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38ようやく

 サニーがメテオに叩き起こされて飛び起きたのは、ルーナルーナが後宮を抜け出した頃だった。事態はメテオが説明するまでもなく、その視界ですぐに捉えることができる。舌打ちしたサニーがすぐに身支度を整えた時、目の前の空間が僅かに歪んでそこから人が現れた。


「……ルーナルーナ?」

「分かるの? さすがサニーだわ!」

「どうしたの、その色? 白でも黒でもルーナルーナは美人だけれど」

「サニー、嬉しいけれど今はそれどころじゃないわ」

「うん、分かってる。ルーナルーナ、君はこれについてどう思う?」


 ルーナルーナは、一瞬頭の中で様々なことを逡巡した。


「私は、会わなければならないお方がいると思うの。サニーは?」

「俺も」

「じゃ、同時に言ってみよう? せーの……」





 そこは、なぜか世界の重なりが見受けられなかった。

 高い半球状の天井。描かれた壮麗な絵画。あまりにも既視感のあるその風景に、一瞬シャンデル王国に戻ってきてしまったかと思ったルーナルーナだが、ここは紛れもなくダンクネス王国の教会である。ルーナルーナの持ち色はすっかり元の黒に戻っていた。サニーはそれに何となくほっとしながら、ルーナルーナの肩をそっと抱く。もちろん傍らには不貞腐れた顔のメテオが侍っていた。


「サニー、アレスが城内の悪い噂の収束にあたって懸命に働いてるんだ。こっちもとっとと捕まえるぞ! 大巫女の部屋はこの奥だ!」


 先日サニーが大巫女と会う際に使った裏口は、魔導梯子が破壊されており、こうやって表玄関からの殴り込みと相成った。

 サニーはメテオに頷きかえすと、ルーナルーナと共に次の一歩を踏み出した。






 白い空間。そこに棚引く紫煙。甘酢っぱい香りは、脳を溶かす効果でもあるのか、非常事態にも関わらず三人からすっかり毒気を抜いてしまった。


「大巫女、いるのだろう?」


 サニーが呼びかけると、前方にあった広幅の御簾が音も無く上がった。


「ようやくか」


 中から出てきた小柄な人を見て、ルーナルーナはやはりと思った。身につけている衣装こそダンクネス王国のそれだが、その顔立ちにオーラ、声色までの全てが、シャンデル王国で見聞きしたものと一分も違わない。


「あなたですね?」


 サニーの問いかけに、大巫女はにっこりとほほ笑んでみせた。


「うまくやっていたつもりだったんだがな」


 大巫女は少し高くなった上座のそこから降りると、二、三歩ルーナルーナ達の方へと近づいてきた。


「我は巫女だ。女神の願いを叶えることを生業としている」


 ルーナルーナは、目を丸くした。てっきり、巫女は女神の声を民衆に伝えて、人々を救うことが責務だと思い込んでいたからだ。


「女神の願いはとてつもないものだが、長く生きた我の代でそろそろ成就させようとしたまでのこと」

「その願いとやらが、二つの世界を一つにすることなのだな?」

「正確には、一つにしても差し支えないぐらい、両方の世界を平和に導くといったものだろうか。しかし、そんな日はいつになっても訪れない。巫女達がその力をもって全力で事に当たってもだ」

「それは教会の範疇の事ではない。王家がなすべきことだ」


 大巫女は、馬鹿にしたように鼻を鳴らした。


「だが、なすべきことがなされていない。そこで我は考えた。少しずつ二つの世界を混ぜ合わせていけば良いのではないかと」

「どうやって?」


 ルーナルーナが尋ねる。


「我は他人の夢枕に立つことができる能力がある。魔法とは異なる次元の、所謂神力にあたるものだ」


 大巫女は事のあらましを話し始めた。

 王家を介さずに異世界を混じらわせていくとなると、商人を利用して互いの文化を浸透させていくのが手っ取り早い。そこで目をつけたのが、商人としてメキメキと頭角を現し始めていたヒートだ。赤い髪は白とも黒とも異なるが故に、両方の世界を行き来させるには都合が良いというのもあった。


 大巫女はヒートの夢枕に立ち、お告げをする。もちろん、ヒートが商売を大きくする方法として、両方の世界を行き来する方法や、商売のヒントをだ。それを何度も行うことで、ついにヒートは夢に出てきた女神の言葉を信じるようになり、新たな異世界間商売を始める運びとなる。


 ここからは、大巫女がわざわざ手をかけずとも、全てが将棋倒しに変化し、広がっていった。


 両方の世界では、互いの世界の文化が流行り始め、ヒートのように行き来する者も増え始める。となると、ルーナルーナとサニーのように世界を越えて想い合う者も、恋仲でなくとも強い絆で結ばれる者達が現れ始める。人との繋がりではなく、異世界そのものに憧憬を描き、自分の存在の理由を別世界へ求める者。そして中には、自由に世界間を行き来できないことに憤りを感じ、どうにかできないものかと暴動を起こすために徒党を組む者も出始めた。まるで麻薬漬けになったのように、人々を汚染していく。それらが発展し、ついには王家の目に余る騒動へと膨らんでいく。


「後は、誰かが神話を読み解いて世界が統合されるのを待つだけだった。そこへやってきたのが、そなただな。そなたの外見はあまりにダクーと相性が良い。きっと両世界にとって最高の架け橋になるのではないかと思って、あれを託したのだ」


 大巫女は、ルーナルーナの方に視線を移したが、すぐに悲しそうに目を伏せた。


「そなたはこちら側の人間だと思っておったのだがな。そこの王子と一緒にいるあたり、どうやらあの神具を使ったのは別の者のようだ」


 この言葉に最も過敏に反応したのはメテオである。


「やはり、あれは神具だったんですね?! でも使ったって……」

「おそらく、二つの神具が出会ったのだろう」


 大巫女は淡々と答えた。サニーの顔から血の気が引く。


「メテオ、神具は今どこに?!」

「確認してまいります!」


 メテオは走り去った。



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