聖騎士の少年、思いを話す
「なぁ、お前。あれ何か知ってるか?」
全身の毛の色が紫色に変色し、目の色が赤く、手に多分人間の胴体の上の部分、頭はついていない死体を持っていて、口は血が固まったように赤黒い、見れば尻尾の部分も紫色だ。爪の長さは握りこぶしを作ると自分の手に突き刺さるんじゃないかというほど長く、だいたいここの森の木よりも少し小さいぐらいのサルの獣が出てきた。縦幅は4メートル位で、横幅は3メートル位かな
……まずそう。
獣は大きいが、ここの木々は、もっと大きいだから隠れることが出来たのだろう。
「た、多分、噂の魔物だろ。お、俺の手には負えない。悪いが、お前はサキュバスだろ。俺は逃げる」
マジで!逃げるの。デカイだけのただの獣に見えるんだけど、
少年が俺を囮にして、逃げようとすると、手に持っている食いかけの食料の人間の死体を少年の方に投げつける。
「……おわっ……」
その行動に少年の方から、どさりと音がする。
俺は後ろを少し振り向き少年の姿を見ると、少年はくずれおちていて、地面に全身を震わせながら座っていた。
足の間から水たまりを作っているし、怖いのかな。ここは俺なりに少年を安心させてあげよう。
「いやただのデカイさるだから大丈夫だって」
「いや、大丈夫じゃないから、どう見ても魔物だからアレ!」
魔物?いやだってどう見てもただの獣だろ、ただのデカイ紫色のサルだし、図体がデカイだけのただの獣だよ。魔物というのは知らないけど。
その場で匂いをかいでみると雄と言う事がわかる。ここら辺はサキュバスだからなのかわかる。分かったところで、どうもしないが。
それにまぁ雄であろうが、雌であろうがどっちにしろ、サルの肉は食べたくないなぁ、と考えていると、そのサルがこちらに歩いてくる。少年は震えているけど、あれなんとかしたら人間が食べる食料をくれるかな。サキュバス用とかはいやだよ、絶対そんなことはないだろうけど。
「なぁ、お前。あれ、何とかしたら、ちゃんとした人間の食べ物くれるか?」
さっきまで消していた、サキュバス特有の尻尾と翼を出しながら、後ろを振り返ることもしないで、少年の答えを待つ。
翼は戦闘になったら空とか飛べて、自由に動け、尻尾は拘束に使えるからだ。
何より、いつものスタイルが一番戦いやすい。
「人間の食べ物でいいんだな。分かった、家が近くにあるから何とかする。だから頼む」
その言葉を聞くと、俺は勢いよく翼を広げ、転移を使ったのかと思いそうなレベルで飛び、サルの背後に回り込む。
余りの速さだったのか、反応できずに、いきなりいなくなった俺を探そうと注意深く見ているサルの首に縄を使うかの如く、尻尾を巻き付ける。
「……ギャ!?……」
いきなり尻尾で首を絞められたことで、俺が後ろにいる事に気づいたようだ。
俺を振り下ろそうと、足を使って、暴れる、その度に、地面が揺れるが、俺は飛んで、空中にいるので、何の効果も受けない。それにその場で首を絞めながら固定しているので、激しく動くと余計に首が閉まる一方だ。
その姿はまるで、男の精が取れないと泣き喚くサキュバスのようだ。
一瞬で苦しまずに殺すとしても、残念ながら重いから上には飛べないんだ、ごめんね。
「とにかく、俺は腹が減っているんだ。早く諦めてくれないか?」
そこで、獣は手を使って縄のように首に絡みついている尻尾をつかもうと、首に指を入れてもがくが、食い込みが激しく、なかなか指が引っ掛からない。ならばとばかりに、今度は、絡まっていない方の伸びている尻尾をつかもうとするが、
それは、俺自身が動いているので空をつかむばかりで掴めないでいる。
「ギヤャャャャャ……」
知力が低いのか、その爪で尻尾をさすことは考えないようだ、まぁそのほうが楽でいい簡単に終わる。刺さったところですぐに再生するけど。
同様に、持っている長い爪の生えたまるで何か月も爪を切っていなさそうな手で、引っ掻こうとしてくるが、それを最小限の動きで体を捻り、全て躱す。
まぁでも暴れたところで、動きは遅いし、力は強くないし、楽だけどね。
爪の間に縛られていない尻尾をひっかけようとしているが、それを横に大きく動くことによって回避する。
横に大きく動いてたので、でかいサルは地面を引きずられ、体制が崩れ、倒れそうになるが、縄のように縛っている尻尾が、支えになっているのか、倒れない。
そのせいで、こちらも高度が落ちているけど。
そのまま、でかいサルは、体制を戻すが、首が縛ってある所為で、余裕がなくなってくる。
「無駄なあがき……とは言わないが、生きようとする意志って、此処まで凄いのか……初めて知った」
何度も地団駄を踏み、その度に地面が揺れる、指は引っかきすぎて、長い爪は、剥がれ血が出ている、当然、尻尾に当たらず自分の首を引っ掻いているため、首からも少なくない血が出ている、尻尾ではなく俺を狙った攻撃は俺が動くので、空を切るだけで終わる。
そうしているうちに、限界が近いのだろうか。赤い瞳をして、茶色い皮膚の顔は、青くなってきており、口から泡を少し出し始める。
そんなサルを横目に見ながら俺は、最初の全力とは逆に、どんな食べ物が出てくるのか、それはサキュバスのなんか白い変な物が必ず入っている不味いものじゃないよなぁと、尻尾が解けないように、ゆったりと動きながら、もうサルに興味がないとばかりに、動きが遅くなった獣を絞めつけ、少しよだれを垂らし想像をしていた。
そして、俺の事が見えなくなったのか、闇雲に腕を振り始め、座って動けない少年の方に手を伸ばす。
「あっ、その少年は駄目だ、食料を分けてもらえなくなる」
俺は、闇魔法で怯んで、のけ反り、攻撃が当たらないだろ、ぐらいの気持ちで、デカイサルの、顔にむかって闇魔法をはなち、黒いボールみたいなものがサルの顔に当たると。--サルの頭が吹き飛び、その体だけが残った。
「……えっ……」
「……あれっ?……痛ぇぇ」
俺ってこんなに、闇魔法こんなに強かったっけ。確か、古郷の中では、一番強く、岩にぶつければ、木端微塵に粉々になるという闇魔法とは思えない攻撃力をしていたけど。
それにしてもここまで強かったっけ、強くなるあの手段は俺は使ってないし。
しかしこんなに早く終わるのなら、時間損した。寿命はないけど、腹は減るからな。
というか、自分で打った闇魔法の余波が、尻尾に当たった、地味に痛い。
尻尾で首を絞めていたのに最後の最後で締まらない終わりを向かえながら
食べ物の約束の為に、翼と尻尾を消しながら、少年もとに行く。
はぁ……落ちはつまらなかったな。
少年は、いまだに目の前で起こった闇魔法の威力に驚いているのか、座ったまま固まっているようだ。
「おーい、終わったぞ~」
目の前で手を振ってみる。
それで気付いたのか、はっとした顔をしてから戻った。
それにしてもあの程度の獣でこうなるなんてホントにこいつ聖騎士かぁ?
「……うわぁ……」
あれ?少年が放心している。とりあえず屈んで手を差し伸べてやろう。
「大丈夫だ。あの獣はもういないから、ほら、立てるか?」
どうやら少年は手を取らない、まだ地面に座っている。震えながら、少年は初めてあった時と、同じことを聞く。
「ほ、本当に人間には、て、手出ししないんだよなぁ」
「状況と相手から攻撃してきたときの場合による。基本こちらからは手を出さないよ」
それを聞くと、少年はこちらの手を取り、大事な部分が濡れている場所を手で隠しながら、恥ずかしそうに立ち上がる。下の全体に染み渡っているため、隠しきれていないが。
別に、怖くて震えるとか、水たまりを作る事とか、気にしないのに。よくサキュバスから貰った本に書いてあった男性は大事な部分が濡れていたし。
「あ、ああ、ごめん。ちょっと恥ずかしいところを見せた。」
「気にするな、あともう一度聞くよ。名前は?」
その言葉に、少年は顔を赤くしながら、それでいて照れくさそうに、頬を自分の指でかきながら答える。
「本来ならもっといい場面で悪魔に名乗りたかったんだけどなぁ、俺はミノだ。よろしく、えーと、ごめん名前なんだったっけ?」
忘れてやがったのかこいつ、一番最初に言ったんだけどなぁ。
まぁ、俺も一度どころか、二度、三度言われても興味がない人の名前は覚えられないタイプだからな、しょうがない。
「じゃあ、改めてもう一度、サキュバスのサキだ」
名前を答えると、ミノはこちらに笑顔とは言わずひきつった顔で手を差し伸べ握手を求めてくるので、それに応じる。
「よろしくな、サキ」
そう答えてからミノは一つの方向を指さし示す。
「家はこっちだついてこい」
しばらくしてからミノと一緒にもうすっかり明るく、木の実も、獣も居ない森を歩いている時、(さっき倒した獣は尻尾を使って、獣の足を引きずりながら持ってきている)
ミノがさっき気になる事を言っていたことを思い出す。笑いに来たのか、とかなんとか、少年の周りに何か合ったのかな?
「そういえばさっきお前も俺を笑いに来たのかって言ってたけどアレどういう意味だ。確かに弱いと思ったけど?」
獣に合ったことを完全に忘れて、平気な顔で歩いていたミノは表情をゆがませちょっと苦しそうな声で答える。
「俺は落ちこぼれなんだよ。みんなより体力がないし、力や技術がない」
「じゃあなんで聖騎士をやってるの?」
その問いに対してミノは少し憧れを感じさせるような声で答える。
「親父が聖騎士の中で一番強い聖騎士長なんだ。だから俺もいつかああなるって」
憧れをもって、夢を持つのはいいが、その夢を語る時、ズボンが濡れているのはどうなんだ。
というか、ミノの父親って聖騎士長なのか。あれ?もしかして今、俺ってとんでもないところに行こうとしてない。
聖騎士長って俺達のような悪魔たちを倒す人を束ねている人の事でしょ。
そう考えると、冷や汗が出てきたな。大丈夫かな。
そんな俺の様子に気付かず、ミノは、肩を落とし、泣きそうに泣きそうな顔になる。
「だけどいざやってみるときつかった。俺には体力も技術力もなかった。あっという間に周りの人に追い抜かれてあっという間に落ちこぼれだよ」
そうはははと笑いながら元気がなさそうに答えるミノに俺はどう答えてやればいいかわからなかった。
俺は逆に才能があったから。俺はなんどもこんな才能いらないと思った。
才能が欲しくても持っていなくて必死になって努力する人がいることは知っている。
気付いたところでなんでこんな男性の精を強制的に搾り取るくそ魔法を鍛えようとするのか理解できなかった。だが、今回に関しては別だ。
これがもしもサキュバスの悩みで男の精がとかいう悩みだったら速攻で無視して帰っただろう。
だが、ミノはサキュバスに人間の食べ物をくれるとも言ってくれている心優しい聖騎士。もしもミノが強くなり、聖魔法で
地獄を強要してきた、くそむかつくサキュバス達を倒してくれるのなら、こちらとしても嬉しい。ならば
「じゃあ俺がこれから毎日練習相手になろうか。さすがに淫魔法は使わないけど、闇魔法を使えるし、いい相手に成れると思うよ」
「本当に毎日練習相手になってくれるのか、悪魔のお前が」
そんなあるいみ自殺行為の言葉にミノは明らかに顔を崩し口を開け驚く。
確かに俺も相手の立場なら何故同じ種族なのに手伝ってくれるのかと考えるところだ。だけど俺はサキュバスという種族は好きじゃない、見た目(自分基準)がものすごい可愛い純粋そうな5歳児が将来はたくさんの男の精を搾れるようになりたいと笑顔で言ってくるように教育するような種族だ。心が男の俺には一体どれだけきつかったと思っている。
だからその言葉に俺は
「ああもちろんサキュバスの特性を使わないけど相手になるよ。こんな見た目だけど心が男の俺に二言はない。毎日ただ剣を振っているよりかはいい練習になるだろ」
そう言葉にしながら悪魔を狩る職業に協力するのもまた面白そうと不敵な笑みを浮かべた。