第二章 宝くじ編
「……んん」
夜光 叶泰は暗闇の中で目を覚ます。
一日中締めっぱなしの遮光カーテンのせいで部屋の中は常に暗い。
そのせいと体内時計も狂っている為に、今が何時なのかは予想もできない。
しかし解らなくても何も困る事はない。
寝たい時に寝て、目が覚めたら起きる。
月に数回あるかないかの外出以外はずっと部屋の中にいる。
他人に感じる恐怖。自分の空間以外は信用できない。
脅迫的な感情に支配され外にほとんど出る事ができない。
自宅警備員。いわゆる引きこもり。
毎月母親から小遣いをせびり、大きくお金を使う事はないが
父親の会社が傾き、生活が苦しい夜光家では喜ばれる存在ではない。
それでも母親は何も言わず、世話を甲斐甲斐しくしてくれている。
父親は仕事に追われ、家にいる時間などほぼなく、叶泰と話をする時間などなかった。
家庭崩壊まではいかないでも、夜光家は異常ではあった。
「そういえば……宝くじ当たってねーかな」
バイトなどをしている訳でもなく、生産性がなくとも将来の為に時間を割く事もしない
今の生活に不満は感じないが、やはり母親に苦労かけている事だけが心に引っかかる。
しかし、外に恐怖を抱く叶泰には働く事が難しい為『しょうがない』その一言を自分に言い聞かせ
正当化して何も変化しない毎日を過ごす。
一つ願望があるとすれば、楽に金持ちになりたいなど甘い夢を抱く位だった。
占いの結果がよかったりした時に買う宝くじ。
今回も『当たったらいいな』そんな事を思いながら買ったが、まさか当たり、人生が変わるとは当然思わない。
PCを立ち上げ、宝くじの公式HPにアクセス。
当選番号と自分の買った十枚の宝くじを流し見る。
「――ん?」
「いや……いやいや……いや……え?」
流していた目がすぐに止まり、瞳孔が開く。
「嘘……いや……え……そんな……合ってる」
「組……Aの002………………1143738番……」
「後ろからも……合ってる……まじか……」
3回、4回とすべて見直し、飲みかけの温くなった炭酸飲料を一気飲みし
もう一度確認。
「――当たってる」
一等、五億円。
当選率は天文学的な確率。
何度も確認し、脳が確信した瞬間
手が震え、全身から変な汗が出る。
喜ぶ前に、脳が事実を理解できずに体に不調をきたす。
恐怖も押し寄せ、喉がからからになり、いくら水分を補給しても喉が渇き続ける。
誰しもが、もし宝くじが当たったら――
家を買って、車を買って、豪遊して、仕事辞めてなんて考えるものだが
現実に当たった叶泰が今後の事を考えるまでには数時間がかかった。
ようやく心臓が平常な動きに戻り、脳に酸素が回ると
思考も鮮明になってゆく。
「どうしよう」
五億なんていうとんでもない金額を手にする事になった叶泰は
金の使い道すら想像できないまま、不安に押しつぶされ眠りに付いた。