第5話 プロテクター
逆光のために顔を認識することはできない。だけど、男と女の2人組だということはわかった。しかも、厄介なことに―――
「下がって!」
途端に爆音がし、黒い煙が上がる。隼人は渚によって道路の隅に追いやられてしまうが、危機一髪のところで爆発から逃れることができた。
次の瞬間、隼人は背後からの気配に気づいた。紙一重で背後の男の蹴りを避けて、隼人は足払いをかける。よろめいた相手の胸ぐらをつかんで、そのまま一本背負いで投げ飛ばした。
「なんなんだ!?お前らは!」
動けずにいる男の傍に呪符を持った女がかばうように前に立つ。彼女と渚がお互いに呪符を手に構えているため、双方動くことができずにいた。
しばらくの間沈黙が続く。
やがてそれを破ったのは、囮の役目をしていた美波だった。
「どっ……どうしたの!?」
美波の言葉に、目の前にいた男女は心底意外そうな顔をした。そして、お互いに顔を見合わせると何か目配せをしてからこくんと頷き合った。
残りの3人は何が起こっているのかわからない。ただ、女のほうが呪符を持つ手を下ろしたため、渚も少しだけ警戒を緩めたのがわかった。
「俺たちはラザーオールだ。お前たちは何者なんだ」
「…………言う必要はない」
「答えないのなら、通り魔事件の参考人としてウチの支部まで来てもらうことになるが」
卑怯だとは思ったが、怪しい奴らには変わりはない。もしかしたら美波を襲おうとした通り魔ではないという証拠はどこにもないのだから。
黒髪の男のほうが言いにくそうに顔を歪めたが、やがてあきらめたように大きなため息をついた。
「プロテクターだよ。通り魔事件の犯人を追ってる」
「プロテクター……」
それは、仮世に存在する個人的なグループの名前であり、日本で言う探偵に近い役割を果たしている。ただ、探偵と違って、ラザーオールとプロテクターの相性はことごとく合わない。何かのきっかけで衝突して、互いに勝負したことも何度かあった。
「その子をつけてるお前たちが怪しいと思って仕掛けたんだよ。悪いか?」
「いや、悪くないッスよ?俺たちも通り魔事件を追ってるわけだし」
「なんでプロテクターが通り魔事件を調べてるんだ?」
つい昼に愛想をよくしようと考えていたはずなのにすっかり忘れてしまっている。警官のような尋問口調が自然と隼人の口から出た。
「業務内容まで言う必要はないだろう」
「ま、そりゃそうだな」
あっさりと引き下がると、美波と渚に目で目配せした。そのままさっさと退散しようとすると、「おい!」と男のほうに呼び止められてしまった。振り返ると、よろよろと男が立ち上がる。
「今回の事件は俺たちプロテクターが解決する!」
それだけ言い残すと、暗闇の中に消えていった。後には、きょとんとしている隼人と渚と美波だけが残る。
「わざわざ呼び止めて言うことでもないッスよね」
「……確かに」
▽
しかし、プロテクターが通り魔事件について調べているとは思わなかった。このことが他に知れればおそらくもっと騒がれることになるだろう。隼人たちは自然とこのことに関して口にすることはなかった。
昨日の様子からして、あの2人はプロテクターの中でもそんなに地位は高くないだろう。よくは知らないが、確か幹部がいると聞いたことがある。その中でも、霊力が高く、符術の使い手と言えるプロテクターに対して、ラザーオールでも要注意とされてきた。
「今夜もやるッスか?」
仕事中の美波を捕まえ、渚は囮捜査をするか尋ねる。プロテクターまで絡んでいるとわかると、さすがに軽はずみな行動はできない。幸い、このことはまだばれてはいなかったが、下手をすれば大怪我に繋がる可能性もある。
「…私はやろうと思うんだけど……もう2人には迷惑かけれないから、私1人でやろうかなって…」
「そんなん危ないだろ。俺たちも最後まで手伝う」
美波がびくっとしたのがわかった。途端に隼人は愛想をよくしなければと思ったことを思い出した。
面白くもないときに笑うことはできないが、せめて口調だけは柔らかくしよう、うん。
「今日は昨日とは違った所を歩こうか」
「う、うん。あの、よろしくお願いします!」
ぺこりと頭を下げてまたダッシュで去っていく美波。会話を始めてから1度も目が合わなかった。どうしてこんなに嫌われてるのだろうか。
「ウケる……ここまで鈍感だと一種の才能ッスね」
「才能?こないだからなんなんだよ?」
「俺が言っちゃったら面白くないじゃないッスか」
ゲラゲラと笑う渚の反応が面白くない。少し考えてみたが、結局何もわからずに隼人は歩き出した。
今夜もプロテクターは現れるのだろうか。もし何かのきっかけで鉢合わせることがあっても、通り魔事件の犯人を追うという目的が同じなため、話し合えば最悪な事態は免れるだろう。
話がややこしくなってきた。とにかく早く解決させないとな………