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第一章 小説家編

「……んん」


夜光 叶泰はカーテンの隙間から差し込む陽光で目を覚ます。


遮光カーテンのせいで部屋の中は昼間とはいえ暗い。

週に数回のアルバイトの時以外は時間に追われる事はないが

大体は昼間に起きる。


カーテンを開けると眩しい光が体のスイッチを変える。


いつものように読みかけの本を床から取り、一心不乱に読みふける。

昼食を食べる時間すらもったいないと言わんばかりに熱中し、気づくともう夕方。


今日読み終わった本と、今週読んだ本をまとめ

近所の図書館へ返却に行く。


そしてまた一週間分の本を借りて家に戻る。

図書館の受付の方は最初こそ驚いていたが、今は事務的に処理してくれる。


他人と会話するのは図書館の司書の方に本の場所や、入荷情報やリクエストなどを受け付けて貰う時だけ、声の出し方を忘れるのではと思うほどに人生に会話はない。


図書館と自宅の往復以外は家を出る事もほぼなく

いわゆる引きこもりなのだろうか。


自室に戻り、借りてきた本をパラパラとめくり

次に読む本を決め、夕食ができるまでまた本の世界に没入する。


一日1万字を書き、ひたすら誤字、脱字を気にせず脳内のストーリーを打ち込む

とにかく今創造した物語を形に、それだけを考えて。


こんな事を続けてながら、自分のブログや投稿サイト、出版社や、賞レースに応募し

世界に自分の言葉を投げかける事早五年。


一日八時間以上本を読み、それ以上の時間を執筆に捧げ

収入のない中、母親に苦労、心労をかけたが、ようやく報われる。


とある賞の選考作品にエントリーされ、まさかの大賞を受賞する。

この時二十歳。


前代未聞、賞の歴史上初、若すぎる大作家、天才現れる。

今まで無関心だった、マスコミ、世間が一斉に騒ぎ立て祭りたてる。


叶泰本人は努力の結果を当然と思っており

天才など言われるのは面白くなかった。


年間千冊以上の本を読み、累計五千冊以上

書いた文字数は約、二千万字。


犠牲にした物も多く、体はボロボロ。当然高校には行っていないし

両親は自室から出てこない子供の事をどれだけ心配したかなんて想像に難くない。


叶泰が中学生の時に父親の会社が傾き、父親はそれ以来ほぼ家にいない。

叶泰の面倒は母親が責任を持ち、家事もやりつつ、昼も夜も働く。


それでも母親は何も言わず、世話を甲斐甲斐しくしてくれている。

父親は仕事に追われ、家にいる時間などほぼなく、叶泰と話をする時間などなかった。


そのような努力の天才、叶泰は天才と呼ばれるのは面白くないようだが

才能はあった。ここまでの異常な努力ができる才能が。


世間体を気にせず、家族に迷惑をかけ、自分の世界を貫く事を数年。

これを才能と言う以外、なんと言うのだろうか。


結果が出なかったらとは言うまい。


自分が進むべき道をなりふり構わず突き進んだ結果、光に手がかかるが

それまでに犠牲にした物がどれ程大きかったかに気づくのはまだ先だった。


大賞を受賞した旨の書類とメールでの連絡が届いたのはほぼ同時

その後、電話での連絡も来る


「夜光 叶泰さんご本人様で間違いないでしょうか?」


「あ、はい」


「受賞書類とメールを送らせて頂いたのですが、ご確認して頂けましたでしょうか?」


「あ、はい」


文章と違い、会話は難しい。相手の呼吸やタイミングに合わせる事が叶泰にはできなかった。

ほぼ返事しかできず、一方的になってしまった協会の方との会話は終了を告げる


「では○月○日にご自宅に伺いますので宜しくお願い致します」


「あ、はい」


丁寧な口調の女性からの電話に緊張しっぱなしで

内容はほどんど覚えていなかったが、最後だけ覚えている




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