夢を見る
childは大人のように明確な悪意がない。
だから時として、大人より残酷になれる。
childrenと複数形になると残虐になる。
まるでおもちゃで遊ぶように人間を弄ぶ。
そこに殺意はなくても
人を死へと誘う。
「なーなージャミラって絶対ムッツリだよな?」
「え? 誰?」
「ジャミラだよ。キモイ所もあるよな! 俺すげー嫌いなんだわ」
「なぁ、和司もそう思うだろ?」
夜光 叶泰達は、笑いながらクラスメイトの斉藤 和司にそう聞いた。
「あ、うん。思う思う」
誰の事を言っているかわからない和司はうなずくだけ
何が面白いのかわからず、でも周りに合わせる。
その姿にまた笑いが起こる。
適当なアダ名をイジメの標的につけ本人の前で悪口を言う。
面白いと思ってやっている訳ではない。
ただそれが日常の風景。習慣。
「だよなーそう思うよなー……」
「「はは」」
和司は愛想笑いで相手を刺激しない。
しかし逆に刺激する事もある。
「って……つまんねぇ」
先程まで笑っていた顔から一切の笑みは消え
脈絡なく和司を蹴り飛ばす。
「――ぐっ!」
叶泰は若干情緒不安定のようで感情の起伏が激しかった。
和司は教室の隅に吹っ飛ばされ、周りのクラスメイトと机と椅子を巻き込む。
それでも笑い続けるしかない。
「――ぁ……ははは」
それが処世術だったのだろう。
その姿に異常なイラつきを覚える
授業の開始を告げるチャイムをきっかけにほとんどが席に戻るが
「アァァーーーっ!!!!!」
その中で
叶泰は叫びながら足元にあった椅子を蹴り飛ばし席に戻る。
もう少しで窓ガラスを割りそうな位勢い良く椅子が飛ぶ。
観衆は特別な感情を抱く事はなく、傍観者をやめない。
和司だけはその後姿を殺意の篭った瞳、鬼の形相で見続けた。
叶泰は何かに苛立ちを覚えていた。
その原因がわからず、その苛立ちがさらにイジメをエスカレートさせる。
イジメられる気持ちは痛い程にわかっているはずなのに
なぜこんな事になってしまうのか。
来る日も来る日も同じ事の繰り返し。
何にも進展しない日々が続く
気分は晴れず、そして終わりがない。
幼馴染の彩澄は悲しい顔でその姿を見つめていた。
こんな毎日が続き、すれ違い、会話はなくなっていた。
間違った道を進んでしまった幼馴染を止められるタイミングはもうない。
ある日は和司と仲のいい沖田 高次も標的にした。
体格が良く喧嘩も強い高次には複数人で
陰湿なイジメではなく暴行を。
「――っはぁ!」
無表情に倒れる高次を蹴る。蹴り続ける事はしない。
前に防御をしていた腕を折ってしまった事もあった為
相手の意識がなくならないように、大怪我にならないように。
こんな事を繰り返せば、こうなる事はわかっていたはず
いや、そうなる事を望んだのかもしれない。
本人以外には本当の気持ちは解らないが。
夜光 叶泰は
教室で刺された。
めった刺しにされた。
募る恨みの数だけ、何度も何度も。
教室に悲鳴があがる中
歓喜の声もあがる。
少量の悲鳴を大きく包むような、歓声と呼べる程に。
やはり人間の怖さはこういうところだ