3話
「何処に向かって入るのですか?」
「これからイリア学園の寮に向かいます」
「イリア学園?」
「はい。イリア学園とは世界からいろいろな方が学びに来る学校です。例えば貴族の方や有名な政治家の息子さんなどいろいろな方が来ます」
現在俺は王女様と一緒にリムジンに乗っている。
父さんからの思わぬ発表を聞かされ、俺は王女様のボディーガード兼執事になってしまった。
(というか普通あんなに快く送り出すものかね。あの親は!)
そう。
俺の両親は俺をひき止めることなくむしろ、いい経験になるだの王女様のため、お国のために頑張れだの笑顔で送り出しやがった。俺の意見も聞かずに。
「美織様、大丈夫ですか?やはり嫌…ですか?私に仕えるのは」
王女様は上目遣いで俺を見ながら訊いてきた。
くっ…そんな顔しないでくれ。
「別に嫌ではないですけど。ただ今まで通っていた高校を出て友達と別れるのは寂しいなって思って。後一番はこんな大役、俺に務まるのかなって思いまして」
今の気持ちを王女様に話すと、王女様は俺のことをまっすぐに見つめ。
「その気持ちはお察しします。でも私は美織様なら上手くできるような気がするのです」
と優しく微笑みながらそんなことを話した。
そんな言葉に俺は思わず目を見開いてしまった。
「一体何を根拠に…しているのですか?」
「女の勘ですかね」
そう言いながら王女様は笑った。
思わず自分も笑ってしまった。
「後、私と居るときは敬語ではなくもっと砕けた感じでいいです」
「いえ.....流石にそれは」
「いいのです。お父様の命令とはいえ無理に連れてきたのですから、それくらいはさせてください」
「ですが!」
「もう!聞き分けが悪いです!私が良いと言ったら良いのです」
王女様はプクーっとほっぺを膨らませている。
もしかしたら王女様は頑固なのかもしれない。
これは観念せざるを得ない。
「わかった!でも場面に応じて態度を変えさせてもらうぞ」
そう答えると王女様は嬉しそうに笑い大きく頷いた。
「後、王女様も俺のことは呼び捨てで良いしため口で話してくれ」
「うん。わかった。じゃ美織も私のことは朱莉って呼んで」
「よし!わかった」
この短時間で王女様との距離がずいぶん近くなった気がする。
朱莉なりの配慮だろうか。
「着きました」
そんなやり取りをしている内に目的地に着いたようだ。
リムジンの運転を務めていたスーツ姿でがたいの良い黒人がそう告げてくる。告げ終わるとそのまま電話を取り出し誰かと話し始める。
この人は朱莉と共に俺の家に来たボディーガードだ。
その人のことを見ると自分に務まるのかと心配になってくる。
「東京にこんな所があったなんて知らなかったよ」
「東京と言っても比較的田舎の方にあるからね」
車を降りて辺りを見渡してみた。
夜の帳が下り詳しく建物を見ることはできないが言えるのは一つ一つの建物がとても壮大なことだ。
アイアンフェンス越しから見える建物も一体どのくらいの規模があるのだろうか。
「ではいきましょうか」
先程まで電話をしていた黒人のボディーガードが俺らに促すとアイアンフェンスが独りでに開き始める。
「これから何処に向かうんだ?」
「目の前の寮の美織の部屋に行くよ」
噴水を通り越し、寮の中に入った俺達。
寮の中は薄暗く、明かりは月明かりだけが頼りだった。
「暗いな…」
「今はゴールデンウィーク中だから、生徒たちは皆出払ってるの。普段はもっと明るくて騒がしいところだよ」
「着きました」
どうやら俺の部屋に着いたらしい。
先頭を歩いていたボディーガードが話す。
「じゃ美織、今日はもう遅いからも早めに寝てね。詳しい話は明日するから」
朱莉はボディーガードを引き連れそう言葉を残し去っていった。
「広っ…!」
部屋の扉を開けた俺は思わず唖然としてしまう。
流石、お金持ちが集まる学校。
ボディーガード兼執事であり庶民の俺の部屋だからあまりいい期待はしていなかったが、侮ることなかれ。
実にいい部屋だ、ソファーもベッドもふかふかインテリアも素晴らしい。
「実は、朱莉たちの部屋はもっと凄いんじゃ!!」
☆☆☆
「コンコン…コンコン」
部屋に扉を叩く音が響き渡る。
俺はその音に目を覚ます。
どうやら自分の部屋に興奮したあと無意識の内に眠ってしまったらしい。
「はい....」
「おはようございます美織。今から学園長の所に行くのだけれど...今起きたみたいだね。クローゼットに制服が入ってるから...」
「制服?スーツとかそんなやつじゃ...?」
「ボディーガード兼執事といっても基本は他の人と勉学に励んだりと普通の学園生活だよ。執事などの仕事は他国に赴いたりした時やイベントの時ぐらいかな」
「なるほど」
「寮の外で待ってるから。用意して来てね」
王女様は「寝癖凄い」と続け、笑いながら去って行った。
☆☆☆
「お待たせ」
朱莉は寮の入り口のすぐ近くにある噴水のベンチに腰を掛けていた。
太陽の光が朱莉の艶のある黒髪と雪のように白い肌を照らし存在感を沸き立たせていた。
今日の天気は昨日に引き続き快晴で5月にしては少し暑い。
「さっそく行きましょ」
そう一言置きベンチからゆっくり立ち上がった朱莉の姿に違和感を覚える。
「...?。何か制服微妙に違くないか?」
「ああ、うん。主人と使用人を分けるために制服を少し変えてるの。でも生徒全員に制服を着せるなら別にこんな事しなくていいと思うけど...」
朱莉は少し寂しげな顔をしながら答えてくれた。
「ごめん。行こうか。学・・・」
「朱莉ちゃん!おっはっよーう!!」
と、そこに一つの声が投げかけられ朱莉の言葉は遮られてしまった。
「わぁ!!!」
いきなり金髪でポニーテール姿の女の子が朱莉に抱きつく。
「アリスちゃん!?」
アリスと呼ばれる女の子が朱莉のほっぺにすりすりしている。
そしてそこに後ろから声がかけられる。
「アリスお嬢様、はしたないですよ」
声がした方向を振り向くとそこにはメイドさんが立っていた。
銀髪銀眼でアシメの女の子が。
「固いこと言わない言わない、シャルちゃん」
シャルと呼ばれるメイドさんがアリスお嬢様を引き剥がそうとお嬢様のもとに近寄るが、ふと俺の方を振り向き俺の顔をまじまじと見る。
「朱莉お嬢様この方は確か・・・」
「はいそうです。ニュースで知ってるとは思いますが、こちらは八雲美織様です。そして私の執事となりました」
朱莉の口調が改まり俺の紹介をする。
そんな俺をまじまじとシャルとアリスお嬢様が見てくる。
「この方が朱莉お嬢様に・・・」
「白い物をぶっかけた奴か!」
「「!!!」」
シャルに続けてのアリスお嬢様の発言に思わず俺と朱莉は目を見開く。
「あれ違ったの?ニュース見てないからシャルに聞いたんだけど」
「な…なに…何を…」
朱莉は顔を真っ赤にしとても狼狽えている。
「お…おい!あんた一体何て事を言って!」
まずい、つい焦ってしまって言葉が素になってしまった。
「何をとはパイのことですよ?白い物であながち間違えではないかと…えーと、美織様は何と勘違いされたのですかぁ?」
ニアニアしながら訊いてくるな!
この人絶対知っててわざと…ドsだ…。
「朱莉ちゃんどうしたの顔真っ赤にして?」
「まっ…真っ赤になんてしてないわよ!」
「ところで一体何とかんち・・・」
このまま追求されてはいけないと思い俺はアリスお嬢様の話を遮る。
「朱莉お嬢様!確か学園長の所へ行くのではなかったでしょうか!」
「あっ!そ…そうだったわ。行きましょう美織、またねアリスちゃん、シャルちゃん」
俺と朱莉はその場を急いで後にした。