4話
「学園長。東城朱莉です。入室してもよろしいでしょうか」
「入りたまえ」
学園長室前。
部屋の中から女の人の声が届いた。
「失礼します」
部屋の中に入ってみると机に腰を掛けている女性がいた。
黒のスーツに黒タイツ。
茶髪で長髪。
気の強い女性という印象がある。
「君が美織君だね。まずはお疲れ様、一国の王女様の命を救うのは立派な事だ。そして編入おめでとう。私の名前はイリアだ」
入室そうそう賛辞を述べられてしまった。
「次にこの学園の説明をしよう。君はこの学園についてどこまで知っている?」
時間を無駄にすることなくイリヤ学園長は次の段階へ入る。
「えっと…世界中からいろんな人がこの学園に学びに来ていることしか」
「そうだ、貴族の者や大企業の息子など世界中からさまざまな奴が来ている。妙にプライドがでかい奴が多いから気をつけるんだ。次に授業についてだが、この学園は雇い主用の校舎、雇い主校舎ディンスターと使用人用の校舎、使用人校舎ディーナーに別れているから気をつけてくれ、ちなみに寮は一緒だ」
制服まで別れているからまさかとは思っていたが、校舎まで別れていたか。
でも、寮は一緒なのか.....。
この後しばらくはイリア学園長の説明が続いた。
☆☆☆
学園長による説明が終わった後、朱莉に学園内を案内してもらい日が落ち始めたころには生徒達が続々と増え始めてきた。
寮に帰る間、奇異の目で見られとても居心地が悪かった。
寮に帰ってきた後朱莉と別れ食堂で軽く食べた俺は、五階の角部屋である自分の部屋に帰ってきた。
「明日から学校かぁ、上手くやっていけるかな」
そんな事を考えていると、部屋に無機質な音が響き渡る
「朱莉?どうしたんだ」
扉を開けるとそこには、朱莉の姿があった。
・・・・・?なぜかもじもじしている。
「あ、あの美織、明日の事なんだけど途中まで一緒に行かない?」
「.....!そんなことかもちろんいいよ。俺はボディーガードで執事でもあるんだから」
その言葉を聞き朱莉は嬉しそうに喜ぶ。
その姿があまりにも微笑ましくつい笑ってしまう。
俺が笑うと朱莉はぷーっとほっぺを膨らませその後に優しく微笑む。
「そういえば、朱莉の部屋って何処にあるの?」
「隣よ」
「んっ.....!?」
と・・・隣!?
この学園は主人と使用人を別けてるんだから、普通は・・・・・!
「隣なの!?普通は男子はここからここまでとか規制かかってるもんじゃないの!?」
「おかしいよねこの学園、でも主人に問題が起きたときにすぐに使用人が行けないとまずいし、さすがに寝込みを襲うバカはいないどろうってことでこうなったみたい」
それはそれで理にかなっている。
本当に大丈夫なのだろうか。
「それじゃお休み。また明日ね。」
そう言い残し朱莉は隣の部屋に帰っていった。
本当に隣なんだ.....。
というか隣の部屋までの距離が長い!
この寮は一つの部屋が大きいから隣の部屋までの距離が長くなっている。
「俺も寝るか」
☆☆☆
「それでは美織ここまででいいです。行ってきます」
「行ってらっしゃいませお嬢様。しっかりと勉学にお励みください」
この言葉遣いであっているだろうか?さきほどから周りの視線が痛くて自分が執事に見えるかどうか心配だ。
(俺もそろそろ行くか、職員室にも行かないといけないし)
俺は校舎に付けられている時計を見てそう思い、校舎へと向かう。
その途中、見覚えのある後ろ姿が視界に入る。
声をかけようと思ったが、世界から人が集まっているのでただ似ているという可能性があるので、わざとその人の前を歩き顔をチラ見する……何やってるんだろう俺。
前から見た姿は、銀髪銀眼のアシメ。シャルだ。
「おはよう、シャルだよね?」
「あなたは朱莉お嬢様に白い物をぶっかけた変態様。おはようございます」
「それはもういいよ!」
この人まだそのネタでいじってくるか!
「というか変態様って、言葉変だよね。俺の名前は美織だよ。主人に仕える者としてこれからよろしく」
「はい、よろしくお願いします。美織様」
言葉に抑揚があまりないな、表情も希薄。
これでアリス様と上手くやっていけてるのだろうか?あの子、シャルとは真逆の性格な感じがしたけど。
「何か堅いね、俺に対してはそんな敬語使わなくていいんだよ?同じ使用人だし、きっと同級生でしょ?」
俺と朱莉は同い年、昨日の様子からアリスお嬢様も同い年だろう。使用人は基本、同い年の者を仕えさせるって昨日聞いたから、シャルもきっとそうだろう。
「わかりました。ですがこの言葉遣いに慣れたものですから、出来るかどうか…努力はしたいと思います」
「いつからアリス様に仕えてるんだ?」
「私達、シャルロット家は何百年という歴史を持つ使用人の名家でして、代々アリス家に仕えております。物心ついた頃にはアリスお嬢様に仕えていました」
そんなにも長く仕えていたのか。
カーンカーン、とそこに鐘の音が響き渡る。
それは学校の始まりを告げる音。
「急いだほうがよさそうだな」
「はい」
短い言葉を交わしシャルと別れる。
☆☆☆
「席につけー。授業を始める前に転校生の紹介をするぞ、こいつは八雲美織だ。朱莉様の執事をすることになりお前らの新しい友達だ仲良くするように」
職員室での挨拶が終わり、担任の先生である黒葉・F・ロバート先生が俺の紹介をしてくれる。
俺の名前が出るなりクラスメイト達がどよめき始める。
当然の反応か。
教室を見渡すと、シャルの姿が目に入る。どうやら同じクラスのようだ。
黒葉先生が空いている席に座るよう指示を出す。席はシャルに比較的近い所にある。
席に座ろうと動き出すと同時にシャルの近くに座っていた金髪の美青年がゆっくりと席を立つ。
そして―――――
「おい!転校生の、確か美織と言ったな。貴様、女の子を見つけるとクリームをかけたくなる衝動に駆られるらしいな。朱莉様を救ったと聞いたが、それも怪しいところだ。今後僕が仕えるリリー様には近寄るなわかったな」
そう言いながら俺を指差す。
「何を言って・・・」
そこで俺はある事に気づき、シャルの方向を見る。
シャルは俺と視線が合うなり、目を逸らす。
おいー!!!。シャルは俺に恨みでもあるのか!
「そんな事一体誰に聞いたのかわからないけど、俺にそんな性癖はないよ」
俺は美青年をまっすぐに見つめそう返す。
美青年はこちらを半眼で見据えてくる。まるで、本当かぁ~?、と言っているような目を向けてくる。
そこで黒葉先生の仲裁が入り、事なきを得た。
馴れない授業は続き、もう日が西日になった放課後、帰りの支度をしていると先生に話しかけられる。
「言い忘れていたがこれから第二練習場に向かってくれ。ボディーガードを務める以上格闘の技術を身につけてもらわなくてわいけないからな、練習場にはロイス先生がいるからしっかりと指導してもらうように」
先生は、じゃっ、と片手を挙げ教室を出ていった。
教室を出る際に哀れみの目を向けられた気がするが、きっと気のせいだろう。
黒葉先生との話が終わると同時にシャルが近づいてくる。
「先程、ロイス先生と聞こえたのですが…?」
「そうだよ。これからロイス先生に格闘術を教えてもらうんだ、それがどうかした?」
「いえ、だだ…」
シャルはそこで口ごもる。数秒の沈黙が続いた後、哀れみの目を向けながら話す。
「美織様ならきっと生きて帰れます。だから死ぬ気で頑張ってください」
ガッツポーズを作りながら意味深なことを話す。
意味が分からなかった俺は、詳しく聞こうとしたがシャルは教室を出ていってしまった。
☆☆☆
第二練習場についた俺は更衣室で運動着に着替え、ロイス先生がいるであろう練習部屋に向かう。
そこには服の上からでもわかる程筋肉が出ている男の人が立っていた。威圧感が半端ではなく、まるで、マンガのように背中に「ゴゴオオオ」と見えるようだ。
そのままロイス先生は俺の下に近づいてくる。そしてロイス先生は俺の胸全体を手のひらで触ってくる。
最初は俺の筋肉の具合を確かめているのかと思っていたが何かが違う、胸全体を手のひらで触っていたが人差し指に変わり、つぅー、と下半身へと指を滑らせていく。
俺は身の危険を感じ後ろへ勢いよく後退する。
「あらん?どうして避よけるのかしらぁ、後もう一歩で触れたのに」
どうやらロイス先生はオカマらしい。