夢から覚める
やあ。
久しぶりって覚えてるかな?
「……」
覚えていないか。そりゃそうか。
さて、君は今死んだ。とある世界の君がね。
輪廻転生。
死が訪れた者の魂は時空の何処か
遥か彼方へ飛ばされ
転生をする。生まれ変わるんだ。
でもね
私が管理する世界では自ら命を絶つ事を許さない。運命とは呼ばない。
それは面白くないからね。罪だよ。
でも実は君は危なかったんだよ。罰を与えないで転生されたらつまらない。
君が完全に諦めていたら、私が罰を与える前に転生の輪に入っていたんだけどね。
いやー危なかった。危なかった。
少しだけ未練があったのかな?ふふふ
いや今までの君を見ていたら諦めが悪かったという事なのかもね。
でね、罪を犯したら、罰を受ける。私はそれを当然だと思っている。
君の世界でも当たり前の事だろう?
君の場合は夢として何度も人生をやり直す罰。
これが罰なのかどうかは君が体験した通りさ。
というか
君にとっては罰だったというべきかな?
君の魂に刻まれた、君の本質が変わらない限り罰であり続ける。
それが解ったからこそ君はここにいるんだけどね。
「ああ。酷い人生だったよ。楽な方楽な方。辛い事から逃げてばかり。いつもいつも……」
そうそれが君の本質だったからね。
だからどんな世界でも悪い方へ傾いていた。
あんなに悲惨だとは私も思わなかったけど。
私の嫌悪感が影響してしまったかな? ははは。
「あれは結局なんだったんだ? 願った夢を実現させる、そんな単純な物じゃないよな?」
君の力は時空跳躍とでも言うのかな
並行世界に意識を飛ばす事ができる力だよ。
君が望んだ事柄にもっとも近い事象が起こった世界に飛ぶ。
星の数程ある世界の中の君にね。
君自身の主観で言うなら君の可能性の一つといえば解るかな?
「俺の可能性?」
そうだね。君の可能性。無限の可能性。
「その力はまだあるのか?」
いや、君の本質が変化をしたから、罰としての力は失われたよ。
「ならどうなるんだ? このまま転生って事になるのか?」
私にできるのは、最後に君を、君の意識を一つの世界に跳躍させる事くらいだね。
今の君ならどこに行ってもそれなりの人生を謳歌できると思うよ。
どこでも望む所へ。そのくらいしてあげようと思える程度には君は面白かった。
転生してもいいけどね。
「そうか……ならっ」
「お前と出会った日に戻してくれ。俺が今まで体験した事が俺の可能性なら、無限の可能性があるって事だよな? なら未来が決まってない方が面白い。未来は切り開く物だろ?」
それでいいのかい?
「ああ。俺はなんだってやれるし、何にだってなれるんだろ?」
そうだね。不変な事は君である事だけさ。
『なら夢から覚めよう。長い夢から』
最後まで君は面白かったよ。
だからこそ人間は面白い。
最後に私からちょっとしたプレゼントをあげるよ。
ではまた。
次に会うのは君が運命で死んだ時かな?
「……」
「……」
叶泰が目を覚ますと見知らぬ天井があった。
天井、壁、ベッド、見える範囲の物はほとんどが白く清潔感があった。
病院だ。
叶泰はイジメを苦に自殺を図った。
自宅の浴室で手首を切って。
一命は取り留めたが、意識は戻らず、昏睡状態だった。
長い夢を見ていた。
「叶泰!! 叶泰!! あなた叶泰の目がっっ!!」
母親が泣き声の混じった声で父親を呼ぶ。
「――先生!! 先生を呼んでくるっ!!」
父親も叶泰が今までに見た事のない表情をしたまま
凄い勢いで先生を呼びに行った。
「叶泰……よかった……本当に……本当に」
母親は憔悴しきった顔で、力なく語りかけてきた。
まだ不自由な体を無理やり起こすとそこには幼馴染の彩澄がいた。
彩澄も疲労が顔に表れ、顔をぐしゃぐしゃにし泣き崩れながら
「ごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさい……」
とずっと謝り続けた。
長い眠りから少しずつ覚醒する。
戻る意識と記憶。
自殺した時の状況と感情まで思い出す。
ついさっきの事のはずなのに、遠い昔の事のようだ。
そして後悔がどっと押し寄せる。
見えていなかっただけでこんなにも自分の周りは暖かかったのかと。
ありがとう神様。
生きていた事に感謝。
そして喉の調子を確認し、みんなに声を聞かせる。
感謝の言葉を、懺悔の言葉を
しかし出てきた言葉は
「夢じゃないよね?」
だった。
本編はここで終了です。
次回は後日談
本当の最終話ですので最後までよろしくお願いいたします。