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25教会の秘密

 宿の中で食事をとった三人は、ダンクネス王国の朝の雑踏の中に身を滑り込ませた。


「なんだか、皆に見られている気がするわ」


 ルーナルーナは、道行く人々から刺さる好奇の視線にいたたまれなくなる。


「ルーナルーナはこの国おいてとびっきりの美人だからね。ほら、これ羽織って」


 サニーは、自らの外套をルーナルーナに羽織らせた。ルーナルーナは、サニーに抱きしめられているような気持ちになって顔を赤らめる。


「朝からお熱いことでご馳走様。でもサニー、お前の方があまり肌を出さないほうがいいぞ。ほら」


 サニーが周囲を見渡すと、ルーナルーナと共に歩くことに対する羨望や嫉妬と、白を持っていることに関する憎悪が入り混じった視線がたちまち飛んできた。


「ルーナルーナ、俺がこんなに醜くてごめんね」

「皆の価値観がおかしいのよ。気にすることなんて何もないわ。肌や髪は何色であっても、それぞれに美しさがあると思うの。そこに優劣は存在しないのよ」


(サニーの奴、なかなか良い姫さんと出会ったものだな。これは国王への報告事項がまた一つ増えたということか)


 メテオはいちゃつく二人に辟易しながらも、温かな眼差しで見守るのであった。








 三人が辿り着いたのは教会だった。中心部にあり、街で最も背の高い塔を持つ建物である。灰色の荘厳な造りは、見る者を威圧するような雰囲気もあるが、それこそが神の力を現しているとして強い信仰を集めている。


「さすが観光地。人が多すぎて、かえって何の手がかりも掴めないな」

「ルーナルーナのように、本屋へ行くほうがマシかもな」


 サニーとメテオが会話している間、ルーナルーナはどこからか奇異な視線を感じていた。外套のフード越しでも伝わってくる特別な気配。高い天井を仰ぎ見ると、はめ込まれたステンドグラスの横の回廊から手を振っている女性がいた。


(まるで女神様みたい。神話の絵画から飛び出してきた方のようだわ……って、え?)


 ルーナルーナは、はっきりのその人物とは目が合ってしまった。黒い衣の女性はルーナルーナに向かって手招きする。


(え、私のこと? あの方はきっとここの教会の方。私に何の用事なのかしら?)


 ルーナルーナが首を傾げて何度か瞬きすると、世にも不思議なことが起こった。


「え……」


 黒い衣の女性が、突然ルーナルーナの目の前に瞬間移動してきたのだ。


「はじめまして、魔力の強い娘さん。私のティーパーティーにいらっしゃってくれない? 楽しいお話ができそうだわ。お連れ様もお越しくださってよろしくってよ」

「あの……」

「あなたも瞬間移動ぐらいできますでしょ? 私の目は誤魔化せませんわ。私は女神から授かった真実を見抜く目がありますもの」


 巫女とは、神から何らかの特別な力を賜った者のみがなれる職業だ。ライナの場合、相手の能力を見抜くことと、少しの先読みをすることができる。






 ルーナルーナ、サニー、メテオの三人が招かれたのは、教会裏にあるプライベートな中庭だった。四方を教会関連の建物に囲まれ、空には星。秘密の会合にはぴったりの場所。


「私はルーナルーナと申します。恐れ入りますがあなた様は、この教会の巫女様でいらっしゃいますか?」

「その通り。私はライナ。この教会における大巫女と言えば、私の立場は分かるかしら?」


 ライナは手自ら紅茶を淹れると、毒見代わりにまず自身が一口のんだ。


「どうぞ、ゆっくりなさってね。まずは、私からの申し開きを聞いてくださらない?」

「その前に我々も自己紹介を……」


 サニーが口を挟む。それをライナはきっぱりと切り捨てた。


「サニウェル王子。あなたと王族の影であるメテオ様の()()()の噂はかねがね聞いておりますわよ? 私の()は、国中にありますから、見えないところなんてほとんどありませんの」


 今度はメテオがニヒルに笑う。


「一時は王都にある教会本部の大巫女候補にも推挙されていたあなたが、それぐらいの力を持っているのは我々も把握しています。それで、出世欲の火は消えていないようですね」

「あけすけな物言いですこと。別にやましい事をしているつもりはありませんのに、闇の帝王にそこまで言われてしまいますと無駄に傷ついてしまいますわ」


 火花を散らすメテオとライナ。ルーナルーナは突然勃発した別次元での闘いに右往左往する。

 ライナは妖艶に微笑むと、足を組み直した。


「ともかく、あなた方が嗅ぎ回っている一件、教会としては特に問題にしておりません」

「異教徒が増えても困らないのか?」

「あら、思い違いをされているのではなくて? あの者達には悲願こそあれ、なんの神も崇めておりません。これのどこが宗教だと? 確かに一般的ではない思想を持っているかもしれませんが、それを頭ごなしに否定して排斥しなければならない程、我らの神は狭量ではありませんことよ?」

「では、教会からは何も手を打つつもりはないということなのだな」

「えぇ。それが教会に属する巫女の総意ですわ」


 ライナは、何とかボロを出さずに済んだ自分を心の中で褒めちぎった。


(だって、彼らの悲願は私達の悲願でもあるんですもの。我らの神は二つの世界を統べている。いずれ世界が一つになる時のために、神は私達を導いてくださっているの)


 ここで、サニーが口を挟む


「ところで教会は、もう一つの世界の存在については認識しているのだな?」

「公式のコメントは控えさせていただきます」

「ライナ、個人としてはどうなのだ?」


 ライナは、やれやれとばかりに肩をすくめると、自らが纏う長い衣の袖の中に手を差し込んだ。


「これが何か分かりますか?」

「これは……!」

「あら……、三人とも既にご存知だったのですね。これは巫女の甘味。これを朝や夕方に食すると、素敵なものが見られます。そう、例えばダンクネス王国(ここ)とは別の世界が」


 ライナは弱々しげにほほ笑む。これは、教会が何百年にも渡ってずっと隠し続けてきた最大の秘密の一端であった。



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