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ビラトナガルの魔法瓶  作者: あかあかや
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情報提供の段取り その一

 翌日は通常通り、寮からガンガトール高校へ登校して授業を受けるナラヤンであった。大破した自転車は予想通り盗まれてどこかへ持ち去られていた。そのため登校時は徒歩で行き、放課後に新たに自転車を買う事にする。


 このガンガトール高校であるが、ネパールでも有名な進学校である。

 運動部ではサッカーやクリケット、ボクシングが人気で、国内リーグでは強豪だ。しかし、ナラヤンは人づき合いが苦手なので入部していない。


 ナラヤンが参加している部活動はロボ研である。高校の国内大会があり、毎年参加しているのだが……このロボ研は歴代を通じて1回戦敗退ばかりだ。

 この大会では、高さ1メートル以下で重量制限と出力制限がある二足歩行の人型ロボを製作する。それを操縦しての格闘戦を行うリーグ戦だ。西暦太陽暦の毎年3月に国内大会の予選がある。


 ナラヤンは子供の頃から、故郷に近いイタハリの町で公衆電話や固定電話の修理を手伝っていた。

 高校に入学してからも寮の公衆電話を修理していたら、ロボ研のサンジャイ部長に勧誘されてしまったという経緯である。

 ナラヤンが高校生になる頃には、重機やダンプトラック、トラクター、発電機も修理していたので重宝されているようだ。最近ではポットや扇風機、クーラーといった家電の出張修理もしている。


 部活動の一環として無理やりこじつけて、市内外の修理を安く請け負う事をしている。ロボ研部長が仕事を引き受け、ナラヤン含めた部員が修理して謝礼金を受け取る……という形だ。

 これを部活動の費用の足しにしている。主に部品と基盤の購入に使っているようである。王宮跡公園の草刈り仕事もその一環だ。

 高校の部活動予算だけでは到底足りないのだろう。この時代では、部活動でも営利行為がかなり認められていた。


 プログラムは東部大学の情報工学部ムクタル教授や助手から教えてもらい、自らもプログラミングする。しかし、不具合だらけだが。

 部品は市場やネットオークションを通じて買っているようだ。ナラヤンの故郷では、呪術師のラズカランが副業としてインドを行き来しながら部品を売りに来る。そのため、彼にも色々と世話になっている様子である。

 呪術師としては、占いだけでは食っていけないという理由もあるのだろう。ちなみにラズカランは昔からの付きあいなので、ナラヤンの親や親戚とも顔馴染みだったりする。


 寮の隣室の友人ジトゥの部活は放送部だ。ガンガトール高校内の校内放送や、ネットラジオでビラトナガル市内向けの放送を行っている。


 地域情報の発信と、各寺院の司祭からの行事情報、ビラトナガルを含む東部地域の学校で活動している学生アマチュアバンドや合唱団に地元ミュージシャンに楽団の演奏、それらのライブコンサート開催情報、大学の市民向け講座の開催情報、農業開発局や畜水産開発局からの肥料予約や種苗予約案内、市役所や村役場からの停電や断水情報、卸売り市場からの売れ筋商品や新規商品到着の情報、映画館からの新規映画の情報、等だ。


 放送部員は卒業後、テレビ局やラジオ局、ネット配信局、音楽サービス会社へ就職する者が多い。友人もその方面の就職活動中で、音楽サービス会社への入社を考えているようである。

 ナラヤンはジトゥに頼まれて、放送部で使う機械類の調整や修理を行っている。正式な放送部員になれと何度もジトゥから勧誘されているが、人付き合いが苦手なので断っているようだ。


 今回も取材チームの機材運びの手伝いをジトゥから頼まれたのだが、用事があると答えて断るナラヤンである。

 続いてロボ研の部長サンジャイが声をかけてきた。彼は三年生で、170センチくらいの身長だ。細身でやや猫背である。色黒で丸顔。肩先までのクシャクシャな黒髪がよく目立つ。

「公園管理人のラムバリさんから、草刈りの謝礼金が部の口座に振り込まれたぞ」

 さらにロボづくりするぞ、と誘うが、これもナラヤンが謝って断った。

「すみません、部長さん。今日はこれから大事な用事があるんですよ」


 ロボ研部長のサンジャイが細い眉をひそめて、右手の平をクルリと返した。不服の意を示す手の平返しである。

「あ? 昨日も草刈りでロボづくりやってないだろ。腕が鈍ると就職活動にも支障が出るぞ、コラ」


 ロボ研の部長や部員は、電化製品や電気自動車の製造会社への就職活動中だ。創部以来、連戦連敗なので就職実績は思わしくないようだが。

 ナラヤンも就職活動しているが、あまり学校の成績が良くない。このままでは市内の機械修理屋で働く事になりそうだなあ……と危機感を抱いている様子である。親や親戚からは、もっと稼ぐことができる仕事に就けと言われているようだ。


 ナラヤンの父親がいつもこう言っている。

「でないと、麻栽培で泥沼に年中浸かる仕事をする事になるぞ」

 それは嫌だなあ……と思うナラヤンだ。麻は泥沼で栽培するのだが、収穫後も泥沼にしばらく浸けておく。こうする事で麻が腐り、繊維だけになる。

(インドなどの外国への出稼ぎもあまり行きたくないしなあ……僕みたいに頭が悪いと大変だよ)

 インドでの出稼ぎでは、賃金不払いが多く起きて問題になっている。


 とりあえず今は気持ちを切り替える事にしたようだ。

 高校の近くにある自転車バイク屋へ行き、新しい自転車を買う。今回も安くて修理しやすい国産にしている。その足でインド国境に近い王宮跡公園へ向かった。


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