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第6話  廉


少し時間がかかってしまいました。

ごめんなさい……



 静寂が支配する闇の中、隼人と渚は(おとり)として歩く美波の後ろを行く。時刻は午後10時。今のところ、通り魔の犯人どころかプロテクターにも出くわしていない。

 静かすぎる。それがかえって不気味だった。

 しばらくすると、美波が公園に入っていったのがわかった。後を行くと、なぜか公園内には誰もいなかった。


「―――あれ?」


 どこに行ったのだろうか。慌てて周囲を見渡すが、人の気配すら感じられなかった。


「わかるか?」

「いえ…美波さんは霊力がないッスから……」


 同じ霊力を持つもの同士なら気配でわかることもあるのだが、美波は隼人と同じく霊力を持たない。

 囮だから、後を追う隼人たちからそう離れるとは考えられなかった。もしかしたら彼女の身に何かあったのかもしれない、と思ったときだ。

 気配を感じた。すぐに反応したのは渚だったが、霊力を持たない隼人でさえもわかるほどだった。よく見ると、すぐ傍の木にもたれかかるようにして誰かが立っていた。美波ではない。


「ふーん……君たちが例のラザーオールか」


 その声は澄んだ声でよく響いた。木にもたれかかっていたその誰かはこちらにゆっくりと歩いてくる。

 声からして男だ。それも、腰まで伸びた髪の毛。逆光で顔はよく見えない。


「もしかしてさっきここを歩いてた女の子もラザーオール?ここは危ないからって保護しちゃったよ」

「あいつに何をした」

「保護しただけだって……あ、ちょうどよかった。通り魔を捕まえたんだ。ついでに連行しちゃってよ」


 なんとなく目の前の男の正体がわかってきた。たぶんプロテクターだろう。

 それにしてもプロテクターが捕まえた犯人をラザーオールが連行するのも微妙だ。そのせいで動けずにいる隼人に対して、渚はゆっくりと歩き出し、やがて公園の闇の中に消えていった。

 後には、隼人とその男だけが残る。


「何か言いたいことがありそうだね」


 長髪の男が顔を動かしたので、ようやく月明かりにその表情を見ることができた。切れ長の目に薄い唇。蛇のような印象を受けた。


「…………お前はプロテクターなのか?」

「そうだよ。僕はプロテクターの1人、(れん)


 聞いたことがある。プロテクターの中でも2人、ずば抜けて霊力の高い者がいる。その内の1人の名前が確か廉といったはずだ。

 隼人は相手をしばらく見ていたが、特にケンカを売るつもりもなかった。もちろんラザーオールとプロテクターは相性のよいものではないが、隼人には個人的に恨みはない。


「俺はラザーオールの隼人です。よろしく」


 隼人の言葉に、廉は一瞬意外そうな顔をしたが、すぐにくしゃっと笑った。笑うと意外に幼い。


「嬉しいな。ラザーオールの人にこんなに友好的に接してもらえたのは初めてだから」


 友好的?自分の中で愛想をよくしよう週間が始まったばかりだったが、どうやらそれは成功しているらしかった。内心で1人喜んでいると、渚が1人の男と美波と一緒に戻ってきた。


「通り魔事件の犯人に間違いないッス。本人も自供してるッスね」

「よし…じゃあ連れてくか」


 渚が頷いて男を歩かせる。美波も慌ててその後に続く。隼人も歩き出そうとしたが、すぐに思いついて振り返った。


「じゃあ、またな」

「うん。今度ゆっくり話をしよう」

「そうだな」


 軽く笑って、その場を後にする。すぐ先を怪しい目つきで渚が見ているのがわかったが、無視して歩き続けた。


               ▽


 プロテクターの廉が通り魔事件の犯人を捕まえたと知ったときの支部の反応は「屈辱(くつじょく)的だ」と嘆く者がほとんどだった。隼人たちも長い間小言を言われたが、着いたときには通り魔は捕まっていたのだから仕方がない。

 それよりも隼人と渚は美波のことが心配だった。役に立ちたいと自分から囮になることを望んでいたのに、結局捕まえることはできなかった。それどころか、プロテクターに保護されてしまったのだ。どんなに落ちこんでいるだろうか。


「隼人さんが慰めれば大丈夫ッスよ」

「けど、嫌いな相手に慰められても微妙な気持ちにならないか?」

「わかってないッスね〜あ、美波さん発見」


 渚の見る方向には食堂の隅で1人ごはんを食べている美波を発見した。ごはんを食べては(はし)を置き、ため息をつく。

 このままそっとしておいたほうがいいんじゃないかと思ったが、渚に背中を押されて仕方なく隼人は彼女の席まで歩いた。


「はっ…隼人さん?」


 案の定、突然の隼人の登場に美波はとても驚いていた。居心地の悪さを感じながら、隼人は次に話すべき言葉を考える。


「あー…っと、あんまり…考えすぎんなよ。ほら、俺たちだってまぁいいやぐらいにしか考えてないし、だから美波も……」

「あ…大丈夫。結果は残せなかったけど、逮捕のために自分がやるべきことはやったし」


 美波のその達成感のある表情を隼人は見たことがなかった。っていうか、初めて目が合ったような気がする。

 そう思っていると、美波の顔が唐突に真っ赤になり、すぐに俯いてしまった。

 結局目が合ったのはわずか3秒。その日から1日に30回は渚に「ニブい」と言われるようになってしまった。

 なんで?

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