秋が好き
「――俺、秋が好きだ」
放課後、二人きりの教室。男子生徒は女子生徒に言葉を投げた。
「……え? あ、うん……私も好きだよ!」
どうやら不意を突かれたようで、女子生徒はやや遅れて相槌を打つ。ぱっと男子生徒の表情が明るくなったのもつかの間、女子生徒は窓の外に顔を向ける。
「私は夏も好きなんだけど、秋の陽気が一番好き。大分涼しくなって過ごしやすくなったよねー」
「……うん」
「それに秋と言えばやっぱりご飯が美味しい季節! お米も新米は味が全然違うよ♪」
「……」
「それに、えっと……えーっと、はは……あれ? ……うん、その……」
女子生徒が話し続けている間も、男子生徒はじっと相手の事を真っ直ぐ見つめていた。その視線に気付いた彼女は何かを察したようで、声のボリュームが小さくなっていく。
「……」
「……」
ついに二人は黙りこくってしまった。恥ずかしさからか、互いに目を合わすことができずに窓の外に視線を移す。
外は夕暮れ。綺麗に輝く秋空だ。
「なぁ」
男子生徒の声に、女子生徒は視線を戻す。今度は相手の目をしっかりと捉えることができた。
「俺……秋が好きだ」
「……うん。私も……好き」
窓から降り注ぐ夕焼けが、二人の頬を朱色に染めていた。
それまではお互い苗字で呼び合っていた二人。
ですがこの日、男子生徒は勇気を出して彼女を下の名前で呼んだようです。