう言えば、あの時は透明化とかバリアの中だったっけ)
自撮り写真はサラスワティによってすでに消去されていたので、ほっとするナラヤンである。
ビラトナガル警察署の外に出ると、放送部の友人ジトゥが早速取材してきた。色黒で彫りが深い顔にある太い眉が愉快そうに踊っている。
「よお、容疑者ナラヤン君。何を聞かれたんだ?」
ジト目で答えるナラヤン。彼の細い眉はピクリとも動いていない。とりあえず当時の爆発の様子を話して、それで許してもらった。
ジトゥの記憶は、盗撮時の事がすっぽりと消えているようだった。不思議がっている。
「草むらで展望台を盗撮してたんだけど、そのまま呪術師と一緒に眠ってしまったんだよな。ナラヤンにいきなり病院送りにされて驚いたぜ」
カメラだが、特に注目するような映像は映っていなかったと話してくれた。
感心するナラヤンである。
(本当に映像記録まで編集してるんだ……)
家でも両親や親戚に心配され、呪術師のラズカランを呼んでもらって厄払いをしてもらう羽目になった。
そのラズカランも、スマホ画面に常駐しているイノシシやクジャクは認識できていない。彼の記憶も盗撮行為の部分が見事に消されていた。
重ねて感心するナラヤン。
(神術って凄いな)
厄払いをした後で、ラズカランがナラヤンにインドで仕入れた機械部品を売りつけてきた。ゲジゲジ眉を寄せて胸を張っている。
「どうだい?」
「ちょっと待ってくださいね」
ナラヤンがスマホで撮影して、ロボ研部長サンジャイに見せて判断してもらう。
すぐに返信が来た。そのチャット文を読んで、肯定的に首をふるナラヤンである。
「使えそうだという事です。では、代金を立替え払いして買いますね」
「まいど」
ご機嫌な表情になったラズカランが、別件の話をした。
「そうそう、この部品を仕入れた時に聞いたんだがね……」
インドのビハール州都パトナに、性質の悪い呪術師がいるという噂をラズカランが教えてくれた。
「古いツボや水差しを、ガンジス河から引き上げているって噂だ。水差しって事で、気になってな」
ビラトナガルからパトナまでは、かなりの距離がある。そのため、あまり興味を示さなかったナラヤンであった。ラズカランも同様で、単純に話のネタとして紹介しただけのようだった。
ラズカランが帰った後も特に気に留めておらず、両親や親戚から再び説教を食らう。その説教中に、気を紛らすために噂を改めて思い出すナラヤンである。
(……一応、サラスワティ様に知らせておこうかな)
夜になったので説教も終わった。
(やれやれ……さすがに警察沙汰は良くないよね)
実家で久しぶりに食事を摂り、寮へ自転車で戻る途中にサラスワティへ電話する事にした。夜道なのだが満月が輝いているので普通に運転している。この時間帯は交通警察官もいないようである。
「……あ。夜分すみません、サラスワティ様。噂を一つ聞きましたので、お知らせしておこうと思いまして」
サラスワティが了解した。彼女も特に問題視はしていない口調である。
「そうですか……私の化身シディーダトリにパトナまで飛んでもらいましょう。パトナにはカルナさんがいますので、彼に知らせれば調べてくれるでしょう」
「シディーダトリ様……ですか?」
シディーダトリとは面識がないナラヤンだ。
ああ、そうでしたっけ……とサラスワティが応えた。
「ナラヤンさんが神々に追いかけられた際に、いましたよ。白鳥の羽を背中に生やした、水色の衣装の女神です」
(って事は、サラスワティ様によって爆散させられたのか……)
サラスワティがやや口ごもった。
「私自身はあまりパトナには行きたくないんですよ。汚染が酷いのでちょっとね」
ナラヤンが自転車をこぎながら、裏道を歩いている人たちを軽快に避けていく。工場の夜勤シフトの労働者だろうか。ちょうど食事休憩の時間なのだろう。
「あ。そうだ。実は今日、警察に呼ばれまして……」
ナラヤンが事情聴収を受けた事をサラスワティに話した。
「ナラヤンさん……そういう事は最初に言ってください。噂話よりも重大ではありませんか」
呆れた口調になっている。神様基準でもそうなのか……と反省するナラヤンだ。
「すみません」
サラスワティが真面目な口調に変わった。
「警察に目を付けられるのは、ナラヤンさんの就職活動に悪影響が出ますね。分かりました、私の方で対処しておきます」
「ありがとうございます。助かります」




